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24.望まれざる登場

「僕の故郷、エスランディアは小さいけど、人族と獣人が仲良く暮らす平和な国です。そして隣国のイスパニエルは我が国よりもずっと豊かで大きな国で、音波を使った科学もどきの魔法がすすんだ人族の国です。今まで二国はうまくやっていたのですが――」


 小塚君、いやエスランディアの王子様は目を伏せる。


「イスパニエルに政変が起ったのです。王が武力を行使した一群に襲われ、トーガという男にその座を奪われました。彼によってイスパニエルの王族は追放され、政治形態は彼の独裁となったのです。それでもしばらくはエスランディアとの関係は安定していました。しかし、トーガは無理矢理自国を平定すると突然我が国に攻め入ったのです」

「なぜ? イスパニエルはエスランディアより豊かな国なのでしょう?」

「彼らはイスパニエルにはいないエスランディアの獣人達を支配下に置きたかったのです。力も強く運動能力に優れた獣人は兵士としてうってつけです。生粋の獣人だけではなく、エスランディアは国民全体が多かれ少なかれ獣人の血を引いていますから、全体として運動能力が高く、潜在的な軍事力があるのです。その力は他国の併合をもくろむトーガには是非とも欲しいものでした。イスパニエルは我が国が軍備を整える前に宣戦布告もなしに突然攻め入ってきたのです」

「エスランディアは勝ったのですか?」

「かなりの犠牲を払って、かろうじて押し返しました。軍勢の先頭に立ち執拗に責める敵を押し返していたのは、獣人の女王でした。しかし、その戦い方は身内でも眉をひそめるものがいるほど酷薄で無慈悲。ですが情け容赦ない彼女がいてくれたからこそ我が国は侵略を逃れたのです。彼女が国王に褒美として要求したのは、私の許嫁の座でした。しかし、休戦後、彼女は相手方の導師の奸計によって異世界に転生させられたのです」

「それで、あなたはこの世界にやってこられたのですね。許嫁を探して」

「ええ、私には彼女を探す責任があります。そしてエスランディアは彼女なしには戦えないことも明白でした。だから――」


 王子は大きなため息をついた。


「僕は君をここから連れ去るつもりでした」


 山の頂上をびゅう、と風が吹き抜ける。その音は木々を揺らし弦の様に響き渡った。

一度、言葉を切った王子はじっと私を見つめた。

 私の心は決まっている。もし呼んでもらえるのなら、どこにでもついて行く。


「今日はこの地点で私たちの世界と座標が重なる接日という日です。本当なら僕らがエスランディアに戻る時に、あなたも同行してもらうつもりでした――――でも、それはやめました」


 風の音が流れる。


「だから今日は君との最後のピクニック。これでお別れです」


 それだけは聞きたくは無かった。


「嫌です。王子達だけを返すなんて。私も――」

「あなたと会えて幸せでした。純粋で可愛いあなたを見ていると、すさんだ心が温かくなる。あなたは僕の心の拠り所でした。でも、好きだからこそ離れないといけない時もあるんです。あなたを好きになればなるほど、僕は君の近くに行くことさえ躊躇するようになった。君がいくら強くても関係ない、僕は大切な君を危険な目にあわせたくなかったんです」


 小塚君がなぜ私から距離を取っていたか。私は一人でうじうじ不安になっていたけど、彼も悩んでいたのだ。私を大切に思ってくれていたのだ。

 でも。でも、私はあなたのそばにいたい。ゆずれない、これだけは。


「嫌です。付いていきます、王子」


 その時。


「はああん、使用人のくせに身の程知らずもいい加減にすれば?」


 振り向くと、風に長い髪をなびかせた外動さんが立っていた。

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