猫の王子、タントレ・ガスターの思考(1)
猫の王子タントレ・ガスターはある日気づいた。
「アルテミオが気に食わない」
幼い頃からタントレとアルテミオは、まるで兄弟の様に仲が良かった。
というのも、二人の剣術の師匠は猫族きっての剣豪。
二人揃って毎日遅くまで剣の稽古に明け暮れた。
剣術に関してはタントレの方が何倍も筋がよく、アルテミオは何年かかってもタントレに勝てなかった。
「いつかタントレに勝ってやる!」と言われて、追いつかれないようにタントレ自身も相当に努力した。
師匠からも、「タントレのように太刀筋がブレないように。大きく振りかぶるのではなく、刺すように。タントレを見てみろ」と幾度となく言われていたのに、ある日突然タントレはアルテミオに負けた。
それは偶然の負けだった。
ちょっとだけ、ほんの少しだけ気を抜いた。
ところが次の日も負けた。
ちょっとだけ、気迫に負けた。
そして次の日も負けた。
太刀筋が明らかに違った。
更にまた次の日も負けた。
もはや剣の重みが違った。
それから立て続けに負けた。
その頃にはもう、アルテミオの目が違った。
そしてタントレはアルテミオに勝てなくなった。
どんなに努力しても追い越せなくなった。
追われる側が追う側になったのだと気づいた時、とんでもない殺意に苛まれた。
アルテミオに会ったら殺してしまうと思った。
それでもう、師の下で剣を習うのは辞めたが、アルテミオに会わないわけにはいかなかった。
祝賀行事だの、パーティだのでどうしても顔を合わせる。
しかし、タントレは意外にも殺意を覆い隠すことができた。
なるほど、自分は思っていることと反対の言葉がスラスラ出てくるんだなと思った。
聞こえの良い言葉とは裏腹に、殺意は膨らむばかり。
いずれ自分でコントロールができなくなった時のことを考えるとゾッとした。
タントレがその様なことで思い悩んでいた時、兎族の姫君の成人パーティに参加した。
タントレはパーティの主役のリリー姫を見た時、その弱さに、扱いやすそうな雰囲気に、目が離せないほど惹かれた。
「あの姫は、僕の衝動を満たすのに丁度いい」
壊れた時の美しさを想像すると、昇天しそうになった。
殺さず、しかし生かさず、この暴れ出しそうな自分の内面を全てあの姫にぶつけてしまおう。
猫族特有の細い瞳孔が丸く開く。
あの白い髪の毛は血で染まり、白眼は赤い瞳と区別が付かなくなり、だが人の前に出るときだけは美しく飾るのだ。
心が折れた人を見るのは、なんとも愉快だろうな、と想像する。
妹姫を可愛がってばかりの兎の王も王妃も、リリーが壊れたって気にもとめないだろう。
いや、気が付かないだろう。
嫁いだら最後、会うことすらないかもしれない。
狡いじゃないか、あんなに面白そうなおもちゃを城に閉じ込めて。
そして、ようやく結んだリリーとの婚約は、しかしアルテミオの手によって白紙に戻された。
またしてもアルテミオに横取りされた。
だが、あいつの前で悔しがることだけはしない。
あっさり負けを認めよう。
その代わり、きっちり精算する。
そうだなあ、まずはリリーをどうにかしてしまおう。
それからアルテミオをじっくり壊そう。
タントレはお気に入りの椅子から、ゆっくり立ち上がった。
続きは明日15時ごろ投稿します。
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