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第017話 野卍と抗争(前編)

「クジラ、食べたことある?」

「ううん、ないな」

「刺身でもステーキにしても美味しいよ♡ わたし、 口の中でとろける感じが好きなんだ。それに一頭とれると七浦(ななうら)(うるお)うって言うぐらい、お肉が沢山あるの。食べるとこ以外も全部利用できるし、みな感謝して使うんだよ。沖まで船で出て見るホエールウォッチングも楽しいよ」

「ヘェ〜 そうなんだ」


 昼下がりの警備は先ほどと打って変わり、2人の会話が弾む。海の話題で持ちきりだ。セラナは話相手が欲しかったのか、饒舌である。それに対し先頭の3人は、表面上警備に集中している。


 幸い何事もなく、夕方になった。


「そろそろ、交代しに戻るか……」


 ヴィクトスが言い始めた、その時である。


 ドンッ!


「痛えな、ボケっ!」

「あ、すいません」


 黒い特攻服を着込んだ男がリックにぶつかった。

 よそ見をしていたせいもあり、リックはひたすら謝る。

 けれど、男はそれ以上何も言わずに通り過ぎて行った。


「いや〜失敗、失敗」


 呑気なリックに対し、類稀(たぐいまれ)な動体視力をもつセラナは、男の仕草を見逃さなかった。


「リック、お金!」

「え? あっ! 無い!」


 その男は、リックが腰に付けていた財布をスっていた。

 慣れた手付きで、男は人混みの中に紛れ込もうとしている。


 さっきの昼食代など何かに使う為に、あの財布には金貨三枚、銀貨五枚入っている。大金だ。ヴィクトスら3人は逆方向で少し先に行ってるから、報告しに戻ると男を見失う。


 とにかく捕まえようと、リックは男を追いかけて行った。


「待って下さい〜!」


 気がはやるリックだが、夕方の帰宅時のせいで人が多く、男をうまく捕まえられない。まだ暑い季節に真っ黒の特攻服は目立つけれど、それでも追いつけない。男もリックの声に気付いたのか、足取りを早めていた。


(ヤバい!)


 そのまま逃げ切られそうで、リックが絶望を感じた時であった。


 ヒュッ!


(え?)


 リックの顔の側を、何かが見えない速さで飛んでいく。すると、


「ギャァあ!!」


 とさっきの男の叫び声が聞こえた。人が集まり始めたので現場に行って見ると、矢が男の足にささって、悶え苦しんでいる。


 振り返って見ると、二の矢を用意して構えるセラナがいた。


(弓で、あそこから……)


 正確無比な彼女の凄技に、リックは驚く。

 フェリーヌが優秀だと言っている意味が、分かった。


「どうした?」

「あ、ヴィクトスリーダー、僕の財布が盗られまして……」


 セラナが呼んだのか、ヴィクトスらも引き返してこちらに来た。


「おー、どうした?」

「何だ何だ?」


 だがそれよりも、男と同じ黒い特攻服を着た若者たちがゾロゾロと周りから現れ始める。少なく見積もっても、数十人はいる。その異様な雰囲気に、一般の人達は遠ざかっていった。


「お、ピーちん、お前どうしたんだ!」


 彼らが来たことに気づき、ピーちんと呼ばれた男はいっそう大袈裟に(わめ)き、のたうち回った。


「痛えよ〜 あいつにやられたんだ!」


 ピーは、リックを指差す。


「あぁ! お前ら、野卍(ノーマン)のピーちんと知っててやったのか? あぁ?」

野卍(ノーマン)?」

「泣く子も黙る【野猛弍流(ノモニル)卍会(まんじかい)】だ! 文句あんのかぁ?」


 どうやら、彼らが【野猛弍流(ノモニル)卍会(まんじかい)】らしい。

 ヴィクトスが言っていたように、ヤバそうな連中だ。頭がイカれている。

 大勢にヤンキー達に睨まれ、リックは(ひる)みながらも反論した。


「お前が僕の財布を盗んだんだろ!」


 だがヤンキーは狡猾だ。


「え? 財布、どこにある?」

「おれ、持ってねえよ! 痛えよぅ〜」


 ピーが言うように、既に彼の手元に財布はない。ヤンキーの得意技で、人混みに紛れ素早く誰かに渡したのだろう。これではピーが冤罪をかけられた形になり、リック達が不利になる。


「うっ……くそっ……」

「てめえ、ピーちんに言いがかり付けんなよ!!」


 ヤンキー達は直ぐにでも喧嘩しそうな勢いだ。リックが武装しているとはいえ、街中で大立ち回りを演じるのは避けた方が無難であろう。


「私の弓で全員動けなく……」

「いや、やめろ、セラナ。これ以上こちらが先に手を出すと、後々面倒になる」


 ヴィクトスに制止され、セラナは弓をおろす。若者の一人がピーとやらの足から矢を抜き、止血処理をして包帯を巻いていた。さすがヤンキー、喧嘩慣れしている。


「おい、おっさんよう? これどうしてくれんの?」

「ピーちん、可哀想に。これ一億ゴールドかかるな」

「そんな訳ないだろ!」

「迷惑料込みよ。あんたら、その格好、騎士なんだろ?」

「いいのかなあ? 騎士様が、か弱い一般人を虐めて」


(くそ、こいつら……)


 リックが言い返しても、まともに取り合ってもらえない。 

 もっと自分が強ければと、もどかしく歯痒い。



「おいお前ら、どうした?」

「総長!!」


 人だかりの中、一際よく通る声がした。するとピーを除く【野猛弍流(ノモニル)卍会(まんじかい)】の輩は立ち上がって整列した。


 中央から出てきたのは、金髪で小柄な少年だ。


 リックと同じか少し上ぐらいに見える。その後ろには真っ黒なフードを被った男がいた。服の背中には”猛虎”の文字と虎の刺繍が施されている。


「お疲れ様です、総長!」

「総長、ピーちんがこいつらにヤられたんです!」

「なに? ピーが?」


「マルキー、ごめん……」


 どうやら総長の名前はマルキーと言うらしい。

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