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狼王子に溺愛された兎姫  作者: あずあず
バッドエンドルート〜23話まで
11/40

兎の風習

私たちは祖母の部屋を出て、城内の片付けが終わるまで自室に籠ることにした。


レイランはお茶を用意しに出たので、しばらくトノリーと二人の時間を過ごした。


「殿下から伺いました。父のファンでいらっしゃると」

「まさか、あのサンテシューリッヒ先生のお嬢さんだったとは…すごい偶然にただただ驚くわ。アルテミオ様に好きに読んで良いと言われたので、滞在中に読んだのは殆どサンテシューリッヒ先生の作品よ」

「ふふふ、父が喜びますわ。リリー様は『灰色の真実』はお読みになりまして?」

今度読みたいと思っていた作品だ、と伝えるとトノリーは目を細めて言った。

「あの本は兎族のことが書かれているのですよ」


もしかしたらこの城の図書室にもあるかも知れない。

探してみることにしよう。


「トノリーは『灰色の真実』がお気に入りなの?」

「うーん、というより何か参考になるかも知れません」

「?」


軽いノックの音が聞こえ、レイランがお茶を運んできた。


「クッキーもくすねて来ました。良いですよね?」

悪そうにレイランは笑う。

「ありがとう。三人でお茶にしましょう」


廊下の方から大きな物音や、執事らが指示を出し合う声が聞こえる。

この城の元主人は一生帰ってこない。

不用品の一切を始末しなければなるまい。

慌ただしく上を下をの大騒ぎだ。

そんな中、優雅にお茶を嗜む。

窓の外は木漏れ日が美しく揺れていた。


(城の中は慌ただしいのに、外は静かだわ)


「私は、以前よりも動じなくなったリリー様が頼もしいです」

レイランは伏し目がちに言った。



その後、夕食までの時間、私は入室を禁じられていた図書室に入ってみた。

埃っぽく、手入れされている様子が感じられない。


(片付けが終わったら、ここの清掃は念入りにするよう伝えなければ。本が痛むわ)


父も母も妹も本を読んでいた記憶はない。

ただ、本は貴重だからと読みもしないのにどんどんと運ばれて並べられてお終いなのだ。


自分が住んでいたのに初めて入る図書室。

サンテシューリッヒの項目を探すと、すぐに『灰色の真実』が見つかった。


私は、トノリーが言っていた言葉の意味を探す様に読み耽った。


月に恋する兎。兎に恋する狼。

兎は月に召し上げられた。

狼は悲しくて泣いた。夜になるたび月を見て泣いた。

そこに兎がいると信じて、兎を返せと泣いた。


しかし月に兎はいなかった。

兎は月に騙されて、白かった兎は茶色くなった。赤い瞳は黒くなった。


狼は姿が変わった兎に気づかず月を見て泣いた。

ある日、山火事が起きて木はみんな焼けた。

そこで兎は灰を塗った。白くはないけれど茶色よりはマシだった。


しばらくして、兎の仲間が子を産んだ。

その子兎は白く、瞳は赤かった。

嫉妬に狂った兎は子兎を手にかけた。

母兎と狼が手を組み、子兎を殺した犯人を探す。

死罪になった、かの兎。誰もあの白兎と気付かないまま…。



そんな話だった。


(意味ありげなお話ね…)



その夜、晩餐の前にトノリーに湯浴みをしてもらった。

オイルをたくさん持参してくれたが、実は私が長く住んでいたこの城にもたくさんのオイルがあることを知って引き攣った。

トノリーは何も言わないけれど、強欲な父母と妹に少なからず腹が立っている様だった。


トノリーの指が滑る。

初めて湯浴みをしてもらった時、髪が絡まって大変そうだった。

今では、こんなに滑らかに艶やかになるなんて信じられない。


「読んだわ、『灰色の真実』。悲しい物語ね」

「あの物語は父が感じた兎族の比喩のお話です」

「というと?」


兎族は白い髪に赤い瞳が美しく、茶色は美しくないとされた。

茶色い髪の女は白い髪の女を殺すほど嫉妬深い。

だから白い兎が産まれると隠される。

むかしむかし、そんな風習がこの一族にあったのだと。

我が一族のことながら知らなかった。


「私などではその真意は計りかねますが。まさかこの現代において白兎が冤罪をかけられて殺されるだなんて誰も思いませんわ。ですがそのまさかが起こってしまった。一族の王と王妃によって」


なるほど、そんな風習があったのか。

美しさゆえの悲しい風習だ。


ーー初めから白い兎なんかいらない。リリーは閉じ込めてしまえーー


遠い記憶がふいに蘇った。

続きは明日15時ごろ投稿します。


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