第019話 再会と和解
「え、これどういうこと? なんでうちのリックがあの化物に抱きついて泣いてんの? あの子、そういう趣味?」
2人を見て、フェリーヌはやや興奮しつつも戸惑っていた。
事情を知らぬ第三者にとっては、突然すぎる急展開だ。リックを巻き込む訳にはいかないから、ヴィクトスは剣を収める。野卍のメンバー達も、何が起きたのか判然としない様子であった。だが渦中の2人は周りを気にせず、感動の再会に酔いしれている。
「キトって、誰?」
状況を把握しようと、フェリーヌはライアにふってみた。
「確か、一緒に練兵学校に入った村の幼なじみって言ってたな。ノモニルの戦闘で死んだとか。今回の遠征参加も、その友達の形見を探す目的があるとかも言ってた」
どうやらライアは、キトの名を知っていたらしい。仕事の合間の雑談で、話題に上がっていたようだ。その説明でフェリーヌは察したらしく、無事を喜ぶ2人を見ながらフンフンとうなずいている。
「つまり、その幼なじみが実は生きてて、あの化物になったでOK?」
「あれが生きているなら、だけど」
トラケンが本気を出せば、ヴィクトスすら危うい。未だ警戒を解かないライアに対し、フェリーヌは別の思いに囚われていた。
「へえー。要は、死んだと思っていた幼なじみと感動で涙の再会ってわけね。これ、萌えるわ〜 美少年と野獣の組み合わせ、正に至高ね! 私的にはアシュxヴィクより萌えるかも! うは、こりゃ眼福眼福♡」
「お前、何言ってんだ?」
「はっ! あ、いえ……何のこと?」
思わず呟いた独り言をライアに聞かれ、フェリーヌは恥ずかしくなってはぐらかす。出かけたよだれも慌ててふいた。ライアは、それ以上フェリーヌに追求しなかった。
「生きてて良かったよ!」
「こんな姿になっちまったけどな。でもお前も生きてたんだな。死んじまったと思ってたぜ」
「お互いだね」
「まったくだ」
涙でグショグショになりながらも、リックは笑っていた。キトの方は改造手術のせいか、表情は変わらない。だが彼もリックとの再会を喜んでいた。
「どうやってその姿になったの? 僕は魔道士さんに助けてもらったんだ」
「そうか。俺は気づいたら、暗黒魔道士とやらに連れられて強制的に改造手術を受けていた。脱走して行き着いた先が、ここって事よ。こんな姿になっちまって、もう裏の世界でしか生きられねえしな」
自虐的な言葉に、リックは返答できなかった。
「積もる話もあるが、今はこれを片付けねえと」
「あ、そうだね」
「おい、ピー!」
トラケンに戻り、ピーに対し睨みをきかせる。
トラケンの強さを知るピーは、震え上がっていた。
「は、はひ?」
「財布、マジで盗ってねえのか? 嘘だったらぶっ殺すぞ!」
トラケンの勢いは凄まじく、ピーもしらを切り続けるのは無理そうだ。
俯きながら、観念して白状する。
「すいません、やりました」
「やっぱりな。おい、財布持っていった奴、出てこい!」
トラケンの声で、奥の方にいた野卍のメンバーがおずおずと出てきた。持っているのは、リックの財布だ。
「あ、これ!」
「良かったな。てめえら、二度とやるなよ!」
「はい!」
問題が解決して、一段落する。マルキーもトラケンの側にやってきた。
「悪かったな、トラケンのダチに」
「マルキー、気にすんな」
「これで、誤解はとけたかな」
ヴィクトスが、2人に向かって話しかける。
「ああ、すまねえ。俺達が悪かった」
「まあ、良くあることだ。気にはしないさ。それよりこれも縁だから、オレ達と組まないか?」
「組む?」
ヴィクトスの突然の提案に、マルキーはいぶかしい表情を見せた。
大人に散々騙されてきたのか、警戒心が強そうだ。
「お前ら、普段なにを生業にしているんだ?」
マルキーとトラケンは顔を見合わせる。
大人からそんな心配を受けるなんて、思いもよらなかったようだ。
「大した仕事はねえよ。底辺だからな。こいつらも、家を追い出されたあぶれ者さ。この特攻服だって、アパレルのバイトしてた奴が要らない服をもらってきて作ったんだ」
「総長として、こいつらの将来を考えた事はないのか?」
「もちろん、何とかしてえとは思うよ。でもみんな俺達のこと馬鹿にするだけで、まともに取り合ってくれねえんだよ。近寄ってくるのは、俺達よりもっとヤバい奴らばかりだし」
マルキーには、長としての悩みも垣間見えた。仲間だから大切に思っているものの、日々の生活が上手くいかずもどかしいようだ。
「オレは第四騎士団副団長のヴィクトス・リガネア。レガナ侯爵家の一員でもある」
「マジか! 凄えな!」
ヴィクトスの言葉に、マルキーは驚く。
彼も、侯爵家を知っているようだ。
「ここノモニルでの拠点を作りたいと思ってたんだ。お前らみたいなのが居れば、助かる」
「……そうやって俺達を騙してきた奴、一杯いたしな……第三騎士団の奴らも、ひでえもんだぜ?」
やはり簡単に信用はしてもらえないようだ。
「まあ、そうだろうな。今はこれだけしか出せないが、また後で相談させてくれ」
そう言ってヴィクトスは、自分の財布からアッシュコイン金貨五枚を渡した。
「くれるのか? これ、他のと違ってちゃんと金だな! 重さがちげえや! 彫刻もかなり凝ってるな」
「分かるか。オレ達が作ってる貨幣でな。今後ビジネスとして取引もしたい」
ヴィクトスの言葉に、マルキーは心動かされたようだ。しばらく考え悩んでいたが、決心すると再びマルキーが野卍メンバーの前に立った。メンバーは先ほどと同様に全員整列する。
「お前ら、野卍は第四騎士団に協力するぞ!」
ウァオオオ!!!
さっきまでの敵対的な態度が、嘘のように変わる。
こうして野卍と第四騎士団は同盟を結んだ。




