Ⅵ.蹴撃
「変身」
ニシオカの体表が熱を帯びて歪んでいき、硬化した。
2本の角が額から伸び、大きな複眼を備えている。
「ハッ」
そう声をあげ、交差した腕を開くと、体色は金属のような光沢をもつ暗いオリーブ色になった。複眼は赤い。
クモの翅徒はニシオカをすぐさま敵と認識し、腕から粘糸を出そうと構える。
しかし、ニシオカが反射的に蹴りでその腕を払うほうが早かった。
翅徒が怯むと、間髪入れずに中段、上段に蹴りを入れる。
「得意技は打たせやしないよ」
翅徒は粘糸でニシオカの動きを封じることは諦め、3対の腕で接近戦を挑もうと近づく。
ニシオカは翅徒の考えを読んだのか体勢を低くし、突進でカウンターをした。
常人であれば決してスピードが出る距離ではない、僅か1歩2歩くらいの間合いだが、変身したニシオカの強靭な脚力は詰め寄る翅徒に対して、十分な破壊力を持っていたようだ。
翅徒は3メートルほど吹き飛ばされ、胸の外殻が割れている。もう自力では起き上がれないほどのダメージを受けているようだった。
「ふぅ~...トドメ刺しますか」
ニシオカは翅徒の割れた胸に腕を深く突っ込み、なにか管のような臓器を引きずり出す。
すると体液が外殻から溢れ、ニシオカの体にも飛び散った。
「うん! これでもう大丈夫!」
ニシオカは明るくそう言うと、ユウスケを拘束している粘糸を千切りはじめた。
「あの...その翅徒を狙撃したのって、ニシオカさんじゃないですよね?」
「うん。今朝、助っ人を呼んでおいたんだよね。すぐ来てくれて良かった...ていうか2日連続で襲われるなんて、相当好かれてるね~キミ」
「ハハハ...何でなんですかね...?」
そこから約1キロ離れたビルの屋上では、スコープ越しに2人を見つめる少女の姿があった。