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あの時の俺は、今の

作者: hoikun

 これは、ある友人の一言から始まった。


「なぁ、お前さ。自分がある時間をずっとループしてたら、どうする?」





 朝、窓から入り込んでくる日差しが瞼を刺激する。ぼんやりとした頭で体を起こし、目を開けると朝の七時半。

 俺は、こうやって自然に目を覚ますのが好きだ。目覚ましだと起こされた感が半端無いし、なんだか寝足りない気持ちになる。日差しだと、体が自然と覚醒するというか、なんというか……


 とにかく、俺はベッドから起き上がって朝の支度をする。

 支度と言っても、今日は土曜日だ。別に仕事があるわけではない、とある友人と出掛ける予定なだけだ。

 焼いたトーストにマーガリンを塗り、コーヒーを片手に新聞を読む。おっ、あの女優結婚したのか。新聞一面にどでかく取り上げられてるな。まぁ大人気の女優だし、気になる人も多いって事か。




 なんだかんだと時間をつぶし、家を出たのは十一時半。商店街の手前にある銅像の前に集合するのだが、歩きで十五分。集合時間は十二時だが、まぁ早めに着くに越したことはない。

 慣れ親しんだ道を眺めながら、黙々と歩く。途中で通り過ぎる公園で、何やら地面に膝をついてぼーっとこちらを眺めるホームレスのような老人がいたり、待ち合わせ場所の銅像の手前で女性に絡まれたりと、よく分からないトラブルがありながらも、まぁ無事に銅像に到着した。


「よう。お前、女性に絡まれてたろ。」

「なんだよお前。見てたのか?」

「いや? 見てないけど、まぁ見てたようなもんか。」

「なんだそれ。」

「まぁいいだろ。とりあえず飯食おうぜ。」


 せっかちなこいつは荒田あらた祐樹ゆうき。今日は昼飯を一緒に食った後、適当にぶらついて買い物したりする予定だ。

 近場にあるファミレスに入り、適当に注文する。祐樹ゆうきと、料理が運ばれてくる間に世間話を交わす。

 程なくして、祐樹ゆうきが注文した料理が運ばれてきた時、祐樹ゆうきが俺に問いかけた。


「なぁ、お前さ。自分がある時間をずっとループしてたら、どうする?」






「っ!!!!」


 目が覚めたのは、自分の部屋だった。

 なんだ……? 酷い夢を見ていた気がする。

 ガンガンと痛む頭を押さえつつ、私はカーテンを開けた。もう高い位置に日が昇っている。

 何時……? 時計を見ると、十一時を過ぎたあたり。


 寝すぎたな……とりあえず、何か飲もう。

 足元に転がっていたクマのぬいぐるみをどかして、自分の部屋を出た。


 トーストを焼いてマーガリンを……あれ、マーガリンが無い。しまったな。買い忘れていたのか。コーヒーもない。趣味に合わない紅茶がいくつか並んでいるので、まぁそれでいいか。新聞紙を……


 そこで、私は目を疑った。新聞紙の日付は土曜日、表にはでかでかと、人気女優の結婚報道。

 おかしい、私は予知夢を見たというのか? 頭をはっきりさせるために顔を洗おう。

 洗面台へと向かい、鏡に映った自分を見る。女性だ。見知らぬ女性だ。


「なんだ、なにこれ、おかしい、声も、見た目も、おかしい。」


 気付かなかったが、私の身体は女になっている。声も女になっている。

 違う、私は男だったはずなのに。あれ、夢の中の話? 頭が混乱してきた。


 分からない。今日は銅像の前で祐樹ゆうきと待ち合わせしていたはずだ、とりあえず向かおう。

 ……祐樹ゆうき



 家を出た。振り返って自分の家を見る。間違いなく我が家だ。だが知らない。見たことない。

 慣れ親しんだ道を歩く。だが、違う。いつもの道じゃない。

 途中で通り過ぎる公園で、何やら膝をついて向こうを見つめるホームレスのような老人。見たことがある気がする。

 その視線の先には……俺。


 走り出した。違和感の正体が分かったからだ。私はあいつを知っている。だってあいつが俺だから。

 じゃあこの体は何? 誰? 分からないが、とにかく話をしに行かなければ。


「ちょっと! お前、なんで!」

「え? なんだいきなり。誰だよお前。」


 私は俺に変人を見るような目を向けられる。違うんだ。聞いてくれ。私は、お前で、お前は……


「あの、よく分からないけど、交番はあっちですよ。」

「……っ。」


 私は何も言えず、俺は去っていった。後ろで、祐樹ゆうきと会話する声が聞こえる。

 あぁ、何なんだこれは。頭が……痛い……






 ぼんやりとした頭が、次第に晴れてくる。

 あぁ、この日差しだ。いつも朝を伝えてくれるのは。

 ゆっくりと目を開けると、ギンギンと煌めく太陽が、空高くに見えた。まぶしい……


「っ!!!」


 ガバッと起き上がる。急な動作で腰が痛い。おかしい、なぜ外で寝ている?

 ここは……知っている。公園だ。知らないわけがない。もう当分、ここに住んでいるのだから……


 おかしい


 おかしい


 自分の服を見る、ボロボロだ。手はしわしわ。立ち上がると、ふらりとよろけた。頭が混乱している。とにかく、いったん水分を……よろりと立ち上がった時、たまたま視線が公園の外へと向く。


 公園の外を歩いてくる男を見て、膝から崩れ落ちた。あぁ、そういう事なんだ。

 今度は、ホームレスの老人なんだ。


 俺は、私と、聞き覚えのある言い合いをして、祐樹ゆうきとそのまま商店街へ消えていった。

 私は、その場で頭を押さえながら崩れ落ちた。





 もう回数も数えるのをやめ、体がこの異常に慣れてきた。

 街を歩けば、あいつも、こいつも、あの男も、あの女も、老人も、子供も。

 あぁ、あの時の俺か、あれはあの時の私だ。見覚えがある。あいつも、あれも。


 今日は、こいつの人生。友人と約束をしていたので、今はそいつと出かけている。

 思えば、ゆっくりと食事をとるのも久しぶりかもしれない。

 ファミレスに入り、ボリュームのある定食を注文した。友人と他愛のない世間話をしていると、程なくして俺の定食が運ばれてくる。すると、ふと思い出した。あぁ、そういえば、あの時こんなこと言った気がするな。





「なぁ、お前さ。自分がある時間をずっとループしてたら、どうする?」

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