或る街の悲劇
あるところに、一つの街がありました。
小さな小さな街でしたが、とても賑やかで平和な街でした。
そこにある日、突然、一匹の怪物がやって来ました。怪物に理性はなく街の人々を次々に殺していきました。
ある人は逃げ惑い、またある人は、神に救いを求め祈りを捧げ、それまたある人は勇敢に立ち向かっていきました。
が、逃げきれるわけも、神が救うわけも、はたまた倒せるわけもなく、一つ、また一つと命が消えていきました。
しかし、怪物の前に一人の青年が現れました。
青年は碧く光る鎧を身に纏い、聖なる剣を携えていました。
その剣を構えたかと思うと、地面に突き刺し、こう言いました。
──ここは退いてくれないか。
怪物の目に怯えの色が見えましたが、それも一瞬。すぐに青年に向かって噛みつきました。
青年は避ける素振りは見せません。剣を構え、一線。
次の瞬間には、首と胴が離れた怪物の亡骸ができあがっていました。
──おぉ…
──助かった、のか?
人々はしばらく混乱していました、しかし怪物の死体を見ると、次々に喜びと青年への感謝の声を上げていきました。
──やったぞ! 助かったんだ!!
──怪物は死んだ! あの青年がやってくてたんだ!
──青年に感謝を!!
──街を守ってくれてありがとう!!
人々が感謝の言葉を叫ぶ中、老人が一人、青年に近づいていきました
青年は辺りを見渡していましたが、近づいて来た老人に気づくと、その人へ体を向けました。
──ありがとう、これは感謝のしるしじゃ。受け取ってくれ。
老人が手渡したのは、良質な紅いマントでした。
──これは?
──反邪の効果のあるマントじゃ。うちの店に流れこんだ品でのぅ。品質は保証するぞ。……といっても、反邪の腕輪を持っているようじゃから、必要ないかもしれんがの。
──いや、あるに越したことはない。くれるというなら貰っておこう。
青年は、屈託のない笑顔でマントを受け取り、早速着てみました。
──うん、良いものだな。ありがとう。
──感謝をするのはこっちのほうじゃ。街を救ってくれてありがとう。
青年は老人に一礼し、頭蓋に向けて剣を振り下ろすと老人の頭は破裂し、脳髄が飛び散っていきました。
人々は老人の死に驚きました。
青年は、茫然と立っている男に近づいていくと、同じように剣を振り下ろしました。
肉片などが飛び散るなか、青年はまた剣を振り上げました。目の前にいる少女は、怯えているようで、小さく震えていました。
──待て! 妹に手をだすな!
青年と少女の間に、少年が両腕を広げて割り込んできました。
──逃げろ!! 兄ちゃんもあとで追いつ
青年は剣を振り下ろしました。
少年と少女の血液が飛び散り、老人たちの血と一緒に辺りを赤く染めあげました。
人々もようやく理解したようで、一斉に逃げ始めました。しかし青年は逃げた人から次々に殺していきました。
街のどこへ逃げても、どこに隠れても、まるで青年が何人もいるかのような速度で殺されていきました。怪物以上の脅威に人々はどうすることもできずに、ただ、ただ街の外を目指して逃げていきました。
街はからは、たくさんの悲鳴や断末魔が聞こえてましたが、声がだんだんと消えていき、ものの数分で全ての声がやみました。
街は赤く染まり、見方によってはとても綺麗なものでしたが、ここで起きたことを知れば誰も綺麗だなんて思わないでしょう。
──さて、と、次の街に向かうか。この街は良い街だったな。
青年は独り言を呟き、貰ったマントを風になびかせながら街を出ていきました。