第3話 見えない美少女 12:55
変化。
時計の針が12時55分を指し示した頃、俺達は教室の前の廊下に居た。
「翔太よ……部活もちゃんと頑張るんだぞ? 俺の美貌とお前の筋肉が有れば落ちない女は居ないからな」
「ふぁいと〜」
「水分しっかりとれよ〜」
「うん、じゃ」
部活の為グラウンドに行く翔太と別れた俺達は、駅へと向かった。駅へと着くと、次の電車が来るまでに10分程余裕があったので待合室で待つ事にした。
「国史はこれから何すんだ?」
「うーん、俺か? 取り敢えず今日は、知人鞠駅前に出来た喫茶店に行くつもりだな」
知人鞠駅周辺はここら辺でも大きな街で、多くのビル群が立ち並んでいる。俺の家から学校までにあったビル群がそれだった。
「あー、あそこの喫茶店な……って、また食うのかよ」
「デザートは別腹だ」
「ブラックホール過ぎ。どれだけ食べるのさ」
「2人は
「「行かない」」
「だよなー……」
2人にも用事がある筈。こんな急に誘われても難しいか。それに2人の家は知人鞠駅からは反対方向。お金も掛かる。
納得すると、待合室のマイクからアナウンスが聞こえて立ち上がる。
「じゃ、また明日」
「おー、因みにオススメはプリンな」
「また明日」
2人と別れ、電車へと乗る。昨日と何も変わらない風景に思わずボーッとする。
短い時間にも関わらず、親友と長くとも感じる楽しい時間を過ごす。何のしがらみのない日常。
この何気ない楽しい日常が、いつも続けば良いのにと、つい思う。
そんなボーッとしてる間にも、知人鞠駅へと着き電車を降りて、喫茶店へと向かう。
「へー……結構混んでるな」
駅から3分にあるその喫茶店は、茶色の木造で出来た小さな建物で出来ていた。ビルが立ち並ぶ中、自然に囲まれているかと錯覚する様な、花等が育てられたプランターが異様さを醸し出している。
入り口からは5人程人が並んでおり、扉横にある黒板にはおススメが書かれていた。アレクが言っていた通り、プリンがオススメに書かれているようだ。
絶対プリン食べよう。そう思いながら最後尾へと並んだ。前に並んでいるのは、多くが女子だ。此処らへんの高校の女子なのか、それともイン◯タグラマーなのかは分からないが、オシャレだからと来るのは違うのではないだろうか。
喫茶店はゆっくりとした時間を過ごす所。そんな所でパシャパシャと写真を撮られるのはとても不快だ。
「はぁ……これだから女は」
俺は前から聞こえて来るキンキンとした女子達の声に、少しイライラしながらも店内へと入った。
店内はアンティーク調の小物が多く揃っていて、カウンターとテーブルが立ち並ぶ素敵な店内となっている。
「いらっしゃいませ〜、空いているお席にどうぞ〜」
もう繁忙時は過ぎているであろうカウンターの中には、店長らしきオジサンが1人で忙しそうにしていた。俺はオジサンに促され、唯一空いていた端っこのカウンターの席へと座る。
中は大体女子か、カップルが座って楽しそうに談笑しており、男子で1人なのは、国史と丁度隣に座っていたダウナーっぽいオシャレ男子だけだ。
……こんなに女子が多いとアイツらが来たら大変な事になってたな。
俺は内心ホッとしながら、席に備え付けられていたメニュー表を開いた。
ふわふわフレンチトーストやイチゴパフェ、朝にぴったりモーニングセットと言うのもあるが、やはり推しているのはプリンのようで、手を挙げてオジサンを呼ぶ。
「すみません、プリンを1つ」
「申し訳ありません。プリンはもう売り切れてしまっていて……他のなら全てお出し出来るんですけど」
「あー……」
この繁盛っぷり。しかも1人で切り盛りしてるとなれば数量もそれなりになってくる。しょうがない。
「じゃあこの『ホットケーキ』をお願いしても良いですか?」
「はい、かしこまりました。少々お待ち下さい」
オジサンは綺麗なお辞儀をして行った。
客層は女子ばかりで居心地が悪いが、それ以外は満点な様だ。
次来る時はもう少し早く来てみようと大きく溜息を吐こうとした時、右肩を叩かれる。
「あの、すみません」
「え、はい?」
此方をまっすぐと見つめて来るのは、隣に座っていたダウナー男子だった。
ダウナー男子は自分の前にあるプリンの乗った皿を、指の腹で此方へと押し出した。
「良かったらですけど、これ食べます?」
「え、良いんですか?」
「えぇ。俺甘い物苦手なんで」
改めて皿を見ると、見た限りそのプリンには何も手をつけていなさそうだ。甘い物が苦手なら何で頼んだかと思うが……そこまで言うなら食べてやらん事もないだろう。
「じゃあ、すみません。遠慮なく食べさせて貰いますね」
「……」
ダウナー男子から返事は返ってこなかったが、俺はプリンに口を付けた。
濃厚な硬めのプリンに、少しほろ苦いカラメルソースが国史の頰を緩ませる。
いや〜、ここは当たりだな! お勧めしてるだけはある!!
俺はあっという間に完食し終わると、店長に皿を下げて貰う。ホットケーキが来るまでもう少々お待ち下さいと言われ、スマホのソーシャルゲームでもやるかとスマホを取り出した、その時。
「ごめん祐希! お待たせ!」
何処か聞き覚えのある声が後ろを通過する。同時に漂う、嗅いだ覚えのある花の匂い。
「いや、全然! でもごめん! 先にプリン食べ終わっちゃった!」
「いいのいいの! お腹減ってたんでしょ………え!?」
彼の隣は何故か空いていた。そこにはプリンが置かれている。
そう、彼は1人で来ていなかったのだ。
「何でコイツが……!!!?」
彼女は顔を最大限に歪め、俺は思わず大きく目を見開いた。
彼女は、男子更衣室でシャワーを浴びていた女子だった。
「面白い!」
「続きが気になる!」
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