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狼王子に溺愛された兎姫  作者: あずあず
バッドエンドルート〜23話まで
15/40

ふわふわの髪の毛を撫でてみる

ざわつく会場で、一人うなだれている鷹の姫が何とも気の毒に思えてしまった。

美しさゆえか、なんとも儚げだ。

鷹の姫君、イリス・セントナードはこうして連行されていった。


パーティは騒めきの中幕を閉じ、今はアルテミオと二人、静まり返った狼城の一室で紅茶を飲んでいた。


「あの様な、大勢いる場で突然求婚してすまなかったね」

ぽつりとアルテミオは言った。


その長いまつ毛が伏せられる。


「ああでもしないと、全員を黙らせることは難しいと思った。軽率だっただろうか?この二日間考え通したことなんだが…」

「あの場にいた全員が証人ですものね」

それに、求婚自体はこの城に初めて来た時に受けているのだからーー


「それよりも、イリス姫は彼岸花の毒を盛ってアルテミオ様を殺めようとしたのですか?」

一体なぜ?

「殺めるほどの毒性はないが…重篤な症状だと神経麻痺になるそうだ」


ますます分からない。


「そもそも、結ばれた婚姻自体にその思惑があったんだろう」

「まさか!」

「僕を使い物にならなくさせて、狼族を牛耳ろうという、つまらない企てだ。今、彼女は厳しく追及を受けているはずだ」


いや、しかしそれならば…


「ではなぜ婚約破棄の書類にサインを?」

「僕が勘づいたことに気がついたからさ。さぞ慌てたんだろう。ろくに考えもせずその場でサインして返信してしまったようだ。一度は引く姿勢を見せるために」

「なるほど…」

「しかし予想外のことが起きてしまった」

「パーティの招待状ですね」

「そう、次いで出した招待状が、まさか三週間遅れるなんて思わないだろう?だがそのまさかが起きたんだ。それならば、婚約破棄の書状も同じく遅れたはず」


それが分からない。

なぜ遅れたのだろうか…


「彼岸花の森に盗賊が出るという話を覚えているかな?」

こくこくと頷いた。

アルテミオに助けられた日に聞いた。


「それが、郵便を積んだ馬車が襲われたらしくてね、それが原因で彼岸花の森を抜けるルートを取れず、えらく遠回りになったそうだ。馬車が使えない道もあるからね。鷹族だけでなく、沢山の街々への手紙を積んでいるわけだから、迂回ルートからは大変遠い鷹領は必然的に後に回された」


そんなことがあったのか…

ということは、まだあの森には盗賊がいるのだろうか?

私が不安に思っているのに気がついたのか、アルテミオは、微笑んだ。


「討伐隊を出しているのだけれどね、なかなか尻尾を出さないんで困っているところなんだが…」

そう言ってため息をついた。


「アルテミオ様は不思議な方です」

「うん?」

「運命を自分の手で切り開く、私にはとても遥か遠くのお方の様に感じられてしまいます」

「…不安かな?」

「ええ、とっても」


アルテミオは私の前髪を左右に分けると、額にくちづけた。

それがとっても自然で、何が起こったのか気づいた時にはアルテミオの腕の中だった。


「同じだね。うん、僕と同じだ」

「っっっっ!!それはどういう!?」


アルテミオは私の顔を覗き込んで鼻と鼻が触れそうな距離で言う。

「僕も君が消えてしまうんじゃないかと時折思うよ」

「私が、ですか?アルテミオ様を不安に?」

「そうさ」


こんなに弱い私が何を不安にさせるのか考え込んでしまう。

逃げるのではなく、固まってしまうような私が?

だから、熊の猟師から逃げ延びたことは奇跡に近いのだ。


「ほら、僕以外のことを考えているだろう?」

「え?」


ふんわりと髪を掬い上げられて、首元に唇が触れる。

それは柔らかく、産毛に触れる程度だ。


「〜〜!!!??」


私は目を白黒させて、完全に固まってしまった。


「今は僕以外のことを何も考えないでくれるか?」

「それは一体どうしてです!?」

私は必死で絞り出した。


「どうしてって…リリー姫…君が兎領に帰って三週間、ここに帰って来て二日、僕がどんな気持ちだったと思う?」

くん、と髪を嗅がれた。


触れそうで触れない距離で唇がそこここを滑っていく。


「もう、これ以上は!」

心臓が持ちそうにない。


金の瞳が私を捉える。

「…切なかったのは僕だけかい?」

「そんなわけ…ないじゃないですか…く、くちづけまでされて…」

「あのカードは便利だろう?だが、所詮は幻影だからな」


もう一度ぎゅうと抱きしめられる。

「君の望みをなんだって叶えるから、僕からも一つわがままを聞いてほしい」


ずるいなと思いながらも逡巡する。

私の、望みはーー


「その、グレーの髪を撫でさせてください」

「なんだ、そんなことか」


アルテミオはソファに座ってから、私の腰を抱き寄せた。「どうぞ、お好きな様に」


そっとふわふわの毛を撫でる。

まるで肌触りの良いタオルか、猫の様な毛ざわりだった。


「ん、これはこれで気持ちが良いな。寝てしまいそうだ」

アルテミオも満更でもないという風だった。

その内ゴロゴロと喉を鳴らすのではないかと思うくらいだ。

ひとしきり撫でて満足すると

「そういえばアルテミオ様の望みってなんです?」


と聞くと、グレーの髪の持ち主はすでに寝息を立てていた。


「もう!」

ほっとした様な、残念な様な、複雑な気持ち。

この甘々な王子様にこれからも翻弄されるのだろうかと思うと、耳まで真っ赤になった。

続きは明日15時ごろ投稿します。


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