妹の前で婚約宣言を(マリエ視点)
姉のリリーが出て行って、2週間が過ぎた。
今頃のたれ死んでいるかもしれない。
「お父様、どうするの?お姉様がいなかったら…私は…」
「大丈夫だよ、マリエ。熊族に頼んで探してもらっているから」
「このまま見つからなかったら、私が猫族に嫁がなくてはいけないの!?」
「私のマリエに、そんなことは絶対にさせないわ」
父も母も、いつだって私の味方でいてくれる。
「今日は久しぶりにパーティを楽しもう、な?」
そう言って父は私の肩に触れた。
触れられた手から、ぞぞぞ、と菌が這い上がってくる気がしてきた。
(きったねぇ手で触んなよ)
「狼族のパーティなら、色んな種族が集まるわ、ほら貴方の好きな…」
ぱちん!と両手を合わせた。
「アルテミオ様!」
「そう、アルテミオ王子もいらっしゃるわよ!」
(そらいるだろ、王族主催のパーティなんだから。バカか)
父も母も私のご機嫌取りに必死である。
馬車に揺られて、ふと外を見ると、青と白の美しい色合いの狼族の城が見えてきた。
(アルテミオ様、初めてお会いしたときは、その美しさに見惚れてしまったほど)
狼族の王子は、私を金色の瞳で射抜くと、微笑んで挨拶してくれたのを覚えている。
流れるような仕草だった。その所作に見入って、恋に落ちてしまった。
「アルテミオ王子も、きっと美しいマリエをお気に召すだろう」
(いいからその手を早く退けろよ)
私はふふっと微笑む
「そう、そのように微笑めば殿下もマリエから目が離せなくなる」
(うるせぇな、口を塞げやジジイ)
「兎族の女は弱々しい見た目が魅力なんだから、しおらしくしてなさいね」
(お前もだ、ババア。大概にしろ)
「マリエは本当に可愛らしいな。リリーのあの恐ろしい見た目と大違い」
「白髪頭に悪魔の目と比べないでくださいな」
私はにっこりと笑って闇の感情を殺した。
「おお、勿論だ!すまない」
(ついでに手も退けろよ…)
ついにアルテミオ王子に会える。
期待に胸を膨らませて会場に入った。
みんなが私の美しさに振り返り、感嘆のため息を漏らす。
でもダメ。
私は、私を誰にも渡さない。
私に触れて良いのは、アルテミオ様一人だけ。
頭上から声がする。
「皆さま、本日はお集まり頂きありがとうございます」
アルテミオ王子が、中央の階段から降りてきた。
しかし、その手を取っていたのは、姉のリリーだった。
意味がわからない、状況が理解できない。
血が逆流して、上下がわからなくなる。
まるで、ぐにゃっと足首が曲がってしまったみたいに、立っているのが困難だ。
(何を見せられているの?なぜお姉様がここにいるの?)
両親も口をあんぐりと開けて放心している。
私は激昂した。
正常な判断ができず、アルテミオ様とリリーの間に割って入った。
息も切れ切れに言う。
「アルテミオ様?なぜ、あなたはお姉様の手を取っているのですか?」
「なんだお前は。誰だ」
赤い目を細めて、お姉様は言った。
「紹介します。私の妹のマリエですわ」
キッと姉を睨む。主語が逆だ。私がそこに立つべきであるからだ。なんなら、お姉様を紹介する必要すらないのに、なぜ私が姉から紹介されているのだろう。
「ほう、君がリリー姫の妹君か。全然似てないなあ」
姉はその口を閉じない。
「教育がなっておらず、大変申し訳ございません」
「君が謝ることはない、妹君には以前お会いしたことがあったかと…」
(ああ、覚えてくれていた)
私は思考の勢いそのままに、早口で言った。
「アルテミオ様!私のことを覚えてくださっていたのですね!?」
私は笑顔でアルテミオ様の手を取る。
しかし、その手をバシッと叩かれた。
(え?)
微妙な笑顔のまま、私は固まった。
アルテミオ様も笑顔だ。
「触らないでくれるか?」
「アルテミオさ、ま?」
私をすり抜けてアルテミオ様と姉は、手を取り階段を滑らかに降りて行った。
「本日は皆様に私たち二人の婚約を宣言する。僕は兎族の姫、リリー・マゼランを妻として迎える」
背中で聞いたのは、最悪の言葉だった。
続きは明日15時頃投稿します。
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