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終章.ヘタレ女は永遠に

 公園を秋の風が吹いていく。

 夏休みは異世界に行って戦ってきました――――なんて、今でも現実とは思えない。

 エスランディアから帰ってきた日、母は喜びすぎてギックリ腰になり、父は叫びすぎて近所から苦情が殺到し、弟は泣きすぎてぶくぶくの顔になり、翌日図書館で待ち合わせていた彼女が弟とわからなかったらしい。

 で、今私はここに居る。

 で、小塚君も。


 私は国王の謁見の時に小塚君が言った言葉を思い出す。


「トーガなき後、イスパニエルは混迷しています。これからまた揉めてそして国として立ち直っていくのでしょう。このような時に申し訳ありませんが、僕はまたあの世界に戻っていろいろな政治体制を勉強したいんです。そして経済も。どういう政治が民衆を幸せにするのか、エスランディア王家の今後のあり方も含めてもっと勉強したいんです」


 本当は手元に居て欲しかったと思うんだけど、彼のお父様は反対しなかった。

 ベタベタした愛情では無いけれど、あの二人の間には強い絆があるのよね。


「でもさ、外動さん、変わったよね。気が強いところは以前のままだけど、意地悪しなくなった」

「ははは、彼女もあなたと一緒に行動していろいろ感化されたんでしょう。ま、彼女も僕の命の恩人だからあまり悪口は言わないでおきますね。でも、あなたに何かするようであれば言ってください」 


 小塚君は私の顔をのぞき込む。


「絶対に許しませんから」


 彼の瞳がまっすぐに私を見て、舞い上がりそうに幸せ。


 でも、私の奥に巣くっているヘタレ女がささやくの。

 お前の外見は以前と何にも変わってない。いつか王子の趣味が変わったら、お前なんかすぐ捨てられるに決まってる。

 もう、こいつ大嫌い。出て行って欲しいけど、きっとこいつとは永遠に一緒。


「どうしたの?」うつむいてしまった私に小塚君が声をかける。

「小塚君は、私のどこがいいの? 不細工で、足だって太くて、こんなに好きだって言われてもまだ信じられないほどひねくれてて、暗くて――」

「君は最高のレディだから」

「嘘よ、がさつで、気品がなくて」

「君は謙虚だ、そして、君の瞳は――哀しみを知っている」


 哀しみ。

 それはずっとヘタレた私が感じていて、そして受け止めて、諧謔(かいぎゃく)に変えていた感情。

 (いさか)いを怖がり、ひたすら平穏を望むヘタレ女が奥に住んでいたから、今の私になったのかしら。


「もう、これ以上言わせないでくれ」


 小塚君は手を大きく広げて、硬直した私を抱きしめた。強く強く。


「今まで僕が探していたのは間違いなく君だ、僕の姫」


 それにしても、幸せすぎてまだ信じられない。まるで夢を見ているよう。


「ひ、ひねってください。ほっぺたを」

「は?」

「私、夢を見ているんじゃ……」

「じゃあ、そっとつまんでみようか」


 ああ、以前もこんなことがあったっけ。

 失神して一緒に帰った日のことを思い出す。


 小塚君は微笑んで私の頬を指でつまむ――――え?


「それより、もっと楽しいことをしましょう」


 そのまま指は滑るように動いて顎をそっと引き上げる。逃げられないほど強く抱き寄せられて――。

 彼の顔がそっと私に近づいて来た。 


                       ――了――

 ここまでお読みいただき本当にありがとうございました。「溺愛」を書こうと一念発起し、書き始めたのですが、いつの間にか「溺愛」とはほど遠い、趣味に走った恐竜アクション展開に……。すみませんでした。今度はいつか本当の「溺愛」を書いてみたいです。いつか。

 これからもよろしくお願いいたします。

 

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