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第015話 ノモニル目指して出発

「え、これ、ネ……」

「犬だ」


 リックが言いかけた単語に被せるように、ライアは否定する。

 周りからも気まずい雰囲気を、リックは感じた。


「何かで見たことが……」

「い ぬ バ ス ! 気のせいだ。この世界では犬バスしかない。気を付けろ」

「は、はい……」


 ライアに押され気味となり、リックはこれ以上の追求を止めて話題を変える。


「こういった聖獣、他にもいるんですか?」

「ああ。団長達によれば、第四騎士団として契約してるんだとよ。普段は山ん中で暮らしているが、こういう時に来てくれるんだ」

「へえ」


 リックが感心していると、犬バスの一匹がリックの存在に気付き、ニヤリと笑った。少し年寄りで白い毛もややくすみ、ところどころ抜けている。


『おう、新入りか。よろしくな』

「し、喋った!」


 リックは驚く。第三騎士団にいた聖獣は戦闘に特化して見かけが恐ろしく、会話なんて発想は誰も持ち合わせていなかった。リックの表情を見て、その老犬バスは尻尾をパタパタ振りながら話しかけてくる。


『わしらは長生きだからな、気付けばお前らの言葉も覚えていたのさ』

「そうなんですか、よろしくお願いします」

『ああ。とにかく生き延びろ』

「はい」


 今まで沢山の兵士を死地に送ってきたのだろう。

 一度死にかけたリックにとって、他人事ではなかった。


 バサッ、バサッ!

 キィイ! キィイ!


 今度は大きな鳥が来たらしい。鳴き声で気づき空を見上げると、鳥ではなく翼竜(ワイバーン)の群れだった。この前の天馬(ペガサス)の群れと同じく、統率が取れている。


「あれも一緒に行くんですか?」

「そうだ。あれは騎士様御用達さ」

「へえ」


 あんな翼竜(ワイバーン)が六匹もいたら、オーク達の砦なんてイチコロに違いない。まだあの戦闘のトラウマは残っているものの、リックは心強く感じた。


 *  *  *


「そろそろ、みんな良いかな? 全員揃ってる?」


 アシュリートとヴィクトスが本部二階のバルコニーに現れて、広場にいるリックたちにアシュリート団長が話しかけた。今日は正装で団長の髪の毛も整えられている。メガネも似合い、引き締まった顔だ。


「はい、全員います」


 点呼していた騎士の1人が、アシュリート団長に返事する。


「良かった。今回は遠征への参加ありがとう。国境地帯は危険がいっぱいだ。戦場は人の心を惑わすから、くれぐれも気を付けるように。僕も大切な時には、念話で会議に参加するよ。僕も詳細を知るのはこれからだけど、うまくいく為には何でもやる。とにかく、無事に帰ってきてください。じゃあまずは何時ものように、武器庫で装備を取ってきて」


 ガヤガヤ……


「行こうぜ、リック」

「はい」


 団長の言葉で一旦解散となり、リックはライア達と一緒にぞろぞろと武器庫について行く。広い建物の中には、様々な武器や鎧が置かれてあった。外はまだ暑いが、ここは冷んやりしていて温度調節もされている。


「お前、ここに来るのは初めてか?」

「はい」

「そうか。まず欲しい物にタグをかざすんだ。お前のレベルに合ってたら、青く光る。その中で好きなものを取れば良い。荷物袋は一つだけだから、重さや量に気をつけろ」


 リックは試しに近くにあった刀にタグをかざすと、青く光った。ラベルも見える。


『ショートソード;使用可能 過去の使用歴3回、摩耗度5/100』

「これは?」

記録の連鎖(レコード・チェーン)を使って、使用歴が分かるようになってるんだ。魔法を組み込めば、誰が使ったか、手入れの状態といった情報も分かる。だから同じ武器でも、丈夫な方を選べ。歩兵向けの新品装備は最近作って無いから、それは良い方だな」

「へえ」

「じゃあ、俺は自分のを探してくる。お前も決めてみろ」

「はい」


 ライアと分かれて、リックは自分で武器庫を回った。防具も、第三騎士団とは比べ物にならないほど丈夫な造りである。沢山ありすぎて選ぶのを悩むが、重すぎても使えないので、練習でも身に付けていた革鎧(レザー・アーマー)にする。武器は片手で扱えるショートソードに加えてナイフにした。重量に余裕があるので盾も持っていく。


 これだけで、第三騎士団なら中隊長の装備だ。

 リックは心なしか自分が強くなったように感じた。


 小一時間ほどたって全員の装備が決まり、リックも荷袋を背負い剣を腰につけ再び広場に戻ってきた。ライアは頑丈な肉体にあった両手用の大きな剣を持ってきた。フェリーヌは白い魔道服と杖の装備だ。


「じゃあ、俺達騎士は先に行く。犬バスたちに伝えてあるが、目的地はノモニル郊外の第三騎士団駐屯地だ」


 そう言ってヴィクトスたち騎士は翼竜(ワイバーン)に乗り込むと、一気に垂直上昇で上空高く舞い上がった。翼竜(ワイバーン)達の足には、装備らしき大きな箱がくくり付けられている。


 そして翼竜(ワイバーン)らは凄まじい速度で飛んでいき、あっという間に見えなくなった。


(また、あそこに行くのか……)


 第三騎士団駐屯地に、風景を思い出せるくらいの馴染みはある。ただ第四騎士団の環境に染まったリックは、懐かしいより抵抗感が少しあった。またあのギラ大隊長に怒鳴られると、トラウマのように過酷な過去がフラッシュバックしそうだ。だが行くと決めたのだから、そこは割り切るしかない。


「ほれ、お前も乗れ。行くぞ」


 ライアが翼竜(ワイバーン)に見惚れていたリックを引っ張り、犬バスに乗る。


「ここに座れ」とライアに言われたので、ライアとフェリーヌに向かい合う形で座ろうとした。すると隣には、女の子が先に座っていた。何度か見かけた記憶はあるものの、会話をしたことはない。フェリーヌより長く黒みがかった髪の彼女は、細いが丈夫そうな弓を持っている。自分と同じぐらいの歳に見えた。


「ここ、良いですか」

「はい」

「ありがとうございます、すいません」


「ベルト、しっかり締めとけ」

「はい」


 ライアの指示で、席についていたベルトを締める。

 これなら多少の激しい揺れでも大丈夫そうだ。


 ワゥウ〜!

 

 犬バスは一声大きく鳴くと、勢いよく駆けていった。八艘飛びのように木から木へと飛び移るので、予想外に激しく寄れた。慣れないリックは「うわぁあ」とバランスを崩して、席から転げ落ちそうになる。


「舌噛むぞ! 気を付けろ!」


 !!!! 〜〜 ……


 犬バスの乗り心地にもだんだん慣れてきて、やっと会話する余裕もできてきた。


「そうそう、紹介遅れたけど、彼女知ってる?」

「いえ、見かけたことはありますが」

「そっか。わたしらの後輩で、セラナって言うんだ」

「はじめまして。僕はリックです。お2人と一緒にエメオラ様の所にいます」

「はじめまして。よろしく」


 リックの目を見て少し微笑んだので、つられてリックも口元を緩ませる。南方系でフェリーヌと同じ茶色の瞳がきれいだなと、リックは思った。健康的に少し焼けた肌も南方を感じさせた。初めての犬バスでみっともない所を見せてしまったが、セラナは気にしていないようだ。


「いつもの場合、騎士1人にわたしら4人ぐらいで組んで行動するから、誘ったんだ。弓の腕前すごいんだよ」

「そうなんですか」

「いえ、それほどでも」


 セラナは謙遜しているものの、満更ではない顔をしている。


「ところで、不殺の掟を守りながらどうやって任務を遂行するんですか?」


 リックは常々疑問に思っていたことを聞いてみた。第三騎士団ではまず「殺せ」しか教わっていない。練習でモンスターの動きを止める技を習ったものの、実践できる自信はまだなかった。それにどんな命令を受けるのか分からないので、不安でもあった。


「色々なんだよねえ。状況による。ヴィクトス様が相手の頭領に力比べを挑んで勝つとか、ミズネ様が飲み比べで勝つとかもあったな。ミズネ様、ああみえてザルなんだ」

「そうなんですか」


 想定外な勝負の付け方で、リックは意表を突かれた。

 確かに相手が負けを認めるならば、殺す必要はない。

 相手次第ではあるが、これも一つの解決法だ。


「まあ大抵はヴィクトス様の強さに恐れをなして、向こうから和平を申し込んでくるかな。だから大丈夫だって」

「そうなんですか」


 気楽に見えるフェリーヌやライア達の意味が、分かってくる。もともと悲観的な性格のリックだったが、彼らの言葉で恐怖心も少し和らいだ。


 *  *  *


 夜、リックたちは目的のノモニル駐屯地に到着する。

 ヴィクトスと騎士らが出迎えに現れ、犬バス達に報酬を渡し皆で見送った。


「遠路はるばるご苦労。すでに第三騎士団に挨拶を済ませている。ここの使用許可を貰ったので、テントを作っておいたぞ。しばらくはここからの活動になるから、今日はゆっくりしておけ」


 既に到着していたヴィクトス達は、駐屯地内の一画に個室テントを設営していた。初日は持ってきた食材をリックらで料理し、和やかな雰囲気で夕食も終わる。まだ旅行気分が抜けきれないまま、一日目が終わった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ネ?………………期待を裏切らないでいて下さり、ありがとうございました。(笑) とうとうヒロイン登場か!? 少々無口系にも見えますが、表情は豊かなようです。 期待値大であります! こら!…
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