鷹の姫、イリスと婚約を破棄する!(アルテミオ視点)
リリー姫はすぐに立ち去ると言ってなかなか聞かなかったが、間も無く日も傾くという理由で、どうせならパーティまでの二日間、狼城に滞在してもらった。
その日以降、リリー姫と顔を合わさないまま、ついにパーティの日を迎えた。
続々と招待客が迎え入れられる。
派手なドレスに身を包んだ美しい、だが毒のある笑みを浮かべる鷹の姫イリス・セントナードその人が来た。
イリスは僕に気がつくと、お互い形ばかりの挨拶を終える。
端正なその顔立ちの口角だけが笑みを含んで、それが社交辞令だとわかる。笑みを湛えた口元だけが動く。
「婚約者として振る舞うことを許してくださいますか?」
「婚約は破棄されたはずです」
言葉と目線で今できうる最大限の拒絶を示す。
リリーは少し離れたところから、心配そうに見つめていた。
「先日父と話したのでしょう?書状が届いたのは後になってからで…」
「世迷言を」
ホールに優美な曲が流れる。
「言っておくが君とは踊らないぞ、鷹の姫」
言って胸元に忍ばせていた婚約破棄の書状を突き出した。
「ここには君の署名がある。確かにイリス・セントナード本人の署名だ」
イリスはたじろぐ。
「鷹領に届く前の書状になぜ君はサインができたのかな?」
「それは…父も言っていたでしょう?そのサインは偽物です。そこまでして、あの兎の姫と結婚したいのですか!?」
そう言ってリリーを指差したので、汚らわしい指先を向けられたことに些か腹が立ち、ため息をついた。
イリスはなおも続ける。
「公文書の偽造と、婚約者のいる身でありながらの不貞…相応の罰が必要ですわね」
「罰…おや、それは君の方ではないのかな?」
イリスは肩を震わせた。
根は小心者なのだ。
「君は、狼領にいたね?」
「あっ…」
美しい顔が歪む。
「君は確かに婚約破棄に関する書状を受け取った。そしてサインをした。でもそれは狼領でのできごとだな?」
「…証拠がありませんわね」
「証拠もなく言うほど僕も馬鹿じゃないのさ」
その言葉に、ぐっと噛み締めたイリスの唇は色が失われる。
「君は三週間前のパーティには来なかった。なのになぜあちらのご令嬢がリリー姫その人だと知っているんだい?」
「え、だってそれは白い髪に赤い瞳だからで」
「ほう?では、それは誰から聞いた?」
少しだけ沈黙がある。
「あなたは、リリー姫を見たことがありますね?そう、彼岸花の森で」
イリスは膝をついた。
「何故そこにいたか、全部言いましょうか?」
「ああ、やめて…!」
「彼岸花の根から毒を作ろうとしたな?」
イリスは絶叫した。
「やめてえええ!」
そして耳を塞ぐ。
「君は確かにこの地に滞在していたはずだ。僕に一服盛ろうとしたんだろ。彼岸花をわざわざ選ぶなんて、狼族の内部犯に見せたかったんだろうが…」
残念だったなあ、と耳元で言った。
「ここに改めて宣言する。イリス・セントナード姫との婚約は破棄し、リリー・マゼラン姫と婚約を結ぶ!」
続きは明日15時ごろ投稿します。
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