表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/40

出会い

白い髪が靡く。

赤い頭巾が風に攫われた。

構わず走る。


走る、走る。



大股で追ってくる黒い弾丸のような、猟師。

「待て待てええッッ!」


ダァン!!!

ーー銃声が響いた。


「っ!」

弾が腕を掠めて、焼ける様な頭が走る。

素早く物陰に隠れ、木々を縫って逃げる。


「逃げ足の速い奴め」


男が去るのを、息を潜めて確認した。

確実にこの森からいなくなったとこの目で見なくては安心できない。


「くそっ!まかれた」

男は舌打ちして、森の出口に向かってまっすぐ歩いて行った。


(よかった…)

力が抜ける。

その場に倒れ込みそうになるのを必死で耐えた。

どくどくと腕から血が滴る。


里に帰れば薬がある、なんとか持ち堪えなければ。


刹那、がさがさと葉が揺れる音がする。

赤い目を見張った。


「誰かいるの!?」

「あ…驚かせてすまない。血の匂いがして…怪我をしているのではないかと思って」

声だけがこちらに届く。姿は見えない。


(いつからいたの!?)


警戒し、腕を押さえて、ゆっくりと逃げる体勢を整える。


「銃声が聞こえた。撃たれたんだろう?僕は決して君に危害を加えるつもりはない。とにかく手当てをしよう」

草木の向こうに黒い人影が現れた。

叫びそうになるのを必死に堪える。

「結構よ。早く去って」

「強がるんじゃない。血が…」

ガサガサと音を立てて出てきたのは、狼族の男--


「ひっ!」

食べられるーー!

瞬間的に思って私は、きゅうと卒倒した。

「おい!おい!君!」

遠くで声がしたが、非力な私はあなたに食べられてしまうのでしょう。


私は非力な兎。

この世界で一番力無き種族の姫。

狼に逆らいでもしたら……骨も残らない。





(ここは、雲の上かしら…)


ふわふわと不思議な気分になって目を覚ます。

見慣れない天井、暖かいベッド。

僅かに鼻をくすぐる香の匂い。

覚醒したばかりの目を擦ってみても、少しだけ鮮明になった視界が捉える状況が、余りにも非日常で、何が何だかよく分からない。


ベッドからむくりと起き上がると、頭がくらくらした。


「やあ、気がついたかい」


グレーの髪と金の瞳。


「あ!お、狼……」

ガチガチと歯の根が合わない。


「警戒しなくて良い、君に危害を加えるつもりはないよ。驚かせてしまったね。君が怪我をしていたから運ばせてもらったんだ。ここは、僕の城だ」


ばくばくと心臓が脈打つ。

「か、介抱して頂き感謝申し上げます。もう、大丈夫ですので帰ります…」

顔からサッと血の気がひくのが分かる。

ベッドから出て立ち上がると、ふらふらとして倒れてしまった。


「無理をするんじゃない。傷口が塞がってないんだから」


細身だが逞しい腕に抱き抱えられる。

私は焦って跳ね除けた。

「いえ!知らない殿方に、いつまでもお世話になるわけには…」


言うと、狼の男性は丁寧に頭を下げた。


「ああ、挨拶が遅れたね。僕は狼族の王子、アルテミオ・シングレだ」

「王子様、だったのですね…た、大変失礼しました」


私は瞬間的に目を逸らした。


(怖い!)


「…白い髪と透き通る肌、赤い瞳…君は兎族だね?」


その言葉にゾッとして、身体をかき抱いた。

「食べますか…」

「……食べるだって!?なぜ!?いらないよ。食べないよ。野蛮だなあ」

「ならばなぜ狼が兎など助けたのです!?後で美味しく食べるんでしょう!?」


アルテミオと名乗った狼の王子はキョトンと目を見開いて、大笑いした。


「ははははは!!ああおかしい!!」

目に涙を溜めて笑っている。

「何を笑うことがありますか」

「いやー、君たち兎が閉鎖的な一族なのは知っていたけども、そうか、僕たちはそんな風に思われているのだな」


私は少々ムッとして言った。

「私の叔母さまや、有名な話ならリーン伯爵令嬢だって狼に食べられたんですよ!?」

「……うん?それは……」

「私は両親や側近から、よくよく気をつけるように言われているのです!特に白い髪やこの肌は格好の的だからと!」

「なるほど。…後で美味しく…なるほどなるほど」


ふふんと微笑して、アルテミオは、くんと傷口に鼻を近づけた。

私はそのグレーの髪の毛があんまり綺麗で、ふわふわしていそうで、思わず撫でたくなる衝動に駆られた。

そっと手を伸ばそうとした時

「…食べるというのは、そういうことじゃないなあ」


私は絶叫した。

「きゃあああああああ!!!!!」

力の限り叫んだ。


ドタドタと、部屋に執事や侍女が入ってきた。

「殿下!どうなさいました!一体なに…が…」


ぶるぶる震える私と、私に手を伸ばしたまま固まるアルテミオを見て、執事がため息を吐く。


「殿下、一度ご令嬢から離れた方が宜しいかと」


綺麗な黒髪の侍女が私に近づいて「立てますか」と言った。

「もう!うちの殿下がすみませんね」

「そんなだから、怖がられるんですよ!?」

「そーだそーだ!」

侍女一同が口々に言った。


アルテミオは少し慌てて言った。

「こら!何がそーだそーだ、だ!少しは敬え!」


横目でチラッと私を見て、膝をついて王子は言った。

「驚かせて申し訳ない。怪我をしているご令嬢に大変失礼をした。差し支えなければ、名前を教えて下さいませんか?美しい人」


金の瞳に射抜かれるように見つめられて、私は動けなくなってしまう。

ぎゅっと目を瞑ると、アルテミオは私の手を取り、手の甲に口づけを落とした。

「怖がらないでほしい。僕は君を傷つけるつもりはないし、狼は兎を食べない」


ーうそ、うそよ…でも……ー


そっと目を開けて、周りを見渡す。

みんな狼だ。私は狼に囲まれた兎だ。

でも、綺麗な侍女たちは私と同じくらいの年頃の女の子だし、優しそうな執事も私の父と変わらない年頃だ。

そう思うと少しだけ、心がほぐれた。


「わ、私は…。リリー・マゼラン…です」

アルテミオは瞳を大きく開いて、私の名前を噛み締めるように反芻する。

「リリー……美しい名だ」


狼の王子は、その恐ろしい一族とは思えないほど優しい顔で胸に手を当てた。

「うん?…マゼラン…白い髪、赤い瞳…君は……」

「改めましてアルテミオ・シングレ王子殿下。兎族の姫、リリー・マゼランと申しますわ。危ないところを助けていただき感謝申し上げます。」

続きは明日15時頃投稿します。


「面白い」と思ってくださった方は、ぜひともブックマークや、下の評価を【⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎】→【★★★★★】に星を色塗りしていただくと作者のモチベーションがアップします!

ぜひぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ