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17.獣人と人族

「もう、こうなったら二人にも話しておかないといけないね」


 ソファに腰掛けた外動さんと冷石さんに小塚君が話し始める。


「少しは知っているかもしれないけど、僕はこの世界に一部接している別の世界の住人なんだ。僕が来たのはエスランディアという王国で、僕はそこの王子。飾西と羽光、この二人は僕に仕えてくれている騎士達だ」


 羽光君と飾西君はあらためて女子二人に軽く頭を下げる。見た目普通の高校生だけど、騎士と聞くとなんとなく格好良さ倍増だ。


「羽光は生まれも育ちもエスランディア。生粋のエスランディアっ子で、獣人の一種、翼人の家系だ。」

「エスランディアにだけ、恐竜の子孫と、哺乳類の子孫が共存しているのね」

 冷石さんが首を振る。「不思議ね、おとぎ話のようだわ」

「僕とこの飾西は人族に入るが、長い年月のなかで誰しも多かれ少なかれ獣人の血が混じっている。飾西は生まれはエスランディアだが、育ちはこの世界だ。だからこの世界の機械にも詳しいし、時々行き来することで双方の文化にも精通しているんだ。僕にこの世界の様子を教えてくれていたのも彼だ」


 だからこの世界の情報処理技術にも詳しかったのね。すっかり快復して隅っこですました顔で座っている飾西君を見て私はほっとする。


「僕は、ここに許嫁を探しに来たんだ」


 王子の言葉に外動さんが色めき立つ。


「もしかして、その許嫁って?」


 外動さん、勘違いしないで。あ・な・た・の・こ・と・で・は・な・い・の。

 私は、笑みを浮かべて心の中でちょっと強気につぶやいてみる。

 外動さんのお株を取るって感じかしら、ほほほ。


「みんなも、良く知っている人だよ」王子が悪戯っぽい目でじっと私を見ている。


 陰険二人組はぽかん、と口を開けて、信じられないといった風にこちらを見る。

 私は鼻を膨らませて、さらに目一杯高慢な微笑みをかえしてやった。

 いいよね、これくらい。

 

 ねえ、自分。もっと自分を認めてやらない?

 そろそろ、ヘタレを脱却していいんじゃない。

 なんだか私は、少し自分を好きになりかけていた。



 しかし、家に帰って現実を目の当たりにしたとき、疲れもあってか私の心には不安しかわき上がってこなかった。心はどんよりと薄暗い。

 警察とか来たらどうしよう。

 私が獣人だってばれてしまったら……、あの意地悪二人組本当に信じていいのかしら。


「どうして黒田さんが獣人で、許嫁ってわかったのよ?」


 あの後も外動さんは食い下がっていた。よほど悔しかったとみえる。


「エスランディアの導師達がこの獣脚丸を通してやっとかすかな姫の波動を掴まえたのはつい半年前だった。二年前のイスパニエルとの戦いで、身を挺してこの国を守った姫は敵の計略にはまり、過去座標に送り込まれていた。それもただの転移では無く、転生だ」

「転生?」

「この世界のどこかの受精卵に転生したんだ」


 小塚君の説明するところによると、彼の世界の生命にはその情報をすべて詰め込んだ波動があるとのことだった。いくら魔法でも人体の過去への転移はできないが、この世界の受精卵にその波動だけを送ってシンクロさせることで、獣人としての情報が重ね書きがされるとのこと。その結果、人でもあるが獣人でもあるキメラとして転生することとなる。

 私が家族と全く似てないのは、そういった訳か。

 軽くため息。普通の人生を歩みたかった。でも、そうだったら私は小塚君と会えなかった。

 やっぱり今の人生がいい。


「その波動を掴まえたって訳ね」頭の中で外動さんのキンキン声が蘇る。

「ああ、でも最終的に姫の波動は獣脚丸を介してしかわからない。この学校内ということはわかっていた。だけど、ノイズが多すぎて最初はわからなかったんだ。だけど――」


 体育祭の全員参加色別対抗リレー、鈍足の私が必死になって走っているときにその波長が王子に届いたらしい。高揚すると、激しく波長が出ることがあるらしいんだけど、もしかして私必死すぎてかぎ爪でも出ていたのかしら。


「彼女が心の優しい人だと気づいて、僕はとても嬉しかった」


 それからの日々が頭の中に走馬灯のように流れる。と言っても、せいぜい2ヶ月足らずなんだけど……。


「姫、やっぱり僕との事は思い出しませんか? 名前だけでも……」


 列車でそれぞれの家に帰った別れ際、駅で見せたちょっと寂しそうな小塚君の顔。

 ごめんなさい、思い出さないの。王子と呼んでいた記憶はかすかにあるんだけど。

 時空を越えて転生して記憶喪失になったのかしら。

 前世の小塚君との楽しい思い出をすべて失ってしまった私は、喪失感に苛まれていた。

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