第034話 敵が強すぎるのも、考えものだ
ダァアアアーーン!!!
ドォドドドォーーオオオンンン!!!
バァーーーアアアンンン!!!
エメオラが放つ爆裂炎魔法が、少女に炸裂する。鮮やかに輝く爆裂炎は弾道ミサイル並みの破壊力で、着弾のたび地面が大きく揺れた。ミズネの回復魔法の助けをかりつつ絶え間なく繰り出される魔法は強力過ぎて、少女の姿は炎と煙の中にかき消される。6人は巻き込まれないために、彼女たちの背後から傍観するしかなかった。
「すげえ、これがエメオラ様の本気か……」
思わず感嘆の声を上げるライア同様、その威力に皆は見惚れるばかりだ。
グワァアアンンン!!!
ヴァァアンン!!
だがエメオラといえども限界がある。
魔法を繰り出す間隔がだんだん長くなってきた。
嫌な予感が皆の頭をよぎり始め、無言になる。
——
魔力が尽きて一瞬の間が開いた時、煙幕が晴れて現れたのは絶望だった。
!!
「な、何だと……」
「えぇえ……」
全く無傷のまま、涼しい顔で少女は8人の前に立っている。
「かぁあ、やっぱり駄目か〜 回復魔法限界までかけるから、とにかく攻撃して!」
「わかった」
ドドォオンン!!!
バァアンン!!!
再び攻撃を再開する。だが無尽蔵に思えたミズネの回復魔法も限界で、先ほどより爆裂炎魔法を出す量が減り始めた。
「はあ、はあ……」
「これでもダメなの? あんた強すぎぃ!」
息を切らしたエメオラと悲観的なミズネの声が、6人を失望させる。少女は相変わらず傷一つないきれいな姿だ。彼女達でも倒せない現実を、否定しようがなかった。
少女はエメオラの顔を見て、何かを思い出したようだった。
『お前は《はぐれエルフ》だな? みくびられたものよのう。お前などに妾を倒せるとでも思ったのか? 妾と同等の力を持つのは、お前らのリーダー・アシュリートぐらいじゃ。もっとも、最後に勝つのは妾じゃがの』
彼女はエメオラ達を知っているようだ。
しかし、エメオラは何も言い返さなかった。
「俺達も援護するぞ」
「了解」
やられると思いつつも、5人はカヴァリアの指示で攻撃態勢をとる。リック以外の5人は死者共から受けた攻撃で満身創痍だったのを、エメオラのおかげで回復したばかりだ。状況は厳しい。
どう考えても、あの少女相手に戦えるとは思えない。かすり傷すら付けられるか。少女の攻撃をくらうと、下手すれば二度と立ち上がれない。
だが男女を問わず、人間戦わねばならない時がある。
「ヤバいかもしんねえな……」
「ライア、弱気にならないの!」
「でも……」
ライアとフェリーヌに限らず、8人は死を覚悟した。
ここに至り、少女は楽しげな顔をして喋り始める。
『悔しいか? 恨むなら、無力な己を恨むが良い。悶え苦しめば苦しむほど、妾には好都合。あがきながら無様に死ね。お前たちの命など、虫けらと変わらん。じゃが簡単に死なせはせぬ。散々いたぶり尽くして、飽きるまでもて遊んでやる。その後は妾の下僕として、未来永劫死にながら生きるのじゃ!』
必死な形相の8人に対し、少女は悔しいほど余裕の笑みだ。絶対勝者とは、こういう者を指すのだろう。彼女の会話はローヌの翻訳魔法で5人にも通じたが、聞きたくない言葉であった。
「あちゃー、こりゃヤバいか……エメオラ、ごめん」
「気にするな」
エメオラとミズネの魔力も尽きかけ、いよいよ万事休すである。
『ほれ? どうした? 妾はいたって元気だ。幾らでも相手してやるぞ。さあ、かかって来い。若いのは、まだ動けるじゃろう? お前ら何もせずに死ぬ気か? それこそ無駄死にじゃな』
「く、くそ……」
少女の煽りにも、手を出せない。
彼女に襲い掛かったら最後、即死亡するのは明らかだ。
ヒュッ! ガン!
セラナが弓を放つが、少女の防御魔法であえなく手前で落ちる。
「つまらんなぁ、これだけか? もっと近づいてみせよ。直ぐには殺さんから安心するが良い。まずは腕一本切るだけじゃ。それとも指一本のほうが長く苦しめるか?」
「くっ……」
「ちきしょう……」
(僕がやらなきゃ……)
みな動けない中、リックは静かに決心した。
勝算があるわけではないが、リックは未だ消耗が少ない。無策だけれど、捕われて奴隷にさせられるのは絶対に嫌だ。長剣を握る手が汗ばむ。
(でも……)
そうは言っても、敵が強すぎる。
彼女の冷たい笑みを見るたび、意気消沈しかけた。
(怖い……)
(死ぬのは嫌だ……死にたくない……やっぱり無理かも……)
リックの心の内では様々な思いが逡巡する。
長剣を握る手に一層力が入るものの、考えあぐねていた。
この状況に、少女は焦ったくなったようだ。
『あーあ、つまらん。じゃあこっちからやるぞ。ほれ、さっきの派手な花火のお返しじゃ。生きたまま焼かれて苦しみ悶えるがよいっ!』
少女が右手をかざすと、その手から巨大な火炎龍が飛び出し、8人に向け襲いかかってきた! 格が違いすぎる。
「うわぁあ!!」
「こっちに来る!」
グァアア!!!
傍目で見ても分かるほどの攻撃力の違いに、彼らはすくみあがる。
そんな中リックは決意し、長剣を大上段に構えた。
すると、長剣から青白い炎が沸き起こった。
「リック、お前どうした?」
ライアはリックの変貌に驚くが、本人には聞こえていない。
集中して、向かってくる火炎龍だけを見据えている。
(くそっ! こいつめ!)
絶体絶命のピンチにリックの内なる炎が燃え上がり、長剣を力の限り振り下ろした。
「うぉおおりゃぁああ!!!」
グァアアォオオ!!!
「なに!」
「リック!」
ギャァアアア!!
するとリックが振り下ろした長剣からは真空波が放たれ、火炎龍を真っ二つにする。更に真空波は勢いそのまま、少女目掛け飛んでいった。
バシィイ!!
「やったか?」
「いや、まだだ」
カヴァリアがライアのぬか喜びを制したように、少女は未だ立っていた。だがその右頬は真空波に斬られ、鮮血が一筋流れ落ちている。
初めて傷を付けた。
『ほぉお』
少女は右頬を指でなぞり血を見ると、感心した表情をした。
「うわっ!」
すると少女は瞬間移動で、リックの目の前に現れた。
リックは驚きと恐怖ですくみ、動けない。
『妾を傷物にするとはな。三千年ぶりじゃ。褒めて使わそう。お前の名は?』
「り、リック……」
リックは震えながら答える。さっきは偶々攻撃が当たったものの、さらに長剣で斬りかかろうにも、彼女からの反撃を思うと腕が振れない。それは他の7人も同じだった。
「お、お前は誰だ!」
勇気を振り絞り、リックは問いかけた。
『……妾の名なぞ、どうでも良い。それよりもお前、ザルディアに来ないか? 妾の下僕として手当ても弾むぞ?』
「断る!」
即答だった。少女は怖いが第四騎士団を離れる気は毛頭ない。必死になって応対するリックの顔を見て、少女は面白がっていた。
『残念じゃな。お前に敬意を表して、この傷は残しておこう。まあ一興としては良かったか』
少女は彼らに背を向け、小屋の方へ戻って行く。
戦う気は無いらしい。
「待て!」
リックの言葉に反応し、少女が止まり振り返る。
逆にリック達の方が怯えて戦闘態勢を取り直した。
「ど、どこへ行く!」
『もう此処に居ても仕方ない。宮殿に戻る』
少女は何かを唱えると光に包まれ、上空へと上がって行った。
『まあ精々がんばるが良い。縁があればまた会うだろう。さらばじゃ』
そう言い残すと、少女は消えていった。
「……助かったの、か?」
「ああ、そうらしい」
「やったなリック! お前ならやると思っていたぜ!」
抱きついてくるライアを、リックはこそばゆく思う。
他の6人も警戒態勢を解いた。もう敵が来る気配はない。
「リック君、ありがとう」
「いえ、僕なんて……」
「いや、お前の勇気がなければ、私達は全滅していた。助けに来たはずなのに済まない」
「いえ、エメオラ様、そんなことないです」
エメオラとミズネにも感謝され、嬉しくなる。
改めて危機は去ったと実感し、リックは安堵した。
「あの女の子、エメオラ様は知ってるんですか?」
リックは疑問に思っていた。
少なくとも向こうは知っているようだった。
「会うのは初めてだが、あれほどまでの強敵は一人しかいない。ザルディア帝国の女帝、アグラピア」
エメオラの言葉に、6人は息を呑む。
「あの女の子が……」
「みんな、お疲れ様。とにかくこの場を離れましょう。確か目的地はカポ村だったよね? 私達も同行します」
「ありがとうございます、ミズネ様」
「カヴァリアもお疲れさん。良くやったよ」
こうして一行は危機を乗り越えた。
翌朝、ミズネとエメオラを交え、カポ村へと出発する。




