Ⅴ.狙われる者
翌朝。ユウスケはニシオカのマンションのリビングで目を覚ました。
昨夜はいろいろありすぎて遅くなったために泊めてもらったのだ。
ニシオカからの置き手紙とキャッシュカードがテーブルに残されており、自分は仕事にいく旨とリュウジが回復するのにもう数日かかるだろうから、ここにいるなら食事は出前を頼むようにと書かれていた。
「ニシオカさんお金有り余ってそうだけど...なんの仕事だろ...?」
俗な疑問を抱きつつ腹も空いたので、さっそく出前でも頼もうかと思ったとき、リュウジがいないことに気がついた。
「リュウジさ~ん? いますか~? ...まだそんなにウロウロできる感じじゃなかったけど、どこ行ったんだ?」
どうやらこの部屋には居ないらしい。放っておくわけにもいかず、ユウスケはリュウジを探しに外へ出た。
近くのコンビニ、スーパー、ギャンブルするタイプには見えないがパチンコ店も見て回った。しかし、そもそも出会ったばかりでどんな嗜好があるか、どこに住んでるのかもわからないため、全くといっていいほど見当がつかない。
「せめて連絡先くらいは聞いておけば良かったな...」
しぶしぶユウスケはニシオカのマンションに一旦戻ることにした。もしかしたら入れ違いになっただけかもしれない。
引き返そうとしたそのとき、ユウスケは突然、なにかに体を拘束された。
顔と手の感触からクモの糸のような粘性の網であるようだが、強力に絡んでほどけない。
「なんだこれ...! 気持ちわりぃ!」
そこに昨夜襲ってきた異形ーー翅徒が現れた。昨夜の個体よりも小柄だが、腕が1対ほど多いクモのような見た目なのはユウスケにも分かった。
「またこいつら!? なんで2日つづけて...!?」
クモの翅徒はさらにユウスケの体を粘糸でグルグル巻きにしはじめる。
このままでは巣に持ち帰られて生きたまま食われるか、発酵してから食われるかだなとユウスケは思った。
その時、突然クモの翅徒がのけ反った。一瞬の後に、タァンという発砲音のような音が聞こえ、木霊する。
もう1度、今度はハッキリと翅徒の腹部に何かの攻撃が数発命中したのをユウスケは見た。
そしてやはり直後にタタタタンという発砲音。
攻撃された後に音が追い付くという現象の違和感に戸惑い、ユウスケは混乱していたが、これがスナイパーによる狙撃だということに気がついた。
音速よりも弾丸のほうが速いため、遠距離の狙撃ではこういった現象が起こる。
「ユウスケ君! 生きてるか!?」
どこからかニシオカの声がした。身動きが取れないが、近くにいることは分かった。
「生きてます! リュウジさんを探してたらこうなって...」
説明はあとでいい、とニシオカは言った。
クモの翅徒とユウスケの間に立つと、ニシオカは足を肩幅に開き、拳を握りしめ胸の前で交差させて呟いた。
「変身」