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第16話 誓いのはじまり

《俺の迷宮》

俺は自室に引き籠った。


俺を守って黄色キングストンは逝ってしまった。


全ては俺の油断だ。

俺のミスだ。


あの時、なぜ慎重な判断をしなかったのか。

あの時、なぜ簡単に討伐できると思ったのか。

あの時、なぜ根拠がない自信を持ったのか。


なぜ。


なぜ。


そればかり。


悔やんでばかりだ。


黄色キングストン

思い浮かぶのは、黄色キングストンの笑顔。


目の前にある黄色キングストンを見る。

ただのかたまりと化したオリハルコン。


3メートルはあったその大きさは、太古の溶岩魔神の溶岩に溶かされて、俺よりも小さくなってしまった。

それだけ、最後の最後まで身を挺して、俺のことを守ってくれたのだ。


黄色キングストンの核は壊れた。

俺はゴーレムクリエイターだが、核を失ったゴーレムを元に戻すことはできない。


“特殊な8オクタゴン”が意志を持っている理由は、希少レアな鉱石を素材にして作ったからではない。

その核に“宿魂石ソウルメタル”という、極めて特殊な輝石を使っているからである。


アダマンタイトやオリハルコンなどの鉱石であれば、俺の迷宮の中を探せば手に入れることができる。


だが、“宿魂石ソウルメタル”は簡単には見つからない。

百年やそこら探したくらいでは見つからないだろう。


それだけ特殊なのだ。


黄色キングストンは、俺にとってどういう存在だったのかな。

家族かな?

親友かな?


いや、俺だな。

俺の一部だ。


・・・・・・・・。


あの女。


嘲笑ってやがった。

世界を潰すと言ってやがった。


絶対に許さん。

絶対に報いをくれてやる。


でも。


でも、いまは黄色キングストンと一緒にいたい。


少しだけ。


いまだけ。



しばらくすると、俺の部屋の扉をノックする音が聞こえた。


「いいぞ。」

俺は、扉の方を振り向きもせずにそれだけ答えた。


俺の部屋に入ってきたのはキラリンである。

キラリンは、無言のまま部屋に入ると俺の横に座った。


・・・・・・・。


そのまま沈黙が続く。


・・・・・・・。


キラリンが口を開いた。


黄色キングストンは、お兄ちゃんだけじゃなくコマゾーも救ってくれたの。」

「コマゾーは助かったのか?」


「うん。緑色ミジェルの回復が間に合った。いまはベッドで休んでる。」

「そうか。良かったな。」


「うん。運が良かったみたい。」

「?」


黄色キングストンがコマゾーにプレゼントしてくれた羽織りがね。あれが溶岩から身体を守ってくれたの。」

「ああ・・・あれか。」


「そう。あれが無かったら、コマゾーは死んでた。」

「そうか。」


「ぐす。ウチのせいでね・・・ウチのせいで、コマゾーが死んじゃうかと思ったの・・・。」

「コマゾーにちゃんと御礼を言えよ。」


「うん。ぐす。コマゾーに御礼を言えるのも黄色キングストンのお陰だから・・・ぐす。」

「そうだな。」


泣きじゃくるキラリン

俺は、キラリンのピンク色のオカッパ頭を撫でて慰めた。


「ぐす。ありがとうね。黄色キングストン。」


俺は決意した。


報復だ。


復讐を誓う。


あの女を必ず見つけ出してやる。


俺は立ち上がって、キラリンの手を引いた。

そして、迷宮主の間へと歩き出す。


迷宮主の間では、入口から玉座まで続く通路にゴーレム達が綺麗に整列している。

最前列にはミスリルのゴーレム。

次列には白金プラチナのゴーレム。

その次にゴールドのゴーレム。

その後ろ、そのまた後ろと、俺が様々な素材で作ったゴーレム達が立ち並ぶ。


そして、玉座の前では、俺が作った“特殊な8オクタゴン”が片膝をついて控えていた。

その数は13体だ。


その通路を俺は無言で歩く。


気持ちがたぎる。

身体中がとても熱い。

復讐の炎だ。


俺は玉座の前にある階段をゆっくりと踏みしめて上がる。


俺の後をついてきたキラリン

玉座の前の階段を上がる。


コケた。


・・・・・・・。


チラッと周りを気にして、何事もなかったかのように振舞うキラリン


ゴーレム達が見守る中、俺は玉座に腰を掛けた。

階段の一番上の段に腰を掛けるキラリン


俺が着席すると、ゴーレムたちは一斉に俺に向かって向きを変えた。


黄色キングストンの仇を討つ。」

俺は、目の前で片膝をついて控える“特殊な8オクタゴン”に声を掛けた。


“特殊な8オクタゴン”の13体が顔を上げる。


まずは、あの女がどこにいるか突き止めなければならない。

しかし、女の顔を知るのは、俺とキラリン、あとはコマゾーだけか。


だが、焦る必要はない。

あの女のことだ。

何か異変が起こった場所に姿があるに違いない。



その頃。


音無おとなしの迷宮》

人知れず寂れた奥地に佇む迷宮。


その迷宮主の間で、ティーカップを片手に優雅にお茶を嗜むラファン。


その後方で静かに眠る迷宮守護者の魔除石像ガーゴイルのガクフ。

そのすぐかたわらでは、“夢を叶える自鳴琴オルゴール”の音が奏でられ続けている。


誰も訪れることのない迷宮。

しかし、この迷宮主の間にはラファンとは別に3つの影があった。


巨大な影が2つ。

小さな影が1つ。

その3つの影は、ずっと苛立つ素振りを見せていた。


ガクフは動かない。

眠り続けたままである。

その3つの影は侵略者ではなかった。


そこに新たな影が姿を現す。

銀髪の長い髪の女とそれに付き従う魔獣である。


その魔獣は、頭と肩から2つずつ凶悪な角を生やしており、灰色をした竜の如き鱗で覆われた身体の節々には黒い稲妻が迸っている。


その新たに現れた影は、マリーザと饕餮トウテツであった。


「溶岩魔神とのデートは楽しめましたか?」

ほほ笑みながら、マリーザに優しく声を掛けるラファン。


マリーザはそれを無視した。


マリーザは、太古の時代に世界を恐怖に陥れた存在である。

そして、ラファンとの決戦に敗れた。

ラファンに散々弄ばれた後で捨てられ、ゴブリンの巣で死を迎えたのである。


そのマリーザは、ガクフが過去を見る夢によって蘇った。

“夢を叶える自鳴琴オルゴール”の力で蘇ったのだ。


マリーザには当時の記憶はない。

マリーザの中にあるのは、異常なまでの“欲”だけであった。

それは破壊欲であり、独占欲でもある。


マリーザが蘇った時、その場に姿を現したラファン。

その時、ラファンの力で、マリーザはこの迷宮の迷宮主の間に一度連れて来られていた。


だから、この迷宮主の間にマリーザは瞬間移動することができる。

見知らぬ場所には瞬間移動することはできない。


しかし、この迷宮が何処に存在しているのかは、マリーザは知らない。


この迷宮の中では、迷宮主の間から外に出ることが許されない。

迷宮主の間以外の場所では音が消されるのである。

その謎の力の前では、マリーザであっても為す術が無かった。


色々と考えを巡らせるマリーザ。


ラファンが何者かは分からない。

だが、なぜか心の底から憎悪の感情が湧いてくる。


ラファンは、マリーザの後ろに立つ饕餮トウテツに視線を移した。

だからと言って興味があるわけではない。

マリーザは魔種デモニアを生み出す力を持っている。

溶岩魔神同様で、どうせマリーザが生み出した魔種デモニアであろうと思ったのだ。


ラファンは、再びマリーザに視線を戻すと言った。

「貴女に差し上げた私のコレクションが消えたので、遊びすぎて早くも死んだのかと思いましたよ。」


「!?」

マリーザは平然を装いながらも内心では驚きを見せていた。


なぜ、黒い冠が粉々に砕けて霧散したことをこいつは知っているのだ?

あの場にはいなかったはずだ。

なぜだ?

一体、どういう力だ?


「また新しいものを贈りましょうか?」

「いらねえよ。」


「そうですか。それは残念。」

そう言って、ティーカップに口をつけるラファン。


「もういいだろう、いい加減にしろ。」

迷宮主の間にいる大きな影の1つが口を開いた。


それは黒い竜である。

かつては、破壊竜として恐れられた存在である。

いまでは神話で語られるだけの存在、太古の破壊竜がここに蘇っていたのであった。


そして、マリーザ同様に太古語しか話せなかった言葉は、ラファンの力によって現代語を扱えるように変えられている。


「我らは、いつまでここにいなければならんのだ。」

太古の破壊竜がラファンに言い寄る。


最高位の竜は、その大きさ、その姿を如何様にも変えることができる力を持つ。

いま、ラファンの目の前にいる太古の破壊竜は7m程度の大きさであるが、その正体はとてつもなく巨大な姿である。


太古の破壊竜を見上げるラファン。

そのラファンの顔には、自然と笑みが浮かんでいた。


この場にいる蘇った存在は、全てラファンの記憶に残っている。

かつて、互いに殺し合いをしていた馬鹿な奴らなのだ。


くつくつと笑うラファン。


「何が可笑しい。」

「ああ。すまないね。昔を思い出したものだから。」


ラファンが立ち上がった。

その頭に被った背の高い帽子にある目が怪しく光る。


「すでに説明した通り、君たちは全員道半ばで死んだ存在だ。」


スタスタと歩き出すラファン。

マリーザの前で立ち止まると、その銀色の長い髪に手を触れる。


「この世界は退屈だ。君たちがいた混沌に満ちた世界の方が面白かった。」


その手を払い除けるマリーザ。

くつくつと笑いながら、ラファンはまたも目的なく歩く。


「君たちがなぜ蘇ったのか分かるかい?」


次にラファンが立ち止まったのは、全身を漆黒のローブで隠した小さくて細身な影だ。

その影は何も答えない。


ラファンは、その異様に長い両腕を大きく広げる。


「君たちの誰かに支配されることを世界が望んだからさ。」


またもくつくつと笑うラファン。

そして、もう1つの大きな影の前に歩みを進める。


その影は巨大。

そしてその姿は人。

太古の巨人族、かつて存在した巨人族の王である。


「君たちは、一度世界を支配することに失敗した存在だ。」


沈黙が訪れる。


「その君たちが掴んだ・・・そうだね。これは運命チャンスなのだよ。」


4者を見回すラファン。


「君たちの誰が、この与えられた運命チャンスをものにするのだろうね。」


マリーザ、太古の破壊竜、漆黒のローブ、太古の巨人王。

その4者の中で、目に見えない火花が飛び散る。


「さあ、“嬉戯ゲーム”をはじめようじゃないか!」


高らかに声を上げたラファン。

そして、楽しげに優雅に踊ると、その指を鳴らした。


その瞬間。


4者はラファンの前から姿を消した。

有無を言わさず世界の各地に飛ばされたのである。


マリーザは北に。

太古の破壊竜は南に。

漆黒のローブは西に。

太古の巨人王は東に


再びティータイムを楽しもうとするラファン。

迷宮主の間には、まだ饕餮トウテツが残っていた。


「そうか。君のことを忘れていたね。御主人様のところへお行きなさい。」


ラファンは興味なさげに指を鳴らす。

そして、饕餮トウテツもその場から姿を消した。



俺たちに展開は戻る。


《俺の迷宮》

俺は世界の異変を更に調べる為、俺の迷宮から比較的近い場所の様子を黒色ドルトンに探らせていた。

黒色ドルトンは瞬間移動が使えるからだ。


その黒色ドルトンが、各所の視察を終えて一旦戻ってきた。

その報告を聞くべく、俺とキラリン、“特殊な8オクタゴン”の面々は迷宮主の間に集まっていた。


「早速だが黒色ドルトン、各所の状況を教えてくれ。」


「はい。昨日は何事もなく平穏であった場所でも、新たな災いが巻き起こっておりました。」

「深刻か?」


「場所によってその程度には差があるように見られました。同じ災いとは思えません。」

「不思議だな。」


「はい。この迷宮1層の街の為に食糧を売ってくれた商人のいる街が襲われておりましたので、それは排除しておきました。」

「よくやってくれた。」


「各所の迷宮でも異変が起きているようです。私が確認したところでは、妹君の“不運の迷宮”はすでに災いが収束した後のようでした。」


「えっ!」

キラリンが焦りを見せる。

そして、瞬間移動をする素振りを見せた為、俺はそれを制した。


「待て。まだ危険かもしれん。」

「でも・・・。」

「後で護衛をつけてやるから、ちょっとだけ待て。」

「うん・・・。」


不安そうにするキラリン

キラリンの迷宮内には、キラリンが溺愛するトラップの数々がある。

それを心配して、すぐにでも様子を見に戻りたがっているのだ。


だが俺は、すでに自分の慢心と浅はかな行動で黄色キングストンを失っている。

念には念を。

慎重に行動すべきだ。


「続けてくれ。」

「その他、“魔獣の迷宮”と“鍛冶の迷宮”でも異変が起きているようです。」


姉貴サラウィルの迷宮は、俺が心配する必要はないだろう。すると“鍛冶の迷宮”だな。」

「助けに向かわれますか?」


「そうだな。あそこの迷宮主には借りがある。おんながいるかもしれんしな。すぐに行くぞ。」

「かしこまりました。」


紫色フィリアが俺に歩み寄って来た。

その両手には、名刀 柳風秋水りゅうふうしゅうすいを持っている。

その刀は剥き出しのままだ。


さやがないのか・・・。」

「はい。」


黄色キングストンの大切な遺品だ。“鍛冶の迷宮”の災いを取り除いた後で、さやを作ってもらうことにしよう。」

「かしこまりました。」


厳重に布を巻いて、柳風秋水りゅうふうしゅうすいを包む紫色フィリア

それを細く長い左脚に括りつけた。


俺は、俺の右手中指にはめた指輪を確認した。

“麻痺封じの指輪”である。


俺の迷宮の保管庫でずっと眠っていた財宝の一つだ。


俺には麻痺耐性がある。

だから、ずっと無用の長物だと思っていた。

もう油断はしない。


俺は指示を出した。


【鍛冶の迷宮 助太刀パーティー】

俺、黒色ドルトン紫色フィリア朱色シュウナ


【不運の迷宮 様子見パーティー】

キラリン蒼色アルト白銀色ハーマ


そこに迷宮主の間に入って来たコマゾーが近づいてきた。


「もう動いて平気なのか?」

「ふむ。平気だにゃ。ちょっと右耳の後ろが痒いくらいだにゃ。」


キラリンを助けてくれて、本当にありがとうな。」

「死んだと思ったにゃ。これのお陰にゃ。」


そう言ってコマゾーは両手を広げ、自分が羽織る派手な色をした羽織物の袖を広げて見せた。


黄色キングストン殿のお陰だにゃ。」

「これからもキラリンのことを頼むな。」


もじもじするキラリン


キラリンに振り返って、その様子を一度見たコマゾー。

そして、また俺に向き直すとコマゾーは笑いながら言った。


「ドジ娘はドジ娘だから、面倒だが仕方ないにゃ。」


「うるさいバカネコ。」

頬を膨らませるキラリン


そうして、キラリンの迷宮 様子見パーティーには、コマゾーも参加することとなった。


七色ゴラン緑色ミジェルは留守番である。

この2体は、いつも留守番させることが多い。


「すまんな。いつも留守番ばかりで。」

「仕方ありませんな。迷宮の守りはお任せあれ。」

「気にしないデください。」


俺たちは、すぐに行動を起こすことにした。

誰も気づかぬ山奥の秘境にある小説を読んで下さいまして、誠にありがとうございます。

更新頻度はまちまちですが、続けて投稿していきます。

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