『Imazinica 1 [憂鬱な魔法少女と黒狼 2]』
──彼女は魔法少女となる。チュートリアルの森に入り、そこで体の動かし方や技の出し方を覚えるのだった。
──この三日間、私は専用のホワイトプレイヤーが送られてくるまで悶々としていた。
何をするにも手がつかず上の空だった時も多々あってしまった、それにより上から怒られたりしてしまい少し反省だ。
『──ピロンッ♪』
三日後の夜、ベッドの上で寝転びながらスマホを触って暇を潰していると『Imazinica』のアプリにメッセージが送られていた。
「……もしかして」
早速アプリをタップすると画面が暗転して白い背景にイヴが待っていた、丸く白い球体はフワフワと浮いているが気にせずメッセージのマークを押す。
するとメッセージには運営からホワイトプレイヤーの完成を伝える旨が書かれていたのだ、私はワクワクしながら一番下のプレゼントボックスをタップしていた。
『──貴女の分身となる存在、ホワイトプレイヤー『マジカルりりカル』が送られてきます。しばらくお待ち下さい……。』
イヴのメッセージと共に画面の中央に光が収束していき一気に溢れ出す、そしてイヴが居た場所に幼い魔法少女が可愛い笑みを浮かべながら立っていたのである。
「……すごく、可愛い!」
私が思い描いていた子供の頃の夢が現実になった瞬間だ、ワクワクしながらログインの黒い◆マークをタップすると視界は暗転していたのであった。
◇◆◇◆◇
「イタタァ……何なのよぉっ?」
『──お早うございます、マジカルりりカルさん。』
体が地面に落ちた痛みを感じて目を開くとそこは森に入る手前であった、機械的な女性の声がしてそっちを見るとイヴが実体化して宙に浮いている。
「一体、何処なのよここは……」
『──ここは『ディラックワールド』に入る前のチュートリアルの森ですね。』
立ち上がり折角の可愛い服に付いた草や土をはたき落としていると、イヴが目の前に回り込んできて説明をし始めてくれた。
『──貴女には、このチュートリアルの森で体の動かし方や敵との戦い方を覚えて貰います。その後、レベルが一定値に上がりましたらボスと戦闘を行います。』
「えぇー、私そんな事したくなーい!」
『──ですが、何も分からないまま『ディラックワールド』に行ってしまうと大変危険です。向こうはここ以上に強力で凶悪な魔物などが存在致します、それに敵対プレイヤーも襲ってきますよ。』
「そ、そんな怖い事言わないでよぉ……分かったわよ、チュートリアルを受ければ良いのね?」
仕方無く嫌々ながらイヴの提案を受け入れると彼女は目の前の森に向けて矢印のホログラムを出す、矢印の中には『敵出現有り』と書かれていた。
「で、私はどうすれば良いの?」
『──先ずは、体の動かし方を覚えましょう。現実世界の貴女とは違い、この世界の貴女は背が低く何もかも小さいので全然違います。』
「……それ、嫌みかしら?」
『──何の事でしょうか? 先ずは走ったり跳んだりしてみましょう、その後、魔法少女のスキルを使用してみます。』
「……はぁ、分かったわよ」
言われた通りに歩いたり走ったりすると私は私の体じゃないかと思える位に足幅が小さい、軽く跳んでも背の高い私とは違ってこの体は女の子がピョンピョンはね跳んでいるだけである。
……勝手が違いすぎて、私のもう一つの体でも私じゃないようだ。
「──こんなに動けないなんて、運動神経抜群の私なのに……」
能力を思うように使えないもどかしさと悲しさに悄気てくる、するとイヴが慰めるように辺りを回ってくれる。
『──大丈夫ですよ、まだその体に慣れていないだけで時間を掛ければ馴染みます。では、そんな動けない貴女にスキルの使い方をお教え致します。』
彼女は球体であった体を四角く広げてモニターのように変身していた、そして画面に私のホワイトプレイヤー『マジカルりりカル』のだと思われるステータスが表れた。
「えと、これは……?」
『──これは貴女のステータスです、貴女の種族は人間ですが職種の『魔法少女』により魔法能力が存在します。魔法能力とは魔法を使用出来るプレイヤーだけが持ちうるスキルであり、HP(体力値)とは別にMP(魔力値)と呼ばれる魔法を使用するゲージが存在します。』
「……よく分かんないけど、要は私は魔法を使えるの?」
『──えぇ、先ずは飛行スキル『飛空のステッキ』を詠唱して使用しましょう。』
言われるがままに私は魔法ステッキを振って『飛空のステッキ』を唱える、すると私の持っているステッキが巨大化し箒ぐらいの大きさで宙に浮いている。
「……ねぇ、もしかしてこれに跨がるの?」
『──はい、それに跨がっても宜しいですし横座りでも宜しいです。』
「えぇー……分かったわよ」
渋々ステッキに横座りして先端を手に持ちバランスを取る、そのままゆっくりと私を乗せたステッキが空に上がり始めた。
一定値まで上がると勝手にステッキは停止してしまってその場で動かなくなる、バランスは安定していて乗り心地は良くはないが空からの景色は最高だ。
「……わぁ!」
『──どうですか、この景色は?』
「凄いわ……現実と変わらない景色、風も感じるし森の匂いもする」
『──それが運営の素晴らしさです、では他のスキルは敵と戦いながら使用していきましょう。』
下を見ると粘液状のモンスターや小さい人型だけど明らかに緑肌をしているモンスターが出てきた、連中は空を見上げて何かをザワザワと叫び続けている。
「……もしかして、アレを倒すのかな?」
『──えぇ、早く倒さないとMPが切れて空から落ちてしまいます。貴女の『飛空のステッキ』は経験の浅い魔法少女なので、使用していると常時MPが減り続ける事になっています。』
「──そんな事聞いてないわよっ!?」
『──言ってませんから、それより袋叩きに合う前に反撃の来ないここからスキル攻撃を行いましょう。先ずは火の玉を発射する『フレイムボール』を詠唱して下さい。』
「──フレイムボール!」
ステッキを丸く振って真下に突き出し小さく詠唱すると赤く燃える魔方陣が現れバスケットボール大の火の玉が翔んでいく、そのまま地面に火の玉が着弾すると同時に火の海が広がってしまったのだ。
火の海に巻き込まれた粘液状のモンスターは蒸発してしまい緑肌の人型は燃えながら走り回る、それは明らかにオーバキルと言える物であり放った私も唖然としてしまう。
「……えぇー」
『──素晴らしい攻撃です、モンスターを大量に撃破しましたので経験値が入ります。』
「ありがと……」
敵が消え失せてしまった焦げた広場に降り立ちイヴの言う通りに右手の人差し指を右にスワイプする、と青く透明なモニターが現れてそこに私『マジカルりりカル』のステータスが表示されていた。
「おぉー、レベルが上がってる」
名前の下の透明なバーに緑のバーが伸びに伸びてレベルが3まで上がっていた、それとも同時にスキル欄に新しい戦闘スキルが一つと補助スキルが二つ出現する。
『──新しく与えられた戦闘スキル『エレキクラッシュ』は電撃を放つ詠唱魔法です。補助スキル『使い魔の卵』は経験値が入ると何れサポートモンスターが誕生します、もう一つの補助スキル『コスチュームチェンジ』は戦闘スタイルを変更出来ます。今はまだ、使用可能ではありませんが。』
「へぇー、何かワクワクしてきた!」
補助スキルは兎も角、戦闘スキル『エレキクラッシュ』は使い心地を試してみたくなる。
ちょうど目の前の森から汚れた鎧に身を包んだ土色肌の死体騎士が私に向かって襲い掛かってくる、距離はまだあるのでステッキをジグザグに振り敵に向けて『エレキクラッシュ』と詠唱した。
『ギャァァァァァァァァァッ!!』
青光る魔方陣が浮かび迫ってくる死体騎士に向かって電撃が放たれた、瞬間に死体騎士と地面が大きく吹っ飛んでいってしまう。
「……いやいやいや、おかしいでしょ?」
『──おめでとうございます、レベルが5になりましたのでボスへの扉が開きました。』
モニターを開くとレベルが一気に上がり5になって、新しい戦闘スキル一つと補助スキル一つが開いていたのであった。
イヴが言うように目の前には大きく赤い扉が出現していた、私はボスを倒す為にその扉を開き中に入るのであったのだ。
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──魔法少女は門番と出会う、彼は禁忌なる存在として少女を『門を通る者』としての資格があるかを確かめようとする……[憂鬱な魔法少女と黒狼 3]へ続く。