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ソロとお尻と初級ダンジョン

 ダンジョンとひと括りに言っても色んなダンジョンがあるそうで、俺の入ったダンジョンは典型的な地下に降りていくものだ。

 それほど深い造りではなく、全部で三階層になっている。

 ダンジョンの難易度が上がれば上がるほど、より深く、より強い魔物が出現する。


 その難易度の査定はダンジョンを管理している国や冒険者ギルドによって定期的に行われている。

 と、いうのも、ダンジョンは成長する生き物のようなものらしく、いつの間にか難易度が変わっていたりすることがあるんだそうな。

 気付くのが遅れると要らぬ被害者が出たり、管理されてないとダンジョンから魔物が氾濫したり、大変なんだそうだ。


 じゃあ埋めちゃえよ、と思わなくもないが、ダンジョンは正しく用いれば国益になるそうで異世界の人々はみんな上手くダンジョンと付き合っているようである。

 初級ダンジョンも冒険者になりたての新米がダンジョン攻略の心得を得ていく上で大変重要な施設と言える。


「……っと」


 足元に気をつけながら先を進む。

 光源はダンジョンそのものが光を発しているらしく、洞窟であるのに十分な視界が確保できる。とはいえ道は曲がりくねっており、油断していると――


 キュイッ!


 影から突然飛び出した獣に身構える。

 外でもよく見かけるホーンラビットという魔獣だ。名前の通り、角が生えた兎だな。

 外では呑気なところもある魔獣だが、ダンジョン内ではそうもいかない。

 ダンジョンに取り込まれた魔物たちは侵入者を敵と認識する。外では温厚であっても襲い掛かってくるのだ。

 こうした魔獣たちはダンジョンのコアに生成されたり、召喚されたりするらしく、倒された魔獣は消えるか、そのまま残るかのどちらかになる。

 リリスによると力の弱いダンジョンは殆ど生成に偏るらしい。


「とりゃ!」


 手にしたショートソードでホーンラビットを叩き斬ると、力尽きたホーンラビットは不思議な光を発して消え失せた。

 遅れて角がポトリとダンジョンの床に転がる。


「お、ラッキー♪」


 生成された魔獣は体の一部を保有していることが多い。

 時にはそれが無価値なものであることもあるが、角は価値があり、ギルドで買い取ってくれる。まぁ、そんなに高くはないけど……

 再びダンジョンに回収される前に角を拾って腰のポーチに収める。そのまま放っておくとダンジョンが回収し、また魔獣として生成されるのだ。


 周囲を確認し、安全であると判断してからまたダンジョンの奥へと進む。


 最初のうちはリリスに付き添われ、おっかなびっくりしていたが、今ではちょっとした事では動じない。リリスも付き添わなくなり、俺一人で魔獣にも対処できる。


 正直、最初は生き物に手をかけることに抵抗があったが、今ではそれほどではなくなっていた。特にダンジョンでは。

 あいつら本気で俺のこと襲ってくるんだもん。


 初めてダンジョンに潜った時、躊躇していたら思い切り脛を齧られた。

 異世界に転移する前も親のスネ齧っている人がいると聞いているが、魔獣は物理的に囓ってくるからね。

 その上、痛みと恐怖で逃げようとしていた俺のケツを思いっきり角で突き刺してきた。

 もう少しズレてたらホールインワンだった。

 その他、このダンジョンにはグレーウルフという狼も出る。

 個体としてはそれほど大きくないそうだが、俺はこのダンジョンで狼にケツを噛まれると大変痛いということを知った。本当に痛かった。


 そんな事があってから魔物に手心を加える事は辞めた。

 俺だって現世に帰りたい。戦うか、ホールインワンを選ぶかなら迷わず戦う。同様に、もうケツを齧られたくない。

 ダンジョンを奥へと進み、二階三階と降りていく。このダンジョンはフロアを降りても地下一階とほとんど変わらない。

 出てくる魔獣も大して変わらず、ホーンラビットとグレーウルフがいる。

 個体数も少ないので囲まれないように気をつけながら一匹ずつ丁寧に倒していく。

 そうして最奥までたどり着くと少し立派な扉があった。ここがボス部屋だ。


 ボスを倒せば、その奥にお宝部屋がある。と、いっても初級ダンジョンにそんな凄いものはない。

 スキルスクロールも出るらしいのだが、絶対ではない。要は運次第だ。俺はまだ見かけたことはなかった。


「お邪魔しまーす」


 断りを入れてから部屋に入る。

 少し広めの部屋の中央に薄ぼんやり輝く魔法陣。今までならそこに数匹のグレーウルフがいたのだが、今回は違った。


「こいつは……」


 薬草取りの依頼で何度かみたことがある。

 確か名前はクラッシュゴートだ。気性が荒く、敵対すると体ごとぶつけてくる獰猛な山羊だ。

 グレーウルフよりも一回り大きく、頭には角が生えており、その角が刺されば痛いでは済まなさそうだ。

 ダンジョンの中では初めて見るクラッシュゴートは歯を剥き出しにして唸り、俺を目掛けて突進してきた。


「あぶねぇっ!?」


 咄嗟に横へ身を投げだして飛び退くと通過したクラッシュゴートが扉に頭から突っ込んだ。重く鈍い音が室内に響き渡る。

 俺はすぐさま起き上がると剣と盾を身構えた。

 クラッシュゴートがゆっくりした動きでこちらを振り返る。多少のダメージがあったのか額が傷ついている。


 ゴァ! ゴァァ!


 まるで吠えるような声を上げるクラッシュゴート。前脚を地面に叩きつけるような仕草は怒っているように見える。


「いや、それ俺のせいじゃないでしょ!」


 俺の訴えは魔物の前に虚しくスルーされた。

 先程と同じようにクラッシュゴートが突進してくる。それに合わせて俺は盾を持ち上げた。

 こういう突進系の魔獣が現れた際の動きはリリスからレクチャーされている。

 俺は魔獣を十分引きつけると素早いサイドステップで突進を躱した。走り抜けたクラッシュゴートが大きく旋回して、また俺に狙いを定めて突っ込んでくる。


「行ける……」


 確信した俺は手にしたショートソードを握り直した。

 突進に合わせてサイドステップ。そして今度はすれ違いざまに前脚を狙う。

 正面から叩きつけると勢いで剣が弾かれる可能性がある為、小さな動きで擦り抜ける様に斬りつける。

 そんな動きを何度か繰り返すとクラッシュゴートの走る速度が落ちてきた。


「もう一息か……!」


 こっちも集中の連続で結構きつい。

 一度でも失敗して突進を喰らえば、完全に立場が入れ替わる。

 俺が簡単に死ぬ事はないらしいが、だからって痛いのが分かっていてわざわざ喰らってやる謂れはない。痛いのはノーサンキューだ。


「シッ!」


 クラッシュゴートの動きに合わせて剣を振るう。それを嫌がったクラッシュゴートが自ら脚を止めて剣を躱した。


「やっと止まったか……」


 相手の脚を奪えば次の段階だ。ここからがまた一苦労なんだけど。


「フッ!」


 俺は小さく息を吐き、気合を入れて前へ出た。案の定、クラッシュゴートが僅かに頭を下げる。自慢の角で迎撃するつもりだ。


「させるか!」


 俺は盾を構え、クラッシュゴートの上から覆い被さるように肉薄した。

 盾でクラッシュゴートの目を隠し、上から体重をかける。

 前脚を何度も斬られ、踏ん張りの効かないクラッシュゴートは後ろに下がろうとした。そこを逃さず、更に脚を狙う。

 クラッシュゴートは前へ進む速さに比べて後退する速度が遅い。

 その隙をついて、俺は一気に側面へ回り込んだ。思い切り首を目掛けてショートソードを振り下ろす。


「くっ……!」


 鈍い確かな手応えが手に伝わってくる。

 流石に一撃で首を落とすような真似、俺にはできない。が、明らかな怯みを見せるクラッシュゴート。


「りゃぁっ!」


 俺は思い切り踏み込んでショートソードをクラッシュゴートの首に突き刺した。

 血が勢い良く噴き出す。何度見ても気分の良いもんじゃない。

 クラッシュゴートは二三歩よろめくとその場に崩れ落ちた。


「やった……か?」


 深く息をつき、消えるのを待つ。が、一向に消える気配がない。見るからに事切れているのに。


「あっ……!?」


 思い当たる事があり、俺は駆け寄ってクラッシュゴートの角を掴んで持ち上げた。


「こいつ、実物だ……」


 ダンジョンに生成された魔獣ではなく、召喚された実物。

 生成された魔物よりも召喚された魔物の方が数段強くなるとリリスが言っていた。

 そして何より、召喚された魔物は当然だが生成された魔物よりも取れる素材が多い。金になるのだ。

 俺は思わず嬉しくなって、武器を収めてクラッシュゴートを持ち上げた。



「重いぃ……」


 魔物の解体もできず、単独で活動している俺が持ち運ぶには少々重すぎた。しかし、諦めるわけにはいかない。


「んのおおおお……!」


 引きずると傷がつき、安く買い叩かれる。

 気合を入れて持ち上げ、フラフラした足取りでボス部屋の奥へたどり着く。

 そこにはお宝部屋を象徴する二つのものがあった。一つは台座のような物に乗ったこのダンジョンのコア。もう一つは転送用の魔法陣だ。

 ダンジョンのコアの前には祭壇のようなものがあり、コアに手をかざすとダンジョンの力でアイテムが出現する。それがダンジョンクリアの報酬だ。

 そしてその横にある転送用の魔法陣に乗ると一気に入り口へと戻れる。


 なんでそんな親切設計なのか、不思議に思ってリリスに聞いたところ「クリアしたのに居座られてコアを壊されでもしたらダンジョンが死んでしまう」とのこと。

 リリス曰く「報酬をやるからそれを持ってとっとと帰れ」ということらしい。一種の防衛手段と取れなくもない。

 もっとも、ダンジョンを管理している国や冒険者ギルドは、ダンジョンのコアに危害を加える事を禁じている。余程マナーの悪い冒険者でないとそういう事はしないそうだ。

 報酬が渋くてもコアや祭壇を叩いたりしてはいけない。冒険者としての基本だ。


「さて、と……」


 お宝部屋まで運べば魔物が吸収されることはないので俺は一旦クラッシュゴートを床においた。

 ダンジョンのコアの前に立ち、パンパンと手を打ち鳴らし、拝む。

 ここは初級ダンジョンなのだから豪華な報酬が出てくることはまずない。だが、いつもお世話になっているし、感謝の心だ。ダンジョンが生物みたいなものと位置づけられているならば、態度や姿勢は重要だというのが最近できた俺の持論だ。


「今日もよろしくお願いします」


 賞状でも貰うかの如く、頭を下げ、手を伸ばす。

 コアが反応し、光を帯びて祭壇に報酬が召喚された。それを感じ取って俺が頭を上げる。


「お、おお……」


 祭壇を覗き込んだ俺の前に見たことの無い物が置かれており、俺は思わずそれを手に取って頬を緩めた。


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