牢にて(アルテミオ視点)
戦争を仕掛けた方が負ければ、当然その敗戦国の王と王子は処刑されるのが筋である。
「おい、タントレ」
牢の向こうにいる男は、身じろぎ一つしない。
「猫の王、お前の父君は、どうやら今回の奇襲に反対だったらしいじゃないか。どうかどうかと頭を下げて、猫の城は無血開城となったぞ。それで君の父君は立派に王の務めを果たされ、その責務を全うされた。潔い最後だったと聞くぞ」
ぴくり、と耳だけが動く。
「僕も幼い頃から父君のことは知っているからな、なんとかならないか思案したんだが…。父君の方から、「そうは道理が通りますまい」とそう言われたんだと。立派だな。お前とは大違いだ、うん?タントレ」
がちゃん!
「僕は!僕はな、お前が嫌いだったよ、アルテミオ!!!」
「…どうやら、そうらしいな」
「どうやって殺してやろうかって、そればっかり考えてたぞ?うさちゃんも取っちゃうしさぁ!」
「リリーをそんな呼び方するな」
「けっ!早く殺せよ!バァーーカ!!」
「いや?まだまだ聞きたいことがあってな。…これ、いつかタントレに融通してもらった魔法のカード…」
「あぁ!?」
タントレの目がこれでもかと剥かれた。
「覚えているよな?僕はリリーと離れる懸念があった。君が東奔西走用意してくれたものだと聞いたが…。ほら、二対四枚あるだろう?面白いことに、二分の一に毒が仕込まれていたんだよな」
「くっ!!!」
「これ、対となるカードを持っている相手と遠方でも会話ができるものだったよな。どうやってその魔法を発動させるんだったっけか?なあ、タントレ、もう一度教えてくれよ」
だらだらと冷や汗をかいて、俯く。
「く、くちづけ…」
ぽんぽんと手のひらを叩いた。
「そう、そうだ!これを貰ったのは戦争になる前。つまり、君には戦争とは関係のないところで他国の王族を殺害せんとした罪も加わるわけだ」
「あ、あ、アルテミオ!!なあ、いや、これは、行き違いで…本当は…」
「本当は、なんだよ?今更怖くなったのか?」
戦争となれば、他国の王の首を狙うのは当然だ。だがしかし、戦争前に殺害の計画があったのだとするならば、それは別の罪に問われることとなる。
「い、嫌だ、それだけは…」
「…父君から何も学ばないのだな、君は」
僕は踵を返して、牢を後にした。
「アルテミオ!!アルテミオ!!!!嫌だああああ!!!!」
いつまでもタントレの声がこだましていた。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「まだ煙の匂いが抜けませんが、騙せて良かったですね」
何のことはない、正門の前で爆竹が大量に爆ぜただけのこと。
だが、遠方の敵を欺くのには十分すぎた。
「セバスチャンのお陰だ。さすが名軍師だな」
ぺこりとお辞儀するその軍師の髪はグレーがかっているが、その目は猫の目だ。
「…アルテミオ王太子殿下、作戦で一時とはいえ、猫の軍勢加わりましたこと、大変申し訳ありませんでした」
「まあ!」
「そんなもの気にするな、セバス!リリー、この男は律儀に足が生えた様な男なのだ」
「せばす……」
リリーは、その強面軍師をちらりと見た。
「リリー王女殿下、お初にお目にかかります。ご挨拶が遅れてしまい大変申し訳ございません。アルテミオ殿下に目をかけていただき、狼族の軍師を務めております、名はセバスチャンと申します」
「長い長い!そんなに恐縮しなくて良い!」
僕はそう言ったが、リリーも負けじと丁寧に挨拶した。
「ええ!セバスチャン様は私よりも二つ年下ですか!すごい貫禄ですわ…」
「リリー殿下、どうか気軽にセバスチャンとお呼びください」
「ではセバスチャン、随分と苦労されたと聞きました。暫くは心の休まることを進んでされてくださいね」
「リリー殿下も大変な環境だったと聞き及んでおります。これからはアルテミオ殿下と幸せになってください。家臣として、リリー殿下の様な愛らしい方とのご婚約を心から嬉しく思っております」
(なんか、気が合うかもしれないな、この二人…)




