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第087話 挨拶にお土産は必須

 オーク達は男ばかり総勢8人。上半身は裸、みな体毛が濃く日焼けで肌が赤茶けている。履いているズボンは小綺麗だけれども、小さ過ぎてパツパツだったり大き過ぎてブカブカだったりと似合っていない。それに色や模様に統一性がなく、手作りでも無さそうだ。


 騎士団員と比べ体格は貧弱で、筋肉よりもポッコリお腹が目立つ。リックが戦った帝国軍のオーク兵士達とはえらく違う。でも民間人ならこんなものとも言えた。ただ一番低い貧弱なオークでもリックより背が高く、巨人であるのに変わりはない。


 手に持つ武器は木刀や刀、鍬に鎌や包丁など様々で、構え方もまちまちだ。人間とは異なる文明と理解するが、いざ目の前で対峙すると、次の行動が読めない漠然とした不安を感じる。


 それは向こうも同じらしく、どこか怯えた目をしていた。


(もしかして、あの服や武器は奪ってきたのかな?)


 リックは馬車の中に隠れて警戒しつつ、ふと思った。

 人間の村を襲って得た略奪物であるなら、説明がつく。


 事の成り行きを緊張しながら慎重に見守るリックらに対し、アシュリート団長とタコタ社長は至って落ち着いている。馬車を降り、飄々(ひょうひょう)とオーク達の方へ向かった。


 団長の二回りは大きくガタイの良いオークが近寄ってくる。

 様子から判断するに、彼がリーダーらしい。

 見た事が無いほどのドでかい丸太を片手で持っている。

 あれを振り回せるなら腕力も相当だ。

 リックさえ一発でやられるかも知れない。


 そんな警戒心満載のオークに、団長はにこやかに話しかけた。


『こんにちは。オロソ連邦王国の騎士、アシュリートです。実は王様に頼まれて、ある聖典を探しにやってきたんだ。ずっと遠くまで行かなきゃいけない。君たちに危害は加えないので、通してもらえませんか?』


 後ろにいるオーク達は顔を見合わせる。

 アシュリートの言葉の真意を考えあぐねているようだ。


 だがリーダーは、四も五も言わずに突然アシュリートに襲い掛かる。


『うるせぇ! どうせ俺たちを騙そうってんだろ!』


 ブゥン!!


 特大の丸太が、アシュリートの頭上に振り下ろされた。

 空気も切り裂けそうな、凄まじい勢いだ。


(危ないっ!)


 直撃前に思わずリックは目を瞑る。


 ……


(あれ……?)


 衝撃音も何もしなかった。


(どうなってるのかな?)


 恐る恐る目を開くと、団長は相も変わらぬ姿で立っている。

 ぶっとい丸太は、団長の手前で止まっていた。


『なんだ、これ!』


 オークのリーダーは信じられないといった顔で、再び必死に丸太を振り下ろす。


 ボヨンッ!


 やはりアシュリート団長の手前で止まる。

 防御魔法なのだろうが、リック達とはレベルが違う。


『くそっ! この野郎!!』


 力一杯に何度も何度もアシュリート目掛けて丸太を振り下ろすものの、全て徒労に終わった。両手にしても結果は同じ。ブンブン振り回し続けたらさすがに疲れたようで、息を切らし始める。


 フゥ、フゥ…… ハァ……


 そんな姿を見て、アシュリートは涼しげに語りかけた。


『申し訳ない。もちろんタダで通してもらおうとは思っていません。友好の証としてお土産を用意しました。社長、持ってきてもらえる?』

『はい、(しば)しお待ちを』


 タコタ社長が馬車に戻り、幌の中にいるリックらに呼びかける。


「お疲れさん。交渉はうまくいったから武装解除して、荷物を運ぶの手伝ってもらえるかい?」

「はい」


 武器を置き、準備に取り掛かる。

 うまくいったと言うか、オーク達は格の違いを知ったようだ。

 他の7人も反撃する気は失せている。


 リックとセラナとほか3人の団員で荷物が入った木箱を運び出し、オーク達の前に並べた。彼らは胡散臭そうな目で木箱を眺める。当然ながら武器や罠を警戒しているようだ。 


 そんな緊張感が漂う中、タコタ社長は和やかな顔で話を始めた。


『オークの皆さん、はじめまして! 第四騎士団営業部のタコタです。本日は皆さんに素晴らしいお品を持って参りました!』


 社長の説明に合わせ、タイミングよくリックが一つ目の木箱を開ける。


 入っているのは、フニクロの衣服だ。パーカーやジーンズ、Tシャツがある。彼ら向けにXXXXLサイズで、色も七色あり行き渡るのに十分な数を準備していた。


『皆さんいい体してますが、これから暑くなると、日焼けはお肌の大敵です。そこで便利なのが、このパーカー!! 通気性が良いから汗をかいても大丈夫!! 急に雨がふってきてもこれ被ったら濡れません。さっさっ、リーダーこれ着てください!! リーダーはオレンジが似合いますね!』


 そう言いながら、タコタ社長はリーダーのオークに一番大きなパーカーを着せた。何がなんだか分からないリーダーは、大人しくされるがままである。丸太も一旦置いてもらう。


『お、良いじゃないですか! どうですか? 着心地は?』


 リーダーのオークは着せられたパーカーをマジマジと見ながら、腕を振ってみる。 


『まあ、悪くはない、かな』

『そうでしょうそうでしょう! お似合いですよ! さあさあ、皆さんにも用意してますから、お好きなのを選んでください! ジーンズやTシャツもありますよ! これなら屋外の作業にもピッタリ、お出かけにも使えます!』

『おお、そうか』

『じゃあ、もらおうかな』


 オーク達はわらわらと木箱の周りに集まり、思い思いの衣服を手に取って着てみる。ジーンズも体にあったサイズで、先ほどまでの不格好な姿とはえらく変わった。着心地良いらしく、どのオーク達も満足げな顔だ。


 タコタ社長のトークは続く。


『私たちのおもてなしを受け取って下さり、ありがとうございます。でもこれだけではありません。村には女性や子供達の皆さんもいますよね?』

『ああ、そうだが』

『良かった良かった。そうかと思って持ってきたんです』


 二つ目の木箱をセラナが開けた。そこには女性や子供向けの服があった。


『んじゃ呼んでくるわ』


 リーダーのオークが先頭に立って、一旦村に戻る。

 するとしばらくして、女性のオーク達がやってきた。

 子供もいる。


 リーダーの奥さんは美形で若く、子供も人間で言う6歳ぐらいの大きさだ。他にも中年のおばさんやおばあさんもいた。ただみんな男達と同じく上半身裸で、リックは目のやり場に困った。


 タコタ社長はそんな風貌を気にせず、セールストークは続く。


『皆さん、お集まりいただきありがとうございます! オロソからやってきましたタコタです。事情があって旅をしているのですが、友好の証として綺麗な皆様へプレゼントを持ってまいりました! ぜひ手に取ってお確かめください! 着れば三割増の美人になること間違いなし! どれでも良いですよ! 本日は全て無料! むりょうです!!』


 トークにつられ、彼女たちも木箱の周りに集まり思い思いに服をとる。デパート売り場でよく見られた血みどろな争奪戦にはならず、皆それぞれ服を丁寧に取り出してセラナや女性団員の助けを借りながら試着した。人型モンスターだけあって、民度は高いようだ。


 子供たちもお気に入りの服が見つかったみたいで、はしゃいでいる。著作権ぎりぎりのキャラクターものがうけていた。


 皆が着終えると、タコタ社長はにこやかに話を続けた。


『良かった良かった。皆さん満足してくれたようですね。でもこれだけじゃありません。末長く続く友好の証として、スペシャルなサービスもご用意いたしました!』


 そう言われて、オーク達は全員がタコタ社長の方を向く。

 隣にはアシュリートもいる。


『えー、団長のアシュリートです。気に入ってもらえて嬉しいです。今回持ってきた品の他にも、オロソには皆さんが気に入る商品が沢山あります。お近づきの印に、皆さんには僕たちの橋を渡る通行許可証と、一人1ヶ月に3品購入できるチケットをお渡しします。ぜひこの機会に、オロソへおいで下さい』


 その説明に、オーク達はざわめいた。


『やった〜!』

『遊びに行けるね!』


 子供達は無邪気に喜んでいたが、大人はそうではない。

 空気を察し、先ほどのリーダーが声を上げる。


『そんなに俺達にプレゼントして、何が目的だ? 裏があるんじゃねぇのか?』


 そりゃそうだろうと、リックも思う。ここまで過剰なプレゼントをされると、嬉しいより気持ち悪くなるのが当然だ。自分だったら素直に受け取らない。


 けれどもアシュリートは至って真剣であった。

 ここで疑わせると、今までの努力が水の泡だ。


『いえ、本当に皆さんとの友好を深めたいだけです。オロソまで行きやすいように道路も作っています。橋は我々が管理してますから、安全を保証します』


 ……


 オークのリーダーはじっとアシュリートを睨む。

 真贋を見極めているようだ。


『これかっこいい!!』

『ムーくん素敵!』

『ヤーちゃんも可愛いね!』


 だが子供達の笑い声が上がり皆が喜ぶ様を見て、態度を決めたらしい。


『分かった。ありがたく受け取る。だが貰うだけではメンツが立たん。贅沢はできないが、客人としてもてなしたい。村に来てくれ』

『ありがとうございます』


 こうして交渉も終わり、アシュリート団長始め一同はオークの村へと入っていった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最近は世知辛いと痛感する事が多い。 取引先に挨拶に行った際、手土産代わりに簡単なお菓子を持っていったのだが、『コンプライアンスが厳しくなって受け取れないんですよ』と言われて愕然とした。 僅…
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