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スキルと方針と迷子

「妾の知っている異世界に渡る方法とは【異世界転移】というスキルじゃ」


 まんまやんけ。リリスのセリフに胸中で思わずツッコんでしまう。

 しかし、スキルか。


「スキルっていうのは?」

「この世界で魔法や特殊な技を使おうとすると、スキルが必要になってくる。スキルを覚えるにはダンジョンなどで稀に手に入るスクロールや強い恩恵が必要じゃ」

「そういえば……」


 俺はふと思い出した。


「異世界召喚でギフトがどうとか……」


 異世界転移する前に聞いた言葉だ。

 リリスが大仰に頷いた。


「異世界に召喚された者は召喚した者の性質に則したユニークスキルを与えられるようになっている。この場合、お主は妾に則したスキルを獲得している事になる」

「どうやって確認するんだ?」

「手を前に翳してスキルに関して念じてみよ」


 リリスに言われるがままに手を翳して念じてみる。


「慣れれば頭の中だけで行えるぞ」

「おお……」


 目の前に四角い発光体が出現して思わず声が出た。しかも自分が出している感覚が分かる。これ、おもろい。


「なになに……」


 俺はリリスと並んで発光体を覗き込んだ。そこには短い単語でこう書かれていた。


【名前:藤沢柊吾】

【称号:異世界より渡りし者 魔王の契約者】

【スキル:不死性】


「…………?」


 さっぱり分からん。

 隣で見ているリリスに視線を向けると、彼女はやや唖然としていた。


「お主、持っとるなぁ……」

「すげぇの? これ?」


 もう一度スキル欄に目を向ける。奥を覗くようにイメージしてよく見ると概要が出てきた。


【不死性:死を超越する。老いることなく死なない】


「……………………はっ?」


 目が点になった。

 理解が追いつかない俺にリリスが分かりやすい言葉で教えてくれる。


「不老不死じゃ。滅多にお目にかかれん、ウルトラレアのユニークスキルじゃぞ」


 チート過ぎんだろ、死なないとか。いや、有り難いけど。有り難いのか?

 取り敢えず、僕は死にませんとか言ってトラックの前に飛び出してもいいわけか?


「こらっ!」


 混乱する俺をリリスがぽかりと叩く。


「あいたっ!?」


 軽く驚いて、痛いと気付いて、俺は固まった。


「普通に痛いからな? 変な気は起こさん方が身の為じゃぞ?」


 ごめん。トラック無理。

 そんな俺を見透かした様にリリスは半眼で溜め息を吐いた。


「不死性とは死人になったわけではないのじゃ。お主はちゃんと生きておる。怪我をすれば普通に痛いし、暑いのも寒いのも感じる」

「はい……」


 調子コキました。すいません。小さな女の子の前で縮こまる俺。


「あと、力を込める時は注意するのじゃ」

「えっ? なんで?」


 俺が不思議そうに聞き返すとリリスは腕を組んで俺のステータスから顔を上げた。


「不死性は本来人の脳に備わっておるリミッターが外れっぱなしになっておるのじゃ」


 なんか、聞いたことがあるな。普段は脳が自然と力を使い過ぎないようにセーブしているとか。


「直ぐに全開の力を使いこなす、とかはできぬと思うが……その状態でモンスターを殴ると――」

「殴ると?」

「お主の腕が壊れる」


 ダメじゃん。


「普通の人間じゃし、お主の肉体は強化されておらんからな。耐久力以上の力で殴れば、当然壊れ、しばらく使い物にならなくなる」

「なんか使えなくね? このスキル……」

「馬鹿を言うな。そのスキルをどれほどの人間や魔族、果ては神族までが追い求めたと思う。スキルだけで見れば魔王級じゃぞ」


 いや、でも痛いの嫌だし。


「もしお主が他の有効なスキルを手に入れられれば、【不死性】のスキルをもっと活かす事ができるじゃろう」


 なんだかなぁ……結局、ギフトスキルと言っても俺が無双する事はなさそうだ。俺、Мじゃないし。痛いの嫌だもん。これは隠居系スローライフになる予感。


「注意する点はやはり拘束される事じゃな。お主とまともにやり合っても無駄じゃからな」


 いや、無駄じゃないぞ。何度も痛い目に合わされたら心がへし折れる。


「お主を無力化するには魔法で封印するか、首をぶった斬って塩漬けにするかくらいしか手はない」

「後者は絶対に御免被りたい」


 首を塩漬けとかグロ過ぎるわ。


「あ、あと、気絶させられないようにするのじゃ。普通に意識は失うからのう。安全な所以外で寝んようにするのじゃ」


 危険な所で自ら寝る奴はおらんと思うが。

 まぁ、いいや。誰ともやり合う気は今の所ないし、できる限り穏便に行こう。


「話を元に戻すが……つまり、お主が元の世界に帰ろうとするとダンジョンをクリアしつつ力を蓄え、より高い難易度のダンジョンから【異世界転移】のスクロールを得るか、何かしらの要因で【異世界転移】のスキルを獲得するしかない」


 さよなら、俺の隠居系スローライフ。


「おそらく前者の方が確率は高い……後者は不確定要素が多過ぎる。能動的に動く方が可能性は高いじゃろう」


 スキルにもランクがあるらしい。

 コモン、アンコモン、レア、ベリーレア、ウルトラレア、ユニーク。

 希少な物ほどより難易度の高いダンジョンをクリアしなければならないのだそうだ。何年計画だよ、それ。

 それでも待っているよりか遥かに可能性は高いというのは俺でも理解できた。

 生活する上では何かしら手に職をつけなきゃいけないし、冒険者という職業もあるらしいのでひとまずその方針で行くしかない。

 一度覚えたスキルは使い続ければ熟練度が上がり、その熟練度に合わせて派生系を覚える事もあるそうだ。まるでゲームだな。

 因みに【異世界転移】はウルトラレア級のユニークスキルなんだそうだ。

 元の世界に戻るというのであれば、俺が強くなるのは必須か。

 すまんな、妹よ。兄ちゃん、すぐに帰るのは無理そうだ。というか、無理っぽくない? 俺、普通の男子高校生なんだか?


「ま、いいや。で? リリスの目標はなんだ? 取り敢えず、時の牢獄からは脱出できただろ?」

「うむ。しかし、長い年月閉じ込められたせいで妾の魔力は枯渇しておる。元の力を取り戻すのが当面の目標じゃ」


 なるほど。こんな小さな女の子じゃあ力を取り戻さないとどんな世界でも生きては行けないよな。

 同情の念を覚えてリリスを見ていると、リリスはチューブトップの胸元を引っ張って中を覗き込んだ。


「まったく忌々しい。体までこんな萎んでしまいおったわ」

「こらこらこら! 引っ張んな!」


 女の子がそんな事しちゃいけません。

 言っておくが欲情してないからな。俺はあくまでノーマルだ。妹を持つ兄としては幼気な少女の蛮行を看過できなかっただけだ。

 そんな俺の気持ちとは裏腹に、慌てる俺を見たリリスがニンマリと笑った。


「なんじゃなんじゃ〜? 転移前はあんな釣れない態度であったというのに……妾の美少女ぶりを目の当たりにして心動かされたか? お主も好きよのぅ」

「違うっつーの!」


 口を抑えてウププとか笑うなよ。くっそー、腹立つな。


「だが、今はだめじゃ。せめてあと少し、力を取り戻さんとのぅ」


 俺の話、聞いてねぇ。

 勝ち誇った様子のリリスに思わず頬が膨れてしまう。まったく……力を取り戻したってロリはロリだろうが。

 ひとしきりからかい終えて満足したのか、リリスがこちらを向き直る。


「まぁ、よい。妾が力を取り戻すためにも、お主の成長は必要不可欠じゃからの。ちょうど良いわ」

「どういう事だよ?」


 俺の成長とリリスが力を取り戻すのと、いったい何の関係があるのか。アレか、雛鳥に餌付けする親鳥みたいな。俺が狩ってきたモンスターを与えるとリリスが成長する、とか。


「何を考えておるか分からんが、多分違うぞ?」


 半眼で断りを入れてから、リリスが説明を始めた。


「異世界召喚は基本的に召喚した者と相性の良い者が選ばれる。でじゃ、妾が力を取り戻すのに最も効率の良い方法が他人から力を吸収する事なのじゃ。それは相性が良ければ良いほど、強ければ強いほど効率が良くなってくる。お主は異世界召喚で妾に呼ばれた者じゃから……」


 必然的にリリスと相性が良いという事になる。なるほど。しかも、俺は【異世界転移】のスキルを目指して強くなる事が目標だ。


「異世界召喚で引き合わされたのであれば相性の良さは折り紙付きじゃ。ならばこれを利用する以外あるまい?」


 リリスにとっては理に適っているという事か。

 俺としても何も分からない異世界を独りで放浪するより断然良い。

 リリスは魔王とか言ってるが異世界に来た俺を気遣ってくれているようだし、それにコイツ寂しがりやみたいだしな。


「お主、今、失礼な事を考えとらんか?」

「ソンナコトナイヨ?」


 図星を指されて片言になってしまった俺をリリスが半眼で睨む。


「あ、ほら。お互いの目標も決まった事だし……」


 リリスの視線から逃れるように無理やり話題を変える。

 俺は取り敢えず【異世界転移】のスキルを目指して強くなる。リリスは力を取り戻す為に俺を鍛える。

 やる事が決まれば、あとは行動あるのみだ。


「早いところ森を抜けて、人のいる所へ出た方がよくないか?」

「ぬ……」


 あからさまな話題の転換にリリスはまだ不満そうだったが、ため息つくと賛同してくれた。


「そうじゃな。森というのは開けた場所より強いモンスターが住み着いておる。視界も悪く、奇襲を受けやすい故、さっさと立ち去るとしよう」


 やっぱりそうなのか。覚えとこう。

 俺は立ち上がってリリスに手を差し伸べた。少し驚いたリリスの表情がかわいい。

 手を握り返してきたリリスを引き起こし、何となく尋ねる。


「で? どっちに行きゃあ森を抜けれるんだ?」


 俺の疑問にリリスは真っ直ぐ見上げて答えた。


「知らん」

「…………えっ?」

「そりゃあそうじゃろう。妾は千年、時の牢獄に閉じ込められておったのじゃぞ? 土地勘なんてあるはずなかろう」

「…………えっ?」


 言われてみれば全くその通りだ。千年も閉じ込められていたリリスに土地勘なんてある筈もない。

 勿論、異世界初上陸の俺にだってそんなモンある筈ない。


「…………あれ?」


 なんかこれ、最初から詰んでね?

 真っ直ぐ見上げてくるリリスを見つめ返しながら、間の抜けた声しか出せない俺の頭上を鳥らしき影が不気味な鳴き声を上げて飛び越えていった。


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