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第104話 勢いで何とかなりそうな気がすると、ハマる時が多い

 一方、こちらは牛魔王が統べる焔炎(えんえん)城。団員達が視認していたように火山の麓にあり、山と同じ赤茶けた色の頑強な城だ。


 その城を囲む石造りの城壁の上では、2人のミノタウルスが見張り番をしていた。片方が双眼鏡で遠方を視察中、驚いて素っ頓狂な声をあげる。


『うわ、何だ!!』

『どうした?』

『人間達がこっちに来るぞ!』

『はぁ? あの硫酸沼を人間が渡れるはずがないだろ? お前バカか?』


 もう一人のミノタウルスが呆れた声を出した。

 だが双眼鏡を持つミノタウルスはいたって真剣で、双眼鏡を渡す。


『じゃあ、お前見てみろよ』


 渡された相手は疑いの眼差しをかけるものの、双眼鏡を覗いてみる。


 すると、


『どれどれ……うわ、マジかよ!!』


 土煙の中を疾走する血気盛んな人間達を目の当たりにし、事の重大さを悟った。硫酸の毒沼は鉄壁の防御を誇り、人間どころかモンスターすら渡れないのが常識だ。先ほど一瞬雲が暗くなり硫酸沼で土煙が濛々(もうもう)と湧いたけれども、二人は単なる自然現象と思い込み敵襲なんて夢想だにしなかった。


 そんな慌てふためくミノタウルスの事情など露知らず、モンスターを食糧と勘違い気味の団員達が遮二無二突進してくる。


「今日も明日もバーベキューだ〜!!」

「肉いっぱい食うぞ〜!!」

「ハラミがうめえんだよ、ハラミが!!」


 今までの旅の苦労もなんのその、みな元気ハツラツだ。


 どうもミズネがかけた『神の御加護』が、効き過ぎている。空きっ腹で酒を飲んだ時みたいに五臓六腑に染み渡り、いつもより三割増しらしい。


 防御が強固であればあるほど、一度崩されると脆くて呆気ない。

 副作用がもたらした予想外の勢いは、見張り番を焦らせた。


 カンカンカンカン!!!


 モンスターの殆どが初耳だった、緊急時用の鐘が鳴る。


『敵襲だぁああ!!』

『緊急事態発生!! 大至急配置につけぇ!!』

『急げぇ!!! マジでやべえぞ!! 早くきてくれぇ!!』


 ミノタウルスは大声で必死に怒鳴り続ける。普段なら人間は狩る対象だが、目の前に迫ってくるあいつらは明らかに違う。


『なんだなんだ?』

『へ? 敵襲?』

『ありえんだろ? 抜き打ち訓練か?』

『ちげえよ! 人間達が襲ってきてるんだ!!』

『? お前なに言ってんだ?』


 この焔炎(えんえん)城にいるモンスターはミノタウルスをはじめ、コボルトやリザードマンといった凶悪な獣人を中心とした一騎当千の猛者どもであり、攻めるのは慣れていたが攻められる経験は皆無だ。しかも今回はモンスターですらなく人間だというから、みな半信半疑のまま支度をしている。


 その一瞬の油断を見逃さず、エメオラの攻撃魔法が城壁に炸裂した。


爆火焔(ファイアーボム)!!」

 

 ドドーン!!

 ガラガラガラ!!!


『うわぁ!!』

『なんかヤベェぞ、これ!!』


 強固な城壁もエメオラの高レベル魔法の前ではおもちゃのように崩壊し、モンスター達はびっくり仰天だ。そして団員達は勢いそのまま城内に雪崩れ込む。


 ワァアアア!!!!


 ここに至り、他のモンスター達も目が醒める。あいつらが攻め込んでくる理由は謎だが、売られた喧嘩は買うのが流儀。モンスター達も戦闘モードに頭を切り替えはじめた。


 対してアシュリート団長は特に統制せず策も講じていない。

 このまま人間とモンスターの戦闘が勃発する。


 ボカ!! ドカッ!!

 ギャス!! グホ!!


 接近戦で魔法や弓を使うと同士打ちの恐れがあるため、エメオラやセラナは後方に下がり、ヴィクトスが先頭となってカヴァリアやライア、リックらいつもの面々が立ち向かう。剣でさえ振り回すのは危険な状況で、次第に拳で(かた)を付ける敵味方入り乱れての乱打戦となった。


 ドスッ!!

 ゴン!!

 ボカボコ!!

 ガガガガン!!


 団員達にかけられた『神の御加護』が持つ時間次第だから、短期決戦である。しかしモンスター達もただではやられない。五分五分のまま時間だけが過ぎた。


(何とかなるかな? どうだろう?)


 アシュリートは無策で放ったらかしの訳ではなかった。こういった荒くれ者のモンスター相手には、下手に出るより力を誇示した方が有利な時もある。相手の強さを見ていると不可能じゃない。仮に牛魔王が九尾狐以上のレベルとしても、いざとなれば自分が場を取りまとめられる自信もあった。


 そんな団長の期待に応え、ヴィクトス始め力自慢の団員達がモンスター達を蹂躙している。この展開は意外であるものの、効果の持続がいつ迄かは分からなかった。


 やがて怪我や疲弊した団員が現れて後方のエメオラらが防御魔法を使いガードし始めた頃、戦局が動く。


 ガガガガガッ!!!


「おい、地震だ! 揺れたぞ!!」


 地面が派手に揺れ、団員達は一瞬怯む。やがて焦げ臭い匂いと熱気が辺りを包みはじめた。何事かと思っているうちに、この山の頂上付近に噴煙がたなびき始める。


 ドッガーーーンン!!!!


「噴火だぁ!!」

「やべぇ!!!」

「みんな、無理せず避難して!!」


 団員達は噴火に驚き、ぱらぱらと小石が降る中を後ずさる。

 だがこれは序章に過ぎなかった。


 バァアアーーーン!!!!


 火山を背にし、城の扉が開いた。


 ドン!

 ドシンッ!!

 ドーン!!

 ドドーン!!!

 ドドドドーーーン!!!


「……デカ過ぎんだろ……」

「や、ヤベェ……」


 現れたのは、確かに牛魔王の名に相応しい異形の魔王だった。


 騎士団で一番大きなヴィクトスでさえ子供、いや赤ん坊に見えるほどの大きさだ。これほど大きな二足歩行型モンスターは初めてだ。一体何を食べればここまで大きくなるのか、不思議でならない。


 加えて丸太のようにぶっとい六本の腕は鉤鎌刀(こうれんとう)や青龍刀、二郎刀に七枝刀などを握って片手で振り回している。しかも鋭い六つの目を持つ無表情な牛の面が恐怖を一層引き立たせ、睨みつけると百戦錬磨の団員達でさえ震え上がった。胸部から下は一体分で足は二本だから、胃袋の数が三体分は無さそうだ。見た目の戦闘力は九尾狐を超えており、最後の門番としてふさわしい相手とも言えた。


『牛魔王様、お願いします!! こいつらをやっつけて下さい!!』


 モブと化したモンスター達の応援の声を受けながら、牛魔王はノッシノッシと向かって来る。一歩一歩が地震並みの威力で、彼らは巻き添えを食わぬよう牛魔王と入れ替わりで後退した。


『お前ら、一体何しに来た?』


 腹の底から響く声で、牛魔王は尋ねてきた。さすがアシュリート、こんな化け物を前にしても動じるそぶりは一切見せない。翻訳魔法を使い穏和な表情で話しかける。


「初めまして、牛魔王様。第四騎士団団長のアシュリート・コーディアルと申します。血気に(はや)るうちの団員が、とんだご無礼をすいません。この先のガーダラサに行きたいだけなんですよ」

『お前らか!! ガーダラサへ不法侵入するつもりの不届き者は!! 通すものか!! ここがお前らの墓場だ!!』

「不法侵入? そうですか……」


 予想通りとは言え申し出を断る牛魔王に、アシュリートは考え込む。

 アシュリートの強さを感じてか、牛魔王も直ぐには手を出さない。


 こう着状態の中、ライアが戦闘斧を携えながらリックに声をかけた。


「リック、まずは俺達であいつをやろうぜ! あいつが少しでも消耗すれば、ヴィクトスさんやアシュリートさんがやってくれるさ」

「はいっ!!」


 リックも応じて長剣を背中から取り出す。いつもよりテンションが高いから、とにかく何でもできると思っている。2人は両脇から牛魔王目掛け飛びかかった。


「行くぜ!! うぉりゃぁああ!!!!」

「うぉおお!!!!」


 ガッシーーン!!!

 ドッゴーーーン!!!


 お互いの武器を思いっきり牛魔王に打ちつける。

 だが、鋼鉄でできているのか傷ひとつつかない。


『グォオー!!!』


 ドーン!!


 牛魔王は雄叫びを上げ、足を踏む。

 爆弾並みの衝撃で再び地面が揺れた。


「うわ、マジで化け物だな。やべえな、リック」

「ライアさん、気をつけましょう。フェリーヌ先輩のためにも死んじゃダメですよ」

「当たりめえだ。お前も気をつけろ」

「はいっ!!」


「あ、ちょっと待って君たち」


 アシュリートが止めようとしたものの、体勢を立て直し再び挑む2人の耳には、全く入らない。そんな2人が目障りになったのか、牛魔王は手に持った六つの剣を振り始める。


『小蝿どもめ。我が神技を受けてみよ!!』


 ピカァアアーーー!!!


 牛魔王の持つ刀剣が、真っ赤に光り始める。

 その光が集合し、2人目がけて撃ち込まれた。


 ダダダダダーーン!!!!!

 ボガァアアーーーーーンン!!!!


「伏せてっ!!」


 ゴゴゴゴゴォオオーーーーン!!!!

 

 凄まじい爆発の後に、衝撃波が付近一体に広がる。

 爆風がおさまった後、団員のほとんどは倒れ込みうめいていた。


「リック!!!」


 幸い後方で無事だったセラナが、リックの名を叫ぶ。


 しかし、何度呼んでも返事は無かった。

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リックゥ──ッ!! おのれ牛魔王ッ! 主人公様を何だと思っているんだ!? だが、君はババ札を引いたことに気付いているかい? 第四騎士団には変身ヒロインがいるのだ! GO! GO! セラナ大魔神様! …
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