初めてと相性と魔法
「えっ……これ、どーすんだ?」
不気味な鳥(?)の声を聞きながら、慌てて周りを見渡す。
先程まで光の射す綺麗な風景に見えていた森が、途端に恐ろしい何かを内包する危険地帯に見えた。
「落ち着くのじゃ、トーゴ」
「いや、だって……」
強く握り返してくるリリスの手の感触に縋りながら、俺が声を震わす。ビビってる。どうしょうもなく。
「トーゴ」
腕を引かれて、リリスと視線が合う。
彼女は落ち着いた様子でこちらを見返していた。
「落ち着くのじゃ」
「…………」
幼い女の子がこんな堂々としているのに、ちょっと自分が不甲斐ない。
よし、不安に囚われるからビビっちまうんだ。違う事を考えて気を紛らわせるんだ。
美咲先輩のパンツ、美咲先輩のパンツ……よし、もう大丈夫だ。
「すまん、取り乱した」
素直に謝る俺の様子を確認したリリスが手の力を緩めた。
「うむ」
「で、これからどうする?」
森の中で闇雲に歩き回っても得策とは言えない。そう思ってリリスに尋ねると、彼女はさして迷った風もなく答えた。
「妾の力を使おう」
「リリスの?」
「うむ。人の気配を探るくらいの魔法なら、少し力を吸収すれば使える」
なるほどな。最初から打開策はあったわけだ。それならそうと言ってくれればいいのに。
そう思いつつも、疑問に思った事を尋ねた。
「でも、リリスの魔力って枯渇してるんだろ?」
「うむ。じゃから先ほど説明した通り、お主から少しだけ力を吸収させてもらう」
そんくらいで魔法って使えちゃうのな。俺はリリスの充電器みたいなもんだろうか。
「まだ、俺強くなってないけど?」
「だから少しじゃ。また気を失われても面倒じゃからのう」
「えっ……?」
やり過ぎると気を失っちゃうのかよ。穏やかじゃないな。
「ほれ、膝をついて、少し屈め」
リリスに促されるまま、俺は膝をついて体を屈めた。
頭の高さがリリスの高さに近付く。自然と正面から見詰め合うような姿勢になった。
「で、俺はどうすればいいんだ?」
「何もせずとも良い。力を抜いて、目を閉じておれ」
「…………ん」
正直、モンスターがどこから襲い掛かってくるか分からないような場所でいつまでも目を閉じていたくなんかないなぁ。
早く終わらせて欲しい。
「手っ取り早く頼むぞ」
「うむ」
闇からリリスの声だけが響く。
何だろう。リリスの気配が近付いた気がした。と、次の瞬間ーー
「むぐっ!?」
唇を何かに塞がれて、俺は目を見開いた。
リリスの顔が認識し辛いくらい近くにある。
経験のない俺にだって分かった。触れているのがリリスの唇だという事が。
「う、うむぅ!?」
慌てて体を離そうとするが、それを阻むようにリリスが腕に力を込め、俺の顔を引き寄せる。
目を白黒させながら、ふと自分の体から力が抜けた。
何となく分かった。今、自分の力がリリスに吸収されているという感覚。これ、なんか頭がぼーっとして、やばい。
そうして抗う気力を失った頃、リリスが顔を離した。今気付いたけど、舌入れられてた。
「あっ……あっ……」
あまりの事に狼狽える俺。その前で目を開いたリリスが妖艶な笑みを浮かべた。リリスの年の頃を錯覚してしまいそうな雰囲気に思わず息を呑む。
「流石じゃのう……なかなか美味かったぞ、トーゴ」
「なっ、なっ……」
だんだん頭が冴えてきて、自分の頬がみっともないくらい紅潮しているのが自覚できた。
「なにが美味かったんだよ!?」
「なんじゃ、初めてだったのか? 初心よのぅ」
また顔を近付けようとするリリスに思わず身を引く。
リリスはそんな俺の反応を面白がってから身を離した。
「美味かったのは、お主の精気じゃ」
「せ、セーキ?」
「そうじゃ。魔力とは違う、生命力のようなもんじゃな」
「生命力……」
言われて自分の体に視線を落とす。確かに少しダルい気がする。
「普通の人間ならあっという間に枯渇して干からびるじゃろうな。鍛えておってもいずれは朽ちる」
「俺は……そうはなってない」
俺だって普通の人間だ。別段、鍛えているわけじゃない。
その事を聞き返すとリリスは隠しもせずに教えてくれた。
「それこそが妾とお主の、最大の利点じゃな。相性がいい事による吸収効率の良さとお主のユニークスキル【不死性】……妾は少ない生命力でも効率的に力を回復でき、お主は無尽蔵に生命力を回復できる」
「なるほど……」
「とはいえ、今はまだお主自身の生命力は少ない。無理をすれば意識を失うじゃろう」
リリスの説明を聞いている間にも俺を襲っていた気だるい感覚は消えた。
「以前は定期的に魔法を使って精気を吸い取らねばならんかったが……なかなかどうして、これなら数日は持ちそうじゃのう」
ペロリと舌なめずりをしながら、リリスが笑みを浮かべる。
いやいやいや。それじゃ、何か? 俺はリリスの魔力が枯渇する度にこんな感じで……
愕然とする俺を見るリリスの顔つきが怪しい。怖いわ。余計な事は聞かんとこう。
「さて、人里でも探すとするかの」
予定通り、人の気配を探し始めてくれたリリスにホッと胸を撫で下ろす。
俺の中にリリスの種族がサキュバスとかなんじゃないかという予想が浮かんだが、今は頭の隅に追いやっておく。余計な質問したら藪蛇になりかねない。俺って大人だ。うん。
「こっちじゃな。こっちの方角から人間の気配がする」
「それじゃ、行こうか」
「うむ」
俺とリリスは連れ立って、リリスの指した方角へ向かって歩き始めた。




