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第12話 兆しの深まり

宴会というものは楽しかった。

俺は夜空の星々を見上げながら、さっきまでの時間を思い出していた。


朱色シュウナ作、俺の迷宮のテーマソングを口遊くちずさむ。

気分が明るくなる良い歌だ。


音楽の呪いが唐突に消えたのは何故だろう。

不思議なことだが、とても有り難い。


俺はアイアンゴーレムたちが担ぐ輿こしの上で寝そべっている。

俺が寝そべる輿こしのすぐ横では、黄色キングストンが素振りをしながら歩いていた。

6本ある腕で、器用に素振りをしている。


実は、こういった大軍でのプチ遠征というのは初めてのことだ。


アイアンゴーレムは1体1体の重量がかなりある。

それが200体ともなる行軍は、ドスンドスンと足音が単純にうるさい。


うるさいだけならまだ良いのだが、下手をすると足音で旋律リズムを奏でる可能性があった。

音で旋律リズムを奏でると命ごと奪われる呪い。

その危険を恐れて、ゴーレムの大軍を引き連れた行軍なんてものは試したことがなかったのだ。


俺のすぐ隣りでは、コマゾーがスヤスヤ眠っている。

そして、その隣にはキラリンが何やらまた新しいトラップの設計を考えているようだ。


・・・・・。


ん??


「なんで、お前がここにいるんだ?」

俺は、魔種デモニア討伐軍に入れていないキラリンが、普通に輿こしの上に乗っていたことに今更ながらに気付いた。


「だって、バカにいの迷宮にいても、つまらないじゃん。」

キラリンは、設計図を描く手を止めずに顔だけ俺に向けると、やれやれという表情をする。


じゃあ、自分の迷宮に帰れよ・・・。


そう言おうとしたが止めた。

たぶん、初めて出来た友達であるコマゾーと一緒にいたいのだろう。

俺は、空気が読める兄貴だ。


コマゾーは、眠りながらうにゃうにゃ言っている。

こいつ、眠ってるとまんま猫だな。


キラリンが、朱色シュウナが作った俺の迷宮のテーマソングを鼻唄で歌う。


「良い歌だよな。」

「そうね。」


静かなはずの夜だが、ドスンドスンと足並みを揃えた規律正しいアイアンゴーレムの足音が響く。

東の沼地までには人が住む町や村はない。

だから、この足音に気を遣う必要はないだろう。

沼地に近づいたところで、敵に悟られないように静かに歩かせれば良い。


そういえば、音を消す魔法というものは出来ないのだろうか?

今まで、音を出すことばかり望んでいたから、音を消すという発想にはならなかったな。


これは新たな魔法を生み出す画期的な発想かもしれんぞ?

魔法の属性としては無属性になるか?

それとも風属性か?


どちらにせよ、光と闇属性の魔法しか使えない俺には無理だな。

今度、蒼色アルトに研究させるように指示するとしよう。


・・・・・・。


良い夜だ。

時々、獣や魔獣が、ゴーレムの行軍を恐れて身を隠す様子が見られる。


東の沼地に出現したという魔種デモニア

太古の巨神兵と同様、かなり昔の時代に存在したとされる種族だ。


古い文献では、1体1体は然程の脅威ではないらしい。

そして、魔種デモニアは“使い魔”であると記録されていたはずだ。


すると、親玉となる奴が、沼地にはいるのだろう。

少しは手応えがあったら良いな。


本当に良い夜だ。

プチ遠征するのも悪くないな。


・・・・・・。


・・・・・・。


・・・・・・。


しばらくして・・・飽きた。


しまったな。

やっぱり黒色ドルトン蒼色アルトに手分けさせて、全員を瞬間移動させるべきだったな。


初めての大軍プチ遠征は楽しそうだと思ったのだが・・・。

もう飽きた。


「退屈なされておりますな?」

黄色キングストンが俺の様子を窺ってきた。


「ああ。もう飽きたw」

「それならば、某が芸を披露いたしましょうぞ。」


黄色キングストンは、そのデカい身体をゴソゴソしながら何やら準備をする。


宴会でもヘンテコな芸を人々に見せて人気者になっていたな。

さすがは、きようさ重視で作ったオリハルコンゴーレムだ。


準備が整ったらしき黄色キングストン

大きな目、鼻、口と、人の顔を自分の身体に書いていた。


「それでは、始めますぞ。」

すると、黄色キングストンがあの宴会で歌った渋い歌をまた歌い出す。


いよぉ~!よおっ!よ、よ、よ、いよぉ~!

※小説の都合上で説明を付け加えると、耳で楽しむ歌舞伎の歌といった感じをイメージして下さい。


いよぉ~。ブニャ。


よぉ~。ブニャ。


よよぃ。ブニャ。


黄色キングストンは、自分の掛け声と共にオリハルコンの身体をよじる。

すると、黄色キングストンが自分の身体に書いた顔が、その度に面白い変顔へと変化するのであった。

※小説の都合上で説明を付け加えると、腹芸のような感じをイメージして下さい。


「だはははははっ!すごいな、それ。」

腹を抱えて笑う俺。


俺の横では、目を覚ましたコマゾーとキラリンも腹を抱えて笑っている。


よっ。ブニャ。


おっ。ブニャ。


いよぉ~~。ブニャ。


面白すぎる。


「歌いながらお披露目すれば、某の芸もひと際光りまするな。」

爆笑する俺たちの様子を見ながら、満足気にする黄色キングストン


「いや~、最高だった。」

拍手喝さいの俺たち。


「次は、妹君とコマゾーにお手伝いを頂きましょうかな。」

「ふにゃ?」

「何?」


黄色キングストンは、色鮮やかな布を取り出した。

それを6本の腕で、器用に素早く切り縫いする。


それは1着の羽織りになった。


「これをお2人で羽織って下され。」

「?」

「?」


黄色キングストンの説明に従って、色鮮やかな1着の羽織りを着る2人。

コマゾーが顔だけを出して、キラリンは顔が隠れたまま両腕だけを出す。

※小説の都合上で説明を付け加えると、二人羽織のような感じをイメージして下さい。


「ふむ。黄色キングストン殿、これでどうするのだにゃ?」

「もごもご?(何すんの?)」


「それでは、妹君。コマゾーの耳を触ってみて下され。」

「もごもご?(こんな感じ?)」


キラリンが羽織りから出した右手でコマゾーの耳を触ろうとして、コマゾーの鼻の中に指を突っ込んだ。

「んんにゃ! ドジ娘っ!それは鼻だにゃっ!痛いにゃ!」

「もごもご。(ごめんごめん。)」


その姿を見て大爆笑する俺。


キラリンは、二人羽織がかなり気に入ったようだ。

遠慮なく、コマゾーの顔をあちこち触っては悪戯する。


「ヒゲにゃ!それはヒゲにゃ!ひっぱるんじゃないにゃ!」

「もごも~ご。(分かんな~い)」


どうやら黄色キングストンは、2人の友達関係がますます良くなるように気を遣ったようだ。

恐らくは、念力アンプサイキラリンの心を感じ取ったのだろう。


グッジョブだ。


「ははははははっ。」


「笑いごとじゃないにゃごもごぅ。」

キラリンの手がコマゾーの口に入る。


面白二人羽織が終わった。


「あ~。面白かった。ウチ、こんなに笑ったの久しぶりだわ。」

ご機嫌なキラリン


「ふにゃw 黄色キングストン殿には、酷い目に遭わされたにゃ。」

若干ふてくされるコマゾー。


「まあまあ。コマゾー、其方そなたにその羽織りを差し上げる故、許せ。」

笑いながらコマゾーを宥める黄色キントン


その羽織り、どう見てもただの布切れではないと思う。

何か特殊な素材であろう。


コマゾーは、その羽織りが気に入ったようだ。

頬を膨らませてプリプリと怒っている割には、それを脱ごうとしていない。


黄色キングストンのお陰で、退屈な時間はかなり気が紛れた。

ありがとう。


気付くと夜は明けようとしていた。


「沼地に近づいたな。」

「左様にございますな。」


俺、コマゾー、キラリンは、輿こしから地面に降りた。

そして、アイアンゴーレム達にゆっくり静かに歩くよう指示を出す。


静かに慎重に沼地に近づく討伐軍。

俺たちは、沼地の様子が目視できる場所まで近づいた。



【状況】

◎=俺、〇=黄色

□=鉄ゴーレム

■=魔種


  □□□□□□□□□□

  □□□□□□□□□□

      〇◎


―――――――――――――――

沼地

  ■  ■■  ■ ■■

 ■ ■ ■■  ■

 ■■ ■■ ■ ■■ ■

   ■   ■■ ■ ■

     ■   ■



「いるな。数が多くて、どれが親玉かさっぱり分からんな。」

「あれが魔種デモニアでございますかな?」


「そうだな。あれは確か・・・泥瞞でいもんとかいう奴だ。」

沼地の中には、数多くの泥人形が蠢いている。


古い文献によれば、その“瞞“という名の通り、泥で視界を塞いで襲い掛かってくるらしい。

だが、たぶん雑魚だ。


「ちょっと拍子抜けするな。あの程度なら、わざわざ討伐軍を編成して来る必要はなかったな。」

「ふむ。一気に仕掛けるかにゃ?」

「そうだな。コマゾー、お前の実力を見せてもらおうか?」

「了解だにゃ。」


コマゾーは、軽やかに歩み出ていった。


「ふむ。何の魔法が良いかにゃ?」

沼地の泥水の前で立ち止まり、しばし考え込むコマゾー。


「おいおい。あいつ、立ち止まって何やってんだ?」

「何してんの!あのバカネコ!あんなところで立ち止まったら、敵の的になるじゃない!」


コマゾーの姿を確認した魔種デモニア

泥瞞でいもんが、一斉にコマゾー目掛けて泥を吐き掛けた。


「ばかっ!」

コマゾーを心配して飛び出そうとしたキラリンの顔に泥が掛かる。

泥まみれになったキラリン


一方、コマゾーは綺麗な姿のままである。

吐き掛けられた泥は、その全てがコマゾーの周りを汚すだけで、コマゾーに掛かることはなかった。


「ふむ。決めたにゃ。」


コマゾーが両腕を高らかに上げる。

その両腕の手のひらには稲光の塊ができていた。


雷光ライジング!!だにゃ。」


バシャン!ビリビリビリビリっ!


コマゾーは、泥水に向かって稲妻を放った。

その稲妻は水を伝って全ての泥瞞でいもんの身体を穿つ。


すると、感電したかのように泥瞞でいもんの動きは止まった。


「やるじゃないか。よし!さっさと終わらせよう!突撃っ!」

俺は、全てのアイアンゴーレムを沼地に突撃させた。


【状況】

◎=俺、〇=黄色

☆=妹、△=コマゾー

□=鉄ゴーレム

■=魔種


     〇◎  △☆

―――――――――――――――

沼地 □ □□□□ □□ □□

  □□■□□□■■□□■□■■

  ■ ■□■■ □■ □

  ■■ ■■ ■ ■■ ■

   ■   ■■ ■ ■

     ■   ■



動きの止まった泥瞞でいもんに一斉に襲い掛かるアイアンゴーレム。

泥瞞でいもんを強烈に殴りつけ、次々と敵を破壊していく。


「楽勝だな。」


俺は勝ちを確信した。


しかし、俺はこの時に気付くべきであった。

この程度の魔種デモニアなら、黒色ドルトンが見つけた時にさっさと片づけていたであろう。

もしくは、わざわざ討伐軍を編成する必要などない敵であると報告してきたはずである。


底が知れない魔種デモニア

だから、黒色ドルトンは報告として持ち帰ったのである。


そのことに俺は頭が回っていない。

完全に油断していた。


アイアンゴーレムは、全ての泥瞞でいもんを破壊した。

しかし、敵の親玉らしき存在は見られなかった。

それとも、あの泥瞞でいもんの中に親玉がいたのだろうか?


「呆気なかったな。」

もう少し手応えのある敵であってほしかった。


・・・・・・。


俺の横で、黄色キングストンが険しい表情をしている。


「どうした?」

「ここは、お逃げ頂いた方が良いやもしれませぬ・・・・。」


俺は、黄色キングストンの視線の先を見た。

そこには真っ黒な泥瞞でいもんが1体だけ立っていた。


俺には、ただの黒い泥瞞でいもんにしか見えない。

それでも、黄色キングストン念力アンプサイで何か感じるものがあるのだろう。


「やばい奴か?」

「あれも危険にございますが、その後背にいる何者かが脅威かと・・・。」


俺は再び、真っ黒な泥瞞でいもんに視線を戻した。


真っ黒な泥瞞でいもんの背後から、黒い冠を頭に被った銀色の長い髪の女が現れた。

その女は左手で長い髪をかき上げると、真っ黒な泥瞞でいもんに一言命令を下す。


「消せ。」


真っ黒な泥瞞でいもんと思っていたそれは、全身の所々から真っ赤な炎を吹き出すと膨れ上がった。


「おいおいおい。あれは何だ??」

「主、お下がり下され。」


黄色キングストンが、俺を庇うように前に出る。


「あれっ、太古の溶岩魔神じゃないっ!?」

キラリンの叫び声が聞こえた。


太古の溶岩魔神??

俺は聞いたことがなかった。


その時。

全身を膨れ上がらせた太古の溶岩魔神とやらは、その身体から大量の溶岩を空高く噴出した。


「まじかっ!??」


辺り一面に降り注ぐ溶岩の雨。

それは異常な高熱である。


俺に降り注いできた溶岩を黄色キングストンが庇う。

黄色キングストンの左腕の一番上1本が、溶岩の熱で溶かされて変形してしまった。


沼地の泥水は一瞬で蒸発し、熱のこもった蒸気が辺りを立ち込める。

視界は一気に真っ白に変化した。


またも溶岩の雨が降り注いでくる。


「きゃーっ!!」

キラリンの叫び声が聞こえた。


「大丈夫かっ!!??」

俺はキラリンを心配して、声が聞こえてきた方角に向かって叫ぶ。


「ウチは大丈夫っ!でも!コマゾーが!ウチを庇って!」

どうやらコマゾーが、キラリンを庇って溶岩を被ったようだ。

泣き叫ぶキラリン


「行けっ!コマゾーを連れて行けっ!すぐに緑色ミジェルのところへっ!」

「でも!お兄ちゃんたちは!?」


「視界が悪くてお前のいる場所が分からん!俺たちはどうにかする!それよりも早く!コマゾーが死ぬぞっ!」

「うんっ!すぐに!すぐに応援を呼ぶからっ!」


「頼むっ!!」


キラリンの声が聞こえなくなった。

俺の迷宮に瞬間移動したはずである。


俺は、アイアンゴーレム達に指示を出した・・・が、反応が全くない。

どうやら全て、奴の溶岩で溶かされてしまったようだ。


蒸気とともに辺り一面に炎が巻き起こる。


「奴らが近づいてきますぞ!」

視界が悪くて敵の姿は見えない。

黄色キングストンは、おそらく念力アンプサイで敵の動きを察知しているのであろう。


「逃げるぞっ!」

「承知仕りました!」


とにかく、この場から逃げ出そうとする俺と黄色キングストン

すると、走りだそうとした途端に俺の身体が動かなくなる。


「どうされましたか!?」

「しまった・・・麻痺だ。・・・・やられた。」


俺は麻痺耐性を持っている。

それでも、身体が動かないのだ。

敵は、俺の耐性を上回る麻痺を仕掛けてきたのであった。


「失礼仕るっ!」

黄色キングストンは、俺を右手で抱きかかえた。


そこにまたしても降り注いでくる溶岩の雨。

それを黄色キングストンは、左の真ん中の腕で防いだ。


その腕も熱でグニャリと変形する。


「某には痛みなどありませぬ。ご心配召されるなっ!」

心配そうに見る俺の眼差しに気付いた黄色キングストンは、俺をしっかりと右手で抱え込むとほほ笑んだ。


「・・あぁ。」

俺は、麻痺で喋ることもできない状態となっている。


必死で逃げ出す黄色キングストン


「追えっ!」

あの女の声が聞こえた。


俺は後悔した。

これは、俺の油断が招いた失敗だ。


黄色キングストンの左肩がグニャリと変形した。

恐らくは、俺を抱えて逃げながら、その背中で敵の溶岩攻撃を受けているのだろう。

黄色キングストンの身体は燃えるように熱くなっている。


すまん。

すまんな。


俺のミスだ。

誰も気づかぬ山奥の秘境にある小説を読んで下さいまして、誠にありがとうございます。

更新頻度はまちまちですが、続けて投稿していきます。

宜しければ、ブックマークと広告下↓の【☆☆☆☆☆】にポイントを入れて頂けたら感謝です!

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