第018話 野卍と抗争(後編)
マルキーは近くにあった石段に上がり、野猛弍流卍会メンバーらの前に立った。
手前で座り込むピーを除く野猛弍流卍会の連中が、一斉に直立不動となる。いや、ピーすらその怪我にも関わらず正座している。
それほどまでに、目の前にいる少年は威光を感じさせた。
(すげえ……)
マルキーが皆の前に立っただけで、空気を変える。
これが野卍の総長……!!
リックらはどうしたものかと、事の成り行きをうかがっていた。
「あんたら、騎士団だな」
「いかにも」
ヴィクトスが返答する。修羅場をくぐってきたリーダーだけあって、彼らを微塵も恐れていない。その姿に、リック達はやや安堵していた。
「あんたらがウチとぶつかりゃ、でかい抗争になる」
(騎士団と抗争? 本気か?)
リックは信じられないが、ヤンキー共の眼は本気だ。
ここにいる5人だけではなく、騎士団全体と争う気なのかも知れない。
それなら更に大事となるのは、火を見るより明らかだ。
リックは自分のせいで犠牲者が出るかも知れないと、戦慄する。
殺気立つヤンキー連中を前にして、マルキーはゆっくり座った。
その隣には、相変わらず黒いフードの男が立っている。
「じゃあ、みんなの意見を聞かせてくれ」
ヤンキー達は相談を始めるものの、誰も自分から意見は言わない。
「どうする、ピー?」
ピーは黙って、正座しながら震えている。
その震えは、リックたちへの怒りのようであった。
「ヤる?」
「……相手は騎士だしウチもタダじゃ済まないし……野卍の皆に迷惑かけちゃうから……」
突然、ピーは涙ぐんだ。
「でも……悔しいよマルキー……」
「んな事きいてねえよ」
マルキーの言葉に、ハッとしてピーは顔を上げた。
「ヤんの? ヤんねえの?」
「ヤりてえよ!!! ぶっ殺してやりてえよ!!!」
(こいつら、アホか?)
自分の財布をスッといて、ヤられたからって被害者面してないか?
ヴィクトスと他の3人も静観しているけれど、少し呆れ顔だ。
リックはここからどうなるのか、不安になってきた。
「だよな」
「え?」
意外なマルキーの言葉に。ピーも虚をつかれる。
ピーも否定されるものと思っていたようだ。
「騎士団にピーやられてんのに、迷惑って思ってる奴いる!?」
シーン……
リック達も、黙っているほかない。
「ピーやられてんのに、騎士団に日和ってる奴いる?」
シーン……
「いねえよなぁ!!?」
ウオォオオオ!!!!
「騎士団潰すぞ!!!」
ワァアアアアア!!!
マルキーの声で、野卍の連中がリック達目掛け襲いかかってきた。
「参ったな」
ヴィクトスは苦笑いしつつ、4人の前に出る。こんなチンピラ達に震え上がると思われているなんて、心外といった風だ。
ヴィクトスが背中のロングソードを抜き大上段の構えをとったても、彼らの勢いは止まらない。日頃から騎士団を舐めているのだろう。
そんな彼らに対し、ヴィクトスは目にも止まらぬ速さでロングソードを振り下ろした。
ブンッ!!!
「うわぁああ!!」
「総長!」
ヴィクトスの一振りで起きた風圧で、野卍の奴らはマルキー含めみな吹っ飛んで、倒れ込む。やはりヴィクトスの強さは、桁違いだ。剣を当てる必要すらない。不殺でも十分通用している理由が、理解できた。
「うう……」
何が起きたのか分からなかったマルキーらが、よろよろと立ち上がる。
だがさっきまでと違い、戦意喪失気味だ。
しかし野卍でも一人だけ、無傷の男がいた。
それは黒フードに身を包む、マルキーの後ろに立っていた男。
マルキーらに代わり、男はヴィクトスに立ち向かう。
再度ロングソードを振り下ろしても、男はビクともせず前進してきた。
「こいつ、やるな」
ヴィクトスから、余裕の笑みが消える。
「トラケンさん!」
「やって下さい、トラケンさん!」
トラケンと呼ばれたその男は、ヴィクトスの前まで来ると黒いフードを脱ぎ捨てた。
「何!」
「こ、これは!」
男は、全身が機械化された人造人間だった。
黒光りする鋼の左腕は残虐な鍵爪になっている。両手両足に胴体も、全て機械でできている。頭部しか人の名残はないが、顔の一部は整形され、脳に機械が埋め込まれていた。
まさに全身武器の人間兵器だ。
この異常な人間を前にして、ヴィクトスも真剣になる。
「てめえ、オレ達を舐めんなよ。ここがお前の墓場だ。殺ってやるよ」
「そうか。オレも少しは本気が出せそうだ」
(え?)
リックはその男の声に、聞き覚えがあった。
「かかってこいや! おらぁあ!!」
(まさか?)
ガガァーーン!!
ヴィクトスの踏み込みにトラケンが耐えた時、リックは思わず叫んだ。
「もしかして、キト?」
「お前……リック?」
ヴィクトスの剣を左腕で受けながらも、トラケンはリックの言葉に反応した。
リックの顔を見て、驚いている。彼も見覚えがあるようだ。
「やっぱりキトだね! 生きてたんだ!」
リックは一目散に、トラケンに駆け寄った。




