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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

怪談『飼育箱』

作者: 一清

 

――夏休み――


 ラジオ体操から帰ってくると朝食を済ませる。その後テレビを観る。

 八時を過ぎたら同級生のショウジと虫取りに行く。いつもの場所。大きな池と小川がある公園。奥にはお寺に繋がる細道がある。

 大昔にはたくさんいた昆虫たち。特にカブトムシやクワガタは数が少なくなってしまった。しばらく探すけど、虫取り網の出番は来ない。右手に持った網は、空中をデタラメに漂ようだけ。

 仕方ないから諦めて川のほうへ行く。

 適当に虫取り網で川底をすくってみる。

 跳ねた水が腕に当たる。冷たい。

 期待して覗き込む。でも、泥や枯れた植物の茶色い塊しか入っていない。


「魚取り用の網を持ってくれば良かったなー……」


 もう一度、願うような気持ちで川底をすくってみた。

 何もとれなかったら諦めて帰ろう。

 もしかしたら一緒に来たショウジが何かとったかもしれない。アイツ、ザリガニ釣るのだけは上手いんだよ。


 泥まみれの網に半透明で小さなものがうごめく様子がある。正体はミナミヌマエビとヤマトヌマエビ。


「エビか~……」


 正直ガッカリした。せめて魚が良かったな。仕方ない。帰ったら飼っているカメのエサにしよう。


 しばらく川底をすくってみたけど、エビ以外何もいなかった。仕方ないか。

 ショウジのいるお寺の池に行く。ショウジは持ってきた大きな飼育箱にザリガニをたくさん詰め込んでいた。


「カナエ! たくさんとれたよ!」

「ぼくはエビしかとれなかったよ」

「何匹か交換しようぜ」


 八匹のエビと三匹のザリガニを持って帰ることにした。


 自宅の玄関には大きな飼育箱に入ったカメがいる。

 八匹のエビをカメのいる飼育箱に解き放つ。

 腹を減らしたカメは小さなエビたちを次々に飲み込んでいく。そのたくましい姿に見とれていた。


「お前は気楽でいいよな~。飼育箱の中にいればいいんだもんね」


「カナエ、遅かったわね。ご飯よ。手を洗っていらっしゃい」

「は~い」


 ザリガニはバケツに放りこんで玄関に置いた。


 昼飯を食べると眠くなってきた。

 昼寝の前に宿題をしなければ。リビングで横になったのがまずかったか。襲ってきた睡魔には勝てなかった。


 意識が遠のきかけたその時。何かに抱えられる感覚があった。

 お母さんかな? ぼくの部屋のベッドに運んでくれるのかも。その手は柔らかくて大きいけど異様に冷たかった。


 ドアが開く音がする。

 同時に乱暴に地面に投げつけられる。驚いて目を開けた。

 投げ入れられた場所はいつもの部屋とは様子が違っている。


 周りを見回す。薄暗くてよく見えない。

 ……ぼくの部屋じゃない。それだけはわかる。

 暗いせいだろう。空間は広く感じた。しんとした空間。静かすぎる。


 突然、手足がガタガタと震えだす。


 ぼくは気付いてしまった。

 何者かがあの闇の先からこちらを見つめている。闇の色よりもっと黒くて巨大な塊が数メートル先で揺れている気がした。

 そいつには二つの眼がある。

 暗闇の中に一瞬だけ眼が光る。


 ――ぼくを狙っている?


 気付いたら走り出していた。

 その黒い大きな塊とは反対方向に走った。


 空間は予想通り広かった。

 足元は砂利で、石の感触が足の裏から伝わる。痛くはないけど走りにくい。


 心臓は壊れそうなくらい動き続けている。


 走ってすぐに絶望感が襲ってきた。


 広いと思った空間には行き止まりがあった。大きな岩が何個も連なっている。後ろからは何者かが迫ってくる気配がする。


 ちくしょう!


 考える余地はない。

 がむしゃらに岩を登った。


 登って、登って、登った。


 手には血が滲みはじめている。


 岩山の先にほのかに光が見えた。


「助かった!」


 ラストスパートと思い最後の力を込めて手を伸ばした。伸ばした手は岩をつかめなかった。その手は血を吹き出しながら落ちていった。


「え」


 ジョキンと鈍い金属音が聞こえる。

 ぼくの両腕は切り落とされていた。


「なんだよ、こいつ。逃げようとしているのか」


 聞いたことのある声。

 光の中に巨大なショウジの顔が現れた。手には血塗れの大きなハサミを持っている。


「新鮮な活き餌なんだから逃がすわけないだろ」


 やがて力尽きたぼくは落下した。

 何度も岩にぶつかりながら落ちていく。

 そして大きな何かに飲み込まれた。


「カナエ!」


 目が覚める。

 ああ、お母さんだ。

 ……夢をみていたのか。


「ショウジくんが遊びにきたわよ」


 ……ショウジ。

 夢の中でぼくの両腕を切り刻んだあいつか。


「カナエ。サワガニ捕ってきたぞ。カメのエサにどうだ」


 ショウジは得意げに飼育箱を出す。

 中にはハサミを切り落とされた小さなカニが何十匹も、うごめいている。


 あれっ?


 なんでぼくはショウジの足元にいるのかな。


「ごめんなさいね。ショウジくん。カナエどこかに出かけちゃったみたい」


 お母さん? ぼくはここにいるよ?


「じゃあ、また後で来ます」


 頭上にショウジが見える。

 あれれ? ここはバケツの中?


 ショウジと目が合った。


「このザリガニ、もらってもいいですか?」

「カナエったら、ザリガニなんて捕まえてきたのね。いいわよ。世話なんてしないんだから」


 やけにリアルなんだけど。

 これも夢だよね?


 ショウジはバケツの中のぼくを覗きこむと気味の悪い笑みを浮かべた。


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