幕間 赤い夢
私はどこかの屋根裏部屋にいた。屋根裏部屋とはいえ、立派なお屋敷の一部屋でもあるのだろう。天窓までついて、駆けまわって遊べるくらいの広さがある。おなかの音がぐうとなるから、きっとそんなことをして遊ぶ余裕は私たちにはなかったのだろうけど。
おなかと背中のくっつきそうな空腹感は、今の私たちには気にならない。屋根裏部屋は今、ぼうぼうと燃え盛っているのだから。板張りの床はすでにじりじりと熱くて、座り込んだお尻が燃え上がりそうなくらい。斜めの屋根を炎の舌がなめまわして、身の毛のよだつような大きな音を立てて、一角が崩れた。もう、下の階は地獄の様相になっているのだろう。
外からは、わーだのきゃーだのと言う悲鳴と。竜の咆哮。
「――」
「大丈夫。私たちはずっと一緒だから」
励ますように私の隣に寄り添う存在の手を握った。その手が死を予感して冷え切っていたのか、あるいは炎にあてられて熱っぽかったのか、それすら曖昧。
これは夢だ。声もわからないのに。顔もぼやけて見えないのに。まるですべてが通じ合っているみたいに、私は妹と推定されるモノと言葉を交わす。私たちに見上げるものは天窓に切り取られた夜空しかなくて、私は星がきれいだと、神様はちゃんと見ていてくれてると、そう励ました。
心の中では、神もああして、高いところから憐れむことこそあれ、実際に手を差し伸べてくれることはないのだろうと諦観していた。
「――」
「そうだね。ピアノの音が聞こえてればね」
「――」
「そうだね。お父さんもお母さんも、気持ちが変わったらね」
「――」
「そうだね。そんなふうに、暮らしたかったね」
もはや、この記憶すら、燃えカスのようになってしまった。自分の返答のみで形作られる会話の、その自分の返答の意図すら思い出せない。もしかしたら、自分は昔見た劇か何かを、自分の記憶として勘違いしているのかもしれないと。そんな疑いさえ持ってしまう。
だけど、私に残された唯一のものは、これしかないから。
夢の中、ついに火の手は私たちに迫っていた。自分の肉が焦げていく、不快なにおいを嗅いだ。じりじりと、痛みをこすりつけるようにやってくる、火あぶりの苦しみを感じながら。私は逃げなかった。妹と身を抱き合わせて、ただ耐えていた。妹以外に失うものなどなかった。
無限ともいえる苦しみの記憶がいとおしい。苦しみは、自分が確かにそこにいたことの、一つの証拠であるのだから。
フィア・ロットは、赤い夢を見る。私に唯一残された、最後の夢だ。
それは、きっと炎の赤で、怒りの赤で、私の罪の赤さで。
見るたびに赤く染まっていくその夢を、私は大事に抱えている。
自分の苦しみで、自分の存在を証明するために。
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