第014話 GBガブリエル・コルディアからの伝言
「兄さんじゃない! GREAT BOSS、ガブリエル・コルディアだ! 俺はコルディア家の長男だからな。お前とは違うんだ、お前とは!」
どうやら優雅な見かけによらず、気が短いようだ。それはどうかとリックが思うほど、言葉遣いも性格も良くない。どこの長男も、似たようなものらしい。
「はいはい、GREAT BOSS。ご多忙の折、我が駐屯地にご来訪下さり誠に恐縮至極です。どんな御用件でございましょうか?」
兄弟仲が良好とは思えないものの、この返しで斬り合いをしないぐらいは大丈夫なようである。リック含め一同は、事の成り行きをヒヤヒヤしながら見守っていた。
「相変わらずこんな辺鄙な場所に住みやがって。父上が見たら卒倒するぞ」
「大丈夫でしょう、コルディア侯爵様は、僕みたいな勘当同然の息子に全く興味ないですよ。それで、用件は?」
「ああ、聞け! 震えて喜べ! ヨハン八世直々の勅令だ!」
「ふうん」
広場にいる皆はザワザワし始めた。
隣にいるライアが、「こんなの初めてだな」と言う。
以前の会話から、アシュリー団長達の国王への感情をリックは容易に想像できた。
実際、アシュリー団長の顔は心なしか曇っている。
ガブリエルは腰につけた小袋から手紙を取り出し勿体ぶって広げた後、読み始めた。
「いいか、読むぞ。お前らもよーく聴いておけ!
『第四騎士団 アシュリート・コーディアル団長へ
わがオロソ連邦王国の繁栄は貴下らの多大な貢献によるところであり、厚く感謝する。だが近年ザルディア帝国の我が国への越境行為甚だしく、国民が払った犠牲は甚大で、これ以上は耐え難き屈辱である。王都カルタホでは連日帝国打倒のデモで騒がしく、民は疲れ果て朕も困窮しておる。
そこで貴殿ら第四騎士団の、国境地帯ノモニル地域への派兵を命ずる。魔王帝国軍が二度と国境侵犯をせぬよう、完膚無きまでに殲滅せよ。準備予算は100万ゴールドとする。吉報を期待する。
ヨハン゠ウェンツェル・ロクリナス八世より』
分かったか?」
ガブリエルが読み終えたと同時に、沈黙していた人々は再びザワザワし始める。
アシュリート団長は表情を変えず、ガブリエルに尋ねた。
「つまり、国境戦線に参戦しろですか。でも国境紛争は、第三騎士団の管轄じゃないの?」
「さあな。国王の胸の内は知らん。俺が出席してない会議で決まったし、単なる伝令役だ。第三騎士団長は相変わらずの策士だから、何か企んでいるとは思うが」
「そうだろうね」
「どうする? 分かってると思うが、拒否の選択肢はないぞ」
「まあ、そうですね……拒否したら謀反の疑いありで、しょっ引かれるのでしょう? ただここでは皆で相談してから決めるので、お時間を頂いても宜しいですか? 明後日までには決めます。返事は狼煙の色で」
アシュリート団長の返答に、ガブリエルは苦笑いしていた。
「相変わらず面倒でまどろっこしい奴らだな。だから次男なんだ」
「仕方ないですよ、兄さん。いやGREAT BOSS」
「じゃあ頼んだぞ。俺はヨハン八世に報告してくる。では者共、帰るぞ!」
「はい! GREAT BOSS!」
よく揃った掛け声と共に騎士たちは天馬に乗り込み、再び空を翔んで帰って行った。
「いや〜 相変わらずだな、お前の兄さんは」
一角天馬と天馬達の群れが見えなくなった頃、いつの間にかヴィクトスが館の玄関まで来て、二階のバルコニーにいるアシュリート団長に話しかけていた。
「仕方ないよ。あの人はあの人で、苦労が絶えないからね。それよりどうしよう?」
「まずは、話し合いだろう?」
「そうだね。じゃあ皆、良いかな? 夕飯後に、会議を始めるよ。広場に来るか、通話魔法をオンにしておいて」
こうしてガブリエル・コルディアの件は終わり、広場にいた一同は持ち場に戻っていった。リック達も畑に戻り収穫を始める。
そして夜、夕食後に会議が始まった。通話魔法は支給されたタグを使い、誰でも双方向で会議ができる仕組みだ。リックは部屋で参加することにする。アシュリート団長の立体映像が現れると、今回の概略を話し始めた。
「……とまあこんな感じだけど、意見をもらえるかな?」
それからは様々な人々が意見を出し始めた。こういった会議のやり取りは慣れているようで、話し合いは紛糾することなく円滑に進む。小一時間ほど経った後、意見がまとまり始める。
大体の人が、受けるのは仕方ないと捉えているようだ。
焦点は、参戦期間、人数と装備の規模であった。
「ヴィクトス、やはり君にお願いしても良いかい?」
「ああ。ただ此処を手薄にする訳にもいくまい。連れて行く騎士は6人、全体で40人ほどの規模でどうだ? 予算を考えると、一ヶ月ほどの遠征規模だろう」
「妥当かな。みんな、どう思う?」
異論はなかった。
「じゃあ明日の朝、青の狼煙をあげるよ。明後日までに志願者を募ります。報酬は騎士見習いが1万ゴールド、騎士が5万ゴールド。悪いけど、一ヶ月分の手当てでもある。明後日の朝、広場に来るように。じゃあ、これで終わり」
アシュリート団長の立体映像が消えた。
会議終了後、図書館に行くとライアとフェリーヌがいた。
「リック、お前はどうする?」
「行こうかなと思っています」
リックにとって、あの戦闘の後、ノモニルがどうなったか知りたい。
キトは死んでしまったけれど、何か形見が残っているかも知れない。
「俺とフェリーヌも行こうと思ってんだ」
「頑張りましょう」
「はい!」
見知った2人が一緒に来ると知り、リックは少し安心する。
そして二日後の朝、広場に行くと大体予定通りの人数が集まっていた。
装備などは支給されるらしく、個人的に必要な物だけを荷物袋に詰めてきた。ライアとフェリーヌも、似たような格好だ。もっとも騎士見習いだから、自分以外の雑用もこなす必要がある。
「どうやって行くんですか?」
リックはライアに尋ねる。下っ端だから覚悟しているものの、あの狭く険しい道を行くのかと不安になった。騎士達の荷物なども一緒に運ぶなら、かなり大変だ。
「こういう時は、聖獣で行くんだ」
「聖獣?」
何だろうと思っていると、遠くから、
ワォオ〜ン! ワォオ〜ン!
と、犬らしき叫び声が聞こえた。
すると奥の山からおっきな何かが、ガサっガサっと森の上を飛ぶように走ってくる。
(何だ何だ?)
リックが不思議に思っていると、その物体は広場に止まる。
それは沢山の足を持つ、大きな大きな三匹の犬だった。
ちょうど背中に、人を乗せられる空間がある。
「《犬バス》だ」
ライアが言った。




