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魔装乙女は死にきれない  作者: 浜能来
第三章 未来にはなれなかった
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第十六話 姉妹

 山の中を歩く。途中までは、今でも人通りのあることを感じさせて、舗装されてないまでも砂利の道が敷かれていたのだが。アハトに従って入った脇道は、草が踏み分けられている程度だった。時折、前を歩くアハトが押しのけた背の高い草が、反動で跳ね返ってフィアに当たった。面倒に思いつつ、舟をこぐように手を突き出しながら歩く。秋に入り始めた山の緑は、少しずつ冬の用意をしているようだが、それでもまだ、生命力を感じさせて。頭上を通り過ぎる美しい宝石のような野鳥、囀り声。

 フィアはアハトに導かれるまま街を出て、名前も知らないこの山にやってきた。目的地すら聞かされていない。ただ、いいからついてきてくださいとだけ言われて、流されるままここに来ている。思うところがないわけではないが、ただその場でうじうじしているよりか、マシな気はした。自分は確実にどこかには向かえている。


「マスターはああ言ってましたけど」


 アハトは手に絡まった蜘蛛の糸に愚痴をこぼしながら。


「魔装乙女の記憶を、ひいては生前の人格を取り戻す研究を、やめるつもりはないですよ」

「ノインがいるからってこと?」

「そうです。ノインちゃんがいる限り、ジーンは研究を続けます」


 アハトがノインについて言っていた、ノインが魔装乙女研究の最終地点であるという事実について、フィアはすでにアハトから詳細を聞いていた。曰く、ノインはジーンの実の娘だという。

 ジーンは娘を喪い、その蘇生のために自分の専門としている古代魔術の中から、魔核を人間に移植する禁忌を掘り起こした。しかし、それは忌子を素体として扱うものでしかなく、ジーンの娘は忌子でなかった。彼は、その魔術の実証試験を重ね、忌子ではない自分の娘へその魔術を適用するために、魔装乙女として貴族たちに自分の研究を売り込んだのだ。

 彼はその成果として、ノインの蘇生には成功したが、彼女は記憶の大部分どころかすべてを喪失し、人格も完全に別物だった。アハトは、すでに蘇生自体には成功している自分の娘を、そう簡単に諦めるわけがないと言う。フィアも、ジーンの怒りを間近で見ていたから、その考えには同意した。


「でも、フュンフは処分されてしまうでしょう」

「お姉様が引き取ればいいんです」

「それで済むなら、ジーンは私を追放しなかったはずよ。そこまでの信頼は私にないわ」

「お姉様、研究を盗み見たりしてましたもんね」

「ばれてたのね……。ジーンのいない時を狙っていたはずなんだけれど」

「……そうですねー。不思議なこともあるもんですねー」

「まさか、とは思うけれど」

「し、仕方ないじゃないですか! こういう、いざという時のために! 普段はちゃんと仕事してなけりゃいけなかったんですよぉ!」

「別に、怒る気なんてないわよ。ただ確認しただけ」


 振り返って、わたわたと自己弁護するアハトにフィアは手をひらひらと振って見せた。監視役であったのならば、仕方がない。アハトはジーンを自ら説得して、フィアを追う役目を単身で引受けることに成功したのだという。それも、フィアの情報をある程度は流すことで得た信頼のおかげだろう。

 アハトは「お姉様……!」と目を輝かせる。


「それなら今度、お姉様の下着とかも見せてくださいね! 報告するのに必要なので!」

「なんでそんな報告がいるのよ」

「魔装乙女の発育は、ほんとに止まってしまうのか……?」

「たぶん、気にしてるのアハトだけよ」

「んなぁっ!」


 そんな馬鹿なとでも言いたげなアハトの肩に手を添えて、くるりと反転。ほら行きなさいと、フィアは背を押した。とぼとぼと歩き始めるアハト。視線を下に向けているものだから、頭から枝葉に突っ込んで騒がしく悲鳴を上げる。

 フィアは手のかかる子供を見守る親のように、腰に手を当てその様子を見ていた。心の中では、もしかしたら逆なのかもしれないと思いながら。もしかしたら、彼女は自分を気遣って、少しでも楽しく振舞おうとしているのかもしれない。

 記憶を掘り返して、やっぱりいつもあぁだったなという結論に至る。


 緑の中を進むうち、彼女らは急斜面に差し当たった。むき出しの土はほろほろと崩れやすくなっていて、そこに埋まっている石くれにフィアが手をかけてみると、簡単に外れてしまった。場所を選べば登れるのだろうが、上を見上げてげんなりとする。

 とりあえず、ぺたぺたと土に触れながら、登りやすそうな場所を探すフィア。


「え、お姉様。まさかそこ登るなんて言いませんよね?」

「え……。あ、当り前じゃない」

「ですよねー」


 なんとも遠回しにアハトに止められて、慌てて手についた土を払った。見え見えの強がりを言ってしまって後悔するフィア。いいものを見たとばかりにニマニマとするアハト。彼女の案内に従って歩くと、幾分斜面は緩やかになり、そこに階段が整備されている。土を削って、木材でその縁を補強した階段だ。

 これで楽に登れると明るい気持ちになったのも束の間、会談は長いこと整備されていない様子で、近づいてみるとひどい状況だった。木材が腐っている部分もあれば、雨に穿たれ、木材の下から土が流れ出してしまい窪んだ段もあった。二人は、さきほどよりよっぽど足元に注意しつつ、階段を上がっていく。

 アハトは、この階段を上りきれば目的地だと言う。フィアは上を見上げるが、まばらな木々が続くばかりで、何があるのか見当はつかない。

 空いた時間で、アハトは現状を話す。


「魔装乙女の軍事採用は、もうすぐです。この前デミオンで、お披露目の告知がされました」

「大々的にやるの? この国だと、むしろ反発を買いそうだけど」

「こっそり軍隊に魔物交じりを採用してて、あとでばれた方が反感を買いますよ」

「それはそうでしょうけど」


 魔装乙女は禁忌である。一般的な倫理観に照らし合わせても、少女に、それも死体に戦わせるというのは忌避感のあるものだろうし、魔物殺しの女神を信奉する人たちもいる。その中で、見た目は少女である魔装乙女を兵士としてお披露目することに、何のメリットがあるのか。

 フィアの疑問に、アハトは不満を示して鼻で笑った。


「お姉様がこの前、デプンクトで魔獣を倒したでしょう。あれを利用するんですよ」

「教会騎士と魔装乙女が協力して、魔獣を倒したことを?」

「そうです。テキトーに美談をでっちあげて、あとは氷竜事件とかも絡めて、そういうイメージアップの戦略はもう動いてたってことです」


 フィアは思い返して納得する。ギルバートは魔装乙女の応援など頼んだつもりはなかったのに、本部がかってに寄越したのだと言っていた。魔装乙女の有用性を示すためのデモンストレーションとして、デプンクトは使われたことになる。

 街で魔装乙女という名前を聞いたことを思い出す。何も知らずに魔装乙女を褒め称える様子を想像すると、フィアは苦い気持ちになった。


「お姉様からすれば、それが期限になります。あの墓所が廃棄されるのは、それからになるので」

「その時に、フュンフも一緒に殺される」


 口にしてみて、フィアは視線を落とす。この数日、考えないようにすることで埃をかぶせていたものを改めて手に取って、その鼻の奥に張り付く埃臭さと、変わらぬ重さ。捨てるわけにいかないものだとわかっていても、手放してしまえたらと考えずにいられない。そして、その思考自体が忌まわしい。

 指が右目の魔装に触れる。変わらず無機質なその感触が、フィアに現実を突き付けている。


「――そうです。それが、期限です」


 追い打ちをかけるように、アハトが告げた。


「お姉様はそれまでに決めなければいけません。マスターの元に戻って、頭を下げて、フュンフさんを助けてもらうのか。あるいは、このまま逃げる道を探すのか」


 それか、復讐心だけでマスターを殺しに行くか。最後に付け足されたのは笑えない冗談だったが。フィアはアハトの示した選択肢に頷きを返す。実際、それしかないのだろう。

 フュンフを助けるには、あの恨めしきジーン・シェーバーの知識が必要不可欠だった。たとえ人物がどうであっても、彼が魔装乙女を一人で作り上げたことに変わりはない。逃げ続けることには際限がなくて、何よりフュンフを見捨てることになるから、これが最良の選択であるはずなのに。

 フィアは首を縦に振ることがどうしてかできなかった。フィア・ロットは死んでしまったままだった。

 結論を先送りにする言い訳のように、彼女はアハトに問いかける。


「でもジーンの元になんて、ほんとに戻れるの?」

「デプンクトの一件があるので、頼み方次第ですよ」


 階段の左手に転がる、切断された倒木を傍目に。切断面は磨いた大理石もかくやという滑らかさで、きっと魔術の心得のある誰かが、ここを通る際に邪魔だから切ってどかしたのだろうとフィアは当たりをつけた。右手の斜面の下を見やれば、それらしき倒木の半分があった。


「お姉様の魔装解錠は、かなり目立ちましたからね。あの事件を宣伝として使うなら、そりゃあ本物がいた方がいいに決まってます」

「それはそうだけど」

「加えて、火竜の魔核自体が貴重ですしね。ダメ押しでお土産でも持ってって、最後にお姉様が死ぬならアハトも死にます! っていえば、何とかなると思いますよ」

「……なんだか、悪いわね」

「いえいえ、このくらい! アハトちゃんにかかれば、お茶の子さいさいってやつですよ!」


 アハトは背中からでもわかるほど得意げに、クリスタルチャームを指ではじいた。調子に乗りすぎて、でこぼことした階段に足を取られたらしく、後ろへ倒れる。フィアが抱きとめる形となり、不意のことへ慌てつつ。何とか踏みとどまった。はにかんで謝罪するアハトに、フィアは「まったく」と肩をすくめる。

 まったく、できた妹分だった。フィアは自分の不甲斐なさと比べて思う。ありがたくもあり、同時になぜ自分を「お姉様」と呼ぶのかは、わからなくなるばかりだ。

 けれど、信頼はできる、していいはずだ。

 自分の悩みを晴らす何かが、きっとこの階段の先にあるのだと信じ。フィアは顔を上げた。アハトの蒼い瞳と目が合った。


「さぁ、もう着きますよ」


 アハトに前へと促され、フィアは階段を上った。開けた土地があった。

 意図的に樹木の切り払われたそこは、手入れが甘く雑草こそ広がっているが、庭だった。そしてその奥、ところどころ崩れた石組みの壁に、蔦や何かを絡ませた、古ぼけた建造物。教会堂だった。

 ぎゃあぎゃあとカラスがわめく。それはまるで、マスター・ジーンのいる墓所のようであった。まさにその役目を終えて、フィアの妹を隠したまま消え去ろうとしているあの施設。彼女はゆっくりと歩いて行ってその扉に触れる。

 アハトは、ここに自分を連れてきて、何を見せたいのだろう。観察をして、自分の降れている扉だけ、絡んでいたであろう枝葉が切り落とされていることに気づいた。


「――なんで、あなたがここにいるの」


 抱えていた何かを落とす音。教会の横合いから現れた人影に、フィアは思わず短剣を抜いた。

 人影は二人分。金髪。敵意に燃える瞳。本能が告げる、彼女らは忌子だと。

 フィアは自分が剣を向けた相手が誰であるかに思い至り、短剣を取り落とす。


「なんで、あなたたちが」

「それを聞いたのはこっち。答えてよ、何であなたがここにいるの」

「ミア姉……」

「ほら、メアは早く向こうへ行って、あの人を呼んできて」


 二人の内、怯えて背に隠れていた少女がこくこくと頷いて教会の裏手へ走っていく。その、メアという少女が呼んだ「ミア姉」という名前は、フィアの記憶に新しい。デプンクトでフィアが見逃した忌子たちのうち、フィアの前に立ちはだかった姉の名前だ。


「私は、アハトに案内されたからここに来ただけ」

「アハトって誰? こっちは、ギルバート様に連れられてきたの。殺しに来たのなら、帰って。今にメアがギルバート様を連れて来るから」


 苛立たし気にぶつけられる言葉。魔獣を討滅したとはいえ、忌子がそのまま残っていれば、次の魔獣が現れる可能性が高い。彼らが一度デプンクトから興味を失うまで、彼女らを別の場所で保護しておこうという、そういうギルバートの意図は理解できた。

 それでも、フィアにはどうすればいいのかがわからない。アハトの「お土産」という言葉が引っかかっていた。彼女はもしかして、フィアの取り逃がしたこの二人を、殺して手土産にしろという意図なのか。

 だとしたら。フィアの中には必要なら殺してしまえと言うフィア・ロットも、彼女らを殺したくないと言う何者かも同居していた。唇が酷く乾いて、がさがさとする。


「別に、殺しに来たわけじゃ、ない」

「信じられると思ってるの? あなたは。あなたはメアを殺そうとしたのに!」


 ミアは小さな体を震わして叫んでいた。

 フィアのような魔装も持たないただの少女が、魔獣すらも殺す殺人者に立ち向かうのはどれほどの恐怖なのか。フィアには想像もつかないが、ただ一つわかることがある、彼女は純粋に妹を想っていて、妹を助けるためだけに勇気を振り絞っていること。

 自分はどうだ。フィアは顧みる。妹のためだと言って人を殺してきた自分は、今は明確にどうすれば妹を救えるかまでわかった上で、迷っている。目の前の非力な少女に、覚悟の強さでは何一つ勝っていない。

 フィアが彼女を殺せる道理は、なかった。


「そうね。その通りだわ」


 フィアはローブの裾から予備の短剣も取り出し、地面に落とす。両手を上げ、二本の短剣はミアの足元へ蹴ってよこした。それでもミアは警戒を緩めない。


「おとなしく帰るから、そう怖がらなくて大丈夫よ。邪魔して悪かったわね」

「……」

「それじゃあ」


 もはや返事もなかったが、実際に妹を殺そうとしていたフィアだから、当然の反応だと思えた。そのまま踵を返し、来た道を引き返そうとする。


「ちょおっと待ってください?」

「きゃぁっ! 何よ急に!」

「残念ですけどお姉様、ここがアハトとお姉様の愛の巣、もとい潜伏先です」


 すると、いつの間にかアハトが目の前にいた。心臓の飛び出る思いをするフィア。

 アハトはそうしてフィアを立ち止まらせることに成功すると、ミアに向きなおった。途端、ミアの背筋がピンと伸びる。フィアは訝しんだ。確かに、最初に彼女を追っていたのはアハトのはずであるから、ミアと面識があってもおかしくない。

 けれども、ミアの反応は明らかにフィアに対するそれとは違う。恐怖というより畏怖が、彼女の顔に浮かんでいて、飽きの涼しい気候にあって、かくはずのない汗をかいている。

 底冷えのする笑顔で、アハトはミアに詰め寄った。


「ミアちゃーん? 言いましたよねぇ。お姉様は絶対。お姉様は可愛い。お姉様が全てだって」

「……はい」

「わかってますか? お姉様が、ミアちゃんとメアちゃんを助けるって決めたから、アハトは殺さないでいてあげるだけだって。お姉様のおかげで生きてるんだって」

「…………はい」


 まるで、先輩冒険者に指導を受ける後背冒険者。あるいは母親に怒られる娘。

 先ほどまでの健気さは急に消え失せて、ひたすらに小さくなっていくミア。アハトはあふれ出る苛立ちを嫌味な声色に変換して言い募る。


「何より! お姉様のローブを貸してもらえるなんてご褒美! アハトだってもらったことないんですからね! 殺しますよほんと!」

「はい。ごめんなさい!」

「次お姉様に逆らったら、この教会の結界なんて解いちゃいますからね! そしたら二人仲良く魔獣に食われてオシマイですから!」

「すみません! もう二度としません!」

「わかったら復唱するんです! お姉様は絶対! お姉様は可愛い! お姉様が全て!」

「お姉様は絶対! お姉様は可愛い! お姉様が全て!」

「いや、ちょっと」


 アハトの肩に手を置く。もはややけくそといった様子で叫び始めたミアを見て、流石のフィアも黙っていられなかった。何か宗教染みた洗脳の匂いを感じる。

 アハトはフィアに振り向くと、「ごめんなさい、お姉様。お見苦しいところを」と恥じらいを見せる。いまさら何を恥じらっているのかと思うフィアだが、あえて口には出さなかった。面倒くさくなりそうだった。


「実は、アハトお姉様が嘘をついていたことにはうすうす気づいてまして。ローブも着てなかったので、多分、それで魔力を隠させてるんだろうなぁと。なら脱ぐまで待ってればいいやと、ずっと魔術視で監視して、見つけて保護しました!」

「保護……?」

「だってほら、ギルバートがいかに教会騎士として地位も財産も持っていたとして、忌子の魔力を隠す技術はないでしょう? アハトがそこを何とかしないと、お姉様が見逃した意味がなくなっちゃいますから」


 それで、ギルバートがこの場所を見つけ、アハトが結界をかけるだけかけて。ついでに脅しをかけて、フィアのロ-ブをミアから接収したのだという。すべて、フィアが療養を取っている間の出来事で、彼女には全く気づけていなかったというだけ。

 フィアがアハトから事情を聴くうち、教会の裏から一人の青年がかけてきた。血相を変え、腰にはいた剣に手をかけていたのだが、彼はフィアを見るなり相好を崩す。ギルバートの側に仕えていた騎士見習いだった。


「ギルバートが来るんじゃなかったの」

「……はったりよ」


 アハトににこにこと睨まれながら、ミアはぶすっとして答えた。

 騎士見習いはフィアを、街を救った英雄として見ていたから。ひとしきり歓迎の文句を述べた後、聞いてもいないのに事情を話してくれた。おおむね、アハトの言葉通りらしかった。肝心のギルバートは、場所を確保してからは街に戻ってしまったとのことで、だからアハトが好き勝手なことを言えていたのだと納得する。


「それで、フィア様はどうしてこちらに?」

「それは……」

「休暇です。たまには、こういう素朴なところでと思いまして」

「そうですか! 謙遜でもなく、何もないところですが、おもてなしさせていただきますよ!」

「ちょっと、私たちはまだ――」

「えぇ、よろしくお願いしますね!」


 言い淀んだフィアも、反論しかけたミアもすべて押しやって、アハトが騎士見習いと話を進めてしまう。彼は張り切って、準備をしてくるのだと教会の中へ消えた。状況の掴めないメアが、ミアの腕に縋りついている。

 これでよしと腰に手を当てるアハトに、フィアは遠慮がちに言った。


「ねぇ、流石にここはやめておかない?」

「何言ってるんですかお姉様。ここは魔力隠蔽の結界を張ってありますから、最高の潜伏場所ですよ?」

「でもほら、あの子たちがいるし」

「だから、いいんですよ」


 フィアは思わず息をのんだ。彼女は本当に、恐ろしいくらいにできた妹分だったのだ。

 咄嗟に言葉を返せなかったフィアには、もはや否やはない。彼女自身がその合理性を認めてしまっていたから。

 フィアは改めて、忌子の姉妹に向きなおる。メアがびくりと身体を跳ねさせて、ミアが肩を抱いた。心にためらいが生まれるが、それを押し殺してきたのがフィア・ロットだ。

 その残滓が、彼女に笑顔で手を差し出させる。


「ごめんなさい。いきなり信じろとは言えないけれど、あなたたちをどうする気ももうないから。少しの間だけ、ここに住まわしてくれる?」


 返事はなかった。けれど、否定もできなかった彼女たちだから、差し出した手を握ってはくれた。

【Tips】騎士見習い

プロット段階から存在していたのに、名前を付けるのを忘れられていた。以降も出番があることを忘れていたため、執筆時点でも名前を付けるのを忘れられていた。

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