『Imazinica 1 [憂鬱な魔法少女と黒狼 1]』
──きっと『Imazinica』は皆を楽しませるゲームになると思うんだ、ボクが精一杯考えて企画した世界に一つのゲームだから。その為ならボクの命は惜しくも何ともない、彼等の復讐の道具に為らん事を……。
──ようこそ、私はナビゲーターの『イヴ』と申します。
──先ず初めに、このゲームアプリ『Imazinica』について簡単な説明をしていきたいと思います。
──この新感覚重複世界現実型ゲームアプリの『Imazinica』は、専用のスマートフォン『X'lista』を使用する事によりプレイする事が可能です。『X'lista』以外の既存のスマートフォンでは、アプリをインストールする事が出来ませんのでご注意下さい。では、次は世界設定についてご説明致しましょう。
──この『Imazinica』の世界はシステム『ディラックワールド』と呼ばれており、現実とは違う重なった世界から出来ています。その世界はほぼ現実と同じ世界であるので、酸素はもちろん実体化しているので物に触れる事も可能です。ただし、この世界にログインするには、媒体であるスマートフォン『X'lista』とその専用アプリが無いといけません。それだけ、危険かもしれない場所ではあるのです。次は、あなた達のもう一人の自分『ホワイトプレイヤー』について説明しましょう。
──『Imazinica』にログインするとプレイヤーのアバターを考えて頂く事になります。あなた達が描いたキャラクターでも良いですし、キャラクターが描けない方でもメッセージを通じてあなただけの"もう一人の自分"を一緒に創らせて頂きます。種族は『人間・亜人・神族・魔族・機械種族・異常種族』の六種類存在します、それぞれ扱える能力や職種が変わりますのでご注意下さい。
──キャラが出来るまでは最低三日間は掛かってしまいます、三日後あなたのアプリには自分のキャラクターが送られていますのでその日からプレイ可能です。では、戦闘方法をお教え致します。
──もう一人の自分『ホワイトプレイヤー』になりましたら、先ずはチュートリアルエリアに転移させられます。VRと似たような視点ではありますがそれはあなたの体です、自分の体を動かすように走ったり飛んだりしてください。それが終わりますと森への扉が開きます。そこでは雑魚敵『スライム・ゴブリン・ナイトグール』が存在します、その雑魚を倒しながらレベルを5まで上げていただくとチュートリアルのボス『パンドラ』と戦う事になります。彼は禁忌の匣を操り様々な攻撃を仕掛けてきます、貴方は総力を尽くして彼を撃破してください。撃破すると戦闘が終了し、専用の装備がドロップする事になっています。そして、オンライン専用の『ディラックワールド』へと転移しますので楽しんでくださいませ。
──では長々と失礼致しました、この世界『Imazinica』をお楽しみ下さいませ。
[憂鬱な魔法少女と黒狼 1 ]
──駅前は人々で溢れている、誰しもが周りを見ずに手元のスマートフォンに集中している。
『……遂に配信開始、新感覚体感ゲームアプリ『Imazinica』は専用のスマートフォン『X'lista』でしか遊べないっ!! 今すぐ、店頭へGo!』
駅前にあるビルに埋め込まれた大型テレビには最近配信されたばかりのゲームアプリ『Imazinica』のCMが流れていた、それは専用のスマートフォンではなければ遊べないアプリゲーには有り得ない物であった。
──だが、このゲームアプリは徐々に流行りだしているのだ。
「……さて、後三分だからログインするか」
自分もシックブラックカラーである『X'lista』を右手に持ち画面を見ずに操作する、黒い背景に蒼い◇(ひし形)マークのボタンをタッチしアプリを起動した。画面にはエナメル質の黒コートを着た狼のような機械的な仮面を被ったブラックプレイヤーが表示されている、その隣には様々な選択パネルが表示されているが『ログイン』のマークである青白い◇(ひし形)をタッチする。
「──マイアカウント『人喰い』ログインする」
瞬間、その場から青年の姿は消えてしまっていた。だが、辺りを歩いている人々はそんな出来事に注目もせず手元のスマートフォンに集中するのであったのだ……。
◇◆◇◆◇
私『雪原 己鷺』は目の前に置かれた『X'lista』を見ながら非常に悩んでいた、その理由は簡単であり"ある生徒"から誘われているゲームアプリ『Imazinica』の事であったのだ。
私もしてみたいとは思っているのだがスマートフォンでゲームをした事がない、更に運動神経や反射神経は抜群に良いが何故かゲームになるとゲーム酔いしてしまうのである。
──そのせいで、私はゲームをしようにも出来なかった。
だが、そんな私でもゲームに興味はあるしこの『Imazinica』も是非してみたいのである。
教師としてこの学園に配属された時に『Imazinica』専用スマートフォン『X'lista』は支給されている、何故ならこの学園の設立に『神淵電子工学機器専門会社』も携わっていたかららしい……。
「……Imazinica、か」
だからこの学園の教師は勿論だが生徒達も無償で『X'lista』が配給されているのだ、彼女達の多くはやはり『Imazinica』をしているらしくその話題で持ちきりである。
だからこそ話に付き合えるようにコレをする必要はあるだろうし、何よりゲームを思いっきり楽しんでしまいたい。
「──私に出来るのだろうかなぁ」
だが、未だにウジウジと悩んでしまっているのが私であった。
学園では男らしく格好いいと言われる私だが家では不安症な一人の女性なのだ、しかし折角あの娘が私を誘ってくれたのだから意を決して『Imazinica』のマークを震える人差し指でタッチする。
『──どうも初めまして、私はナビゲーターの『イヴ』と申します。』
すると画面が一瞬暗くなり白い背景に近未来的な白い球体が話し掛けてきた、私はただ何をして良いか分からずその場で硬直してしまう。
『──では先ずは、もう一人の自分となる"プレイヤー"を作りましょう。これは貴女が描いたイラストでも良いですし、私達が貴女と共に新たなキャラクターを考えても良いです。』
そう言われて机の引き出しから一枚のノートを取り出してページを捲る、あるページで止めるとそこには下手と分かる絵で私がなりたかった魔法少女のイラストが描かれていた。
『──貴女が描いたイラストを使用するのでしたら、黒い◆マークをタッチして下さい。私達と一緒に考え……』
有無を言わさずに黒い◆マークをタッチして次の説明へと移らせる、イヴは少しの間硬直していたがすぐに動き始めたのだ。
『──では、イラストをスマートフォンで写して下さい。写された画像は"運営"へと送られて、仮プレイヤーイラストが貴女の元へ送られてきます。』
言われる通りに写真を取り数分間ダラダラと待っていると運営からメッセージが送られてきた、メールマークをタッチし開いてみると私が描いたイラストが少しデフォルメされて仮プレイヤーイラストとなっていた。
──身長は低く小学生高学年か中学生低学年なみ、赤みがかった肌につるぺたの胸と幼い顔立ち。髪は少し大人っぽくポニーテールにしていて、服装は日曜の朝に出てきそうな少女ヒーローの様にカラフルでフワフワしている。
『──どうでしょうか? 宜しければ"YES"を、描き直すのでありましたら"NO"をタップして下さい。』
私の思っていたキャラクター通りになっていたので"YES"を押して次に進める、するとキャラクターの詳細設定画面に移ったのであった。
『──名前、種族、職種そして武装展開の案を入力して下さい。』
そこで私は頭を捻ってしまった、名前や種族や職種は分かるのだが武装展開とは一体何なのだろうか?
だがまあ気にしていては仕方ないのでポチポチと名前と種族と職種を選ぼうと思ったのだが、種族の所で手が止まってしまったのである。
──何故なら、種族が多すぎる。
種族へ六種あり、その中から簡単に選べば良いと思っていたのだがそんな六種から更に数十種類の種族があったのだ。
「……やはり、魔法少女だから人間だろうか? いや天使やエルフもしてみたい、悩む」
悩みに悩んでしまった結果、私は普通に人間を選び職種は魔法少女を選んだのであった。
『──それでは、武装展開についての説明をさせて頂きます。』
三つ設定し終わると急にイヴが動き始めて説明をし始めた、動画が流れて誰かの戦闘が見える。
『──武装展開とは所謂"最強必殺技"のような物です。プレイヤー一人一人独自の武装展開を所有して発動すると、絶大な力や最強の攻撃、数多の仲間を召喚できたり致します。』
「……確かに、動画の中で誰かが凄いレーザーを撃っているなぁ」
戦闘の動画の中では近未来的な透明の衣装に身を包んだ少女が両手の平を突き出し特大レーザーを撃っている、対する相手は逃げる間もなくレーザーに呑み込まれてどんどんHPが削られてしまった。
『──この武装展開はログアウトするまで使用可能ですが、一日一回しか使用できない禁忌の能力でもあります。使い所に注意しましょう、では貴女の武装展開をここに書き記して教えて下さい。』
イヴに言われるがままに四角い余白をタップしキーボードを画面に出す、そして私の思い描く最強だと思える必殺技を詳しく書き記したのであったのだ。
『──では、これでキャラクター設定は終了です。創造するまでに三日間は掛かりますので、三日後遊べるのを楽しみにして待ってください。』
すると急に画面が暗転しアプリはいつの間にか終わっていた、私は半信半疑のままベッドに寝転びスマホを充電器に差し込む。
──三日後が楽しみだ。
私は魔法少女になって戦える事を楽しみにしながら、そのまま眠りにつくのであったのだった……。
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──魔法少女になりたい女性は待ち遠しい。なりたかった自分、理想の自分、夢見た自分……もう一つの世界に行く人々と同じように自分を想像する、その世界では"もう一人の自分"になって悪者を倒して仲間と共に戦って。そして、この世界が平和になる日を夢見て戦うのだ……そんな日が来ないなんて知らずに。