第2話 検証という名の戦闘訓練
3話目です。
後1話ストックしてます!
「来たぞ、《屍の森》」
「中々物騒な名前だね」
「屍ねぇ。調べた情報によるとアンデットモンスターが多いみたいだけど。俺の《不死者の種》もなんか分かるかな?」
「そうだといいけど…あ、ねぇライ。ここ来る前に《探索》っていう無属性魔法見つけたんだけど使えない?」
「それ、詠唱必要なやつだろ?イメージだけでなんとかやってみるよ」
さて、《探索》は索敵に便利な魔法だ。回りの魔力や、音に反応して大体の場所が分かるようになる。高度な物になると探している物だけをピンポイントに見つけつつ、《探索》に引っ掛かった物のステータスを覗き見できるようになる…らしい。所謂《鑑定》が着くんだとか。
うーん、魔力を薄く広げる感じで、後はレーダーをイメージ。
「《探索》」
おぉ、なんか発動したっぽい?範囲はそこまで広くないけど、回りに動いてるのが居るのは分かる。そういえば魔力の使い方だけど世界に来た時から魔力自体感じてたからすぐ使えるようになった。
「結構色々分かるな。あ、姉ちゃん右前方からなんか出てくるぞ」
「どうする?戦う?」
「そうだな、魔物だったら戦うでいいんじゃない?戦闘経験は必要だろうし。この先、人相手に戦うかもしれない」
「人相手かぁ。日本でぬくぬくしてた私たちにはキツいかもね」
「そうだなぁ。出来れば帰りたいけど俺たちあっちで死んでるからな。方法が合っても帰らない方がいいだろ…っと、出てきたみたいだな」
出てきたそれは一見人に見えた。でも人じゃないことはすぐ分かる。肉がついて無いからな。魔物には必ずある《魔石》と呼ばれる部分が剥き出しになってるな。魔石を破壊すればどんな魔物も倒れるけど…あれ、売れるらしいんだよな。
「そんじゃ初戦闘と行ってみますか。俺のロングソードが唸るぜ!」
「私の杖で殴った方が速いんじゃない?ライ、剣術スキルないし。私、杖術スキルあるし。それに、ステータスをどっからどう見てもライは魔法専門感あるしね」
「うーん、それじゃ魔法で仕留めるか。アンデットは聖属性が弱点!《浄化》!」
「…なにも起きないじゃない」
「あ、あれ?よくイメージしなかったからか?」
次こそ、しっかり死者を天に送るようなイメージで…ってどんな感じだ?ま、いいや。神聖なイメージって言うと白。白で相手を包む感じで…
「《浄化》」
すると、白い光がスケルトンを包む。なんというか…聖って感じ。うん、ちょっと意味わかんないね。とりあえずスケルトンは回りから消えていき、最後には魔石を残すのみとなった。
「無詠唱は玄人向けらしいけどイメージさえしっかりしてれば簡単だな。漫画とかアニメが役にたってる感じ。後は地球の知識もそれなりに使えそう」
「そうね。治癒魔法は医療知識が使えるんじゃない?テレビの知識でどこまでやれるか…ま、こればっかりは慣れてくしかないわね」
その後は少しずつ魔法を試していき、今では下級魔法をかなりの数使えるようになっていた。姉ちゃんは治癒魔法を少し使っただけだったので不満そうだったが…杖術(ただの棒)でスケルトンを破壊していた。
ちなみに今の装備は、身に付けていた売れそうな物を売り払い、ロングソードにローブのような格好をしている。ロングソードは趣味だ。剣が使いたかったから…そんな買い物をしたら姉ちゃんの杖が買えなかったのだが…後悔はしていない!使ってれば《剣術》スキルも手に入るし、絶対!…多分…きっと?
それはまぁ置いといて基本は魔法で戦うので姉弟共にローブを着ている。もちろん安物。やっぱ魔法使いってローブのイメージじゃない?実際ギルドにもローブは結構居た。ということは間違っていないはず。
「そろそろ魔力草見つけられれば良いんだけど」
「それなりに深いところにあるらしいけど…どうなんだろ?」
うーん、暗くなってきたしそろそろ休むべきだろうか。
少し開けた場所を見つけて、薪を集め、火属性魔法で火をつける。ちなみにちょっと火を出すくらいならば適正があれば誰でもできる。火は俺も姉ちゃんも適正があるから。
それにしても魔法ねぇ。これがあるから、科学とかそういう分野が発達しなかったんだろうな。でもまぁ魔法に憧れはあったし。
「姉ちゃんさ、どうすんの?」
さっきはあぁ言ったけどほんとの所はどうなのか聞いてみた。
「どうする…か。正直帰りたい。でも私たちは向こうではもういない人な訳でしょ?諦めてこっちで暮らして行くとするわ。そっちは?」
おぉ。結構さっぱりしてんな。それなりに悩んでると思ったんだけど。ま、うじうじしてるよりは断然いいよな。
「俺もここで暮らして行こうと思ってる。それには力を付けないといけない。この世界では死ってのがかなり身近なんだよな。魔物や戦争、盗賊だって討伐依頼が結構出てた。ま、どっちにしろ暫くは冒険者だ。強くはならなきゃならないだろうけどな」
俺たちは強くならなければならない。生き残る為に。今度こそ守る為に。
「あ、今日だけでLv.19になってる」
「俺も21になってるな。あのスケルトンとかゾンビとかはレベルどんくらいだったんだ?そうなると鑑定スキルとか欲しいよな」
「鑑定って便利そうよね。相手のステータスとか分かれば有利に立ち回れそう」
スキル《鑑定》は取るのが少し大変らしいのだが…ま、時間があれば取るとしよう。
ん?これは…
「姉ちゃん《探索》になんか引っ掛かった。これは…完全に包囲されてる。数は6。どうする?」
「どうする?って倒すしかないでしょ」
すると、人影が出てきた。魔物…じゃないな。こいつら生きてる。
「ヒヒ。こんなところで美味しそうなカモはっけ~ん!」
「男の方は殺すんでいいっすよね?お頭ぁ」
「おっけーおっけー。お前ら逃がすなよぉ?」
「ハイハイ、お頭も心配性だなぁ」
なにこいつら?すっげぇムカつくんだけど。けど人かぁ。俺たちに人が殺せるのか?
「姉ちゃん、殺せる?」
「大丈夫」
そう言った姉ちゃんは少し震えていた。でも、ここで殺らなきゃ殺られる。逃げ場はない。6人を相手にして全員を殺さないで捕らえるのなんて俺たちのレベルじゃ無理だ。
数秒の間お互いに動かない。そして先に動いたのは盗賊の内の一人。太り気味の男でデカイ戦斧を持っている。
「オラァ!」
「チッ」
俺は舌打ちをして降り下ろされた戦斧をロングソードで迎え撃つ。が弾かれる。どうやら筋力ステータスは向こうが上のようだ。
ここは無属性の下級強化魔法を使うときだな。初めてやるから一か八かだ。
「《ブースト》!」
「オラオラオラァ!」
今度は連続で戦斧を受けることに成功。受けるのに精一杯ではあるが…次に姉ちゃんが魔法を発動する。
「《風刃》!」
姉ちゃんの風属性の下級魔法だ。うおっ!危ね!俺にも当たるとこだった!だが範囲が広かったので纏めて3人に傷を与えながら吹き飛ばすことに成功。俺に当たりそうにならなかったら満点だった。
だが前方にしか風は飛ばせない。元から背後にいた奴が剣を振りかぶろうとしている。
「ッ!!」
俺は戦斧男から一気に距離を取り、今度は姉ちゃんの背後の男に切りかかる。攻撃に集中していた男は案外呆気なく俺の攻撃を受け左腕が切れた。
「がぁぁぁ!いてぇ!いてぇ!クソッ!クソッ!」
こいつはとりあえず無力化。後5人。お頭と呼ばれた男はまだ動いていない。実質4人と戦っている。戦斧男はピンピンしてるし、姉ちゃんの魔法で吹き飛ばされた3人も多少動きが鈍ったくらい。優先すべきは戦斧か?接近戦は部が悪いな。ならば魔法だ!
「《火球》」
慌てて戦斧を盾にする戦斧男。だがそれが一発だけなんて誰が言ったのか。俺がイメージしたのは大量の炎球。一つ一つは小さいので消費魔力は普通のファイアーボールと同じくらい。だが今回はこれで仕留めることは考えていないので一発一発は威力は低くていい。
「ハッ!」
俺は顔の前に戦斧をかざしてる男に急速に接近し、ロングソードで横凪ぎにした。結果、戦斧男には、致命傷を与えることに成功。腹が深々と切り裂かれている。肉を切る感触に一瞬吐き気がしたものの、耐えられなくはない。
素早く姉ちゃんの援護に回る。今までは風属性の《風壁》の魔法で凌いで貰っていた。
「姉ちゃん!目を瞑って」
「ん!」
姉ちゃんの横を通りつつ、相手に聞こえないように声を掛ける。
「《閃光》」
目映い光が辺りを覆い尽くす。これは光属性下級魔法だ。ただ強烈な光を出すというだけの効果。目眩ましの魔法だ。
「ぐ、どうなってやがる!」
「ちくしょう!前が見栄ねぇ!」
「ちっ!ふざけっ!?」
「《電撃》」
「《水球》」
一人はロングソードで切り、一人は俺の雷属性下級魔法、そしてもう一人は姉ちゃんの水属性下級魔法で無力化。死んだかはわからんがそれは後だ。
「ちっ!使えねぇ。なんだこいつら?ガキ二人に伸されやがって!」
「あんたが最後だな。覚悟しろよ」
「あぁ、うるせぇ。もういいや、どっちも殺してやるよっ!」
踏み込みは…速い。俺がブーストを使ったくらいのスピードがある。使ってる武器は短剣か。近づかれるとロングソードじゃ対応できないかもな。レベルは確実に向こうが上。だがこっちは二人だ。なんとかなる。
「「《風刃》!」」
二人同時に発動。だが男は止まらない。筋力ステータスも戦斧より高いな。
「《影》」
男が魔法を発動させる。闇属性下級魔法の《影》。暗いところだと視認しづらくなる程度の効果だが、戦闘のせいで薪の火は消えてしまっているため暗い。こうなったら光属性魔法で光を…
プシュッ!
「!?」
速い!左腕をそれなりに深く切られた。利き手じゃなくて良かったな…じゃなくて!こいつ、さっきので本気じゃなかったのか!そろそろ魔力も心もとなくなってきたんだが…ん?そういえばスキル…あ、忘れてたな。
「《感覚共有》」
「おぉなんかスゴい。私も見える」
初めて使ったがこのスキルの効果は味方と視界リンクや念話ができるようになる便利スキルだ。いやぁもっと速く気づけばよかった。
「ライッ!」
いつの間にか後ろに居たみたいだ。けど今は姉ちゃんがの目から俺の周りの情報を得ることによって視角はないのだ!
「ハッ!」
「ガァッ!ちくしょう!」
上手く切れたみたいだ。ちなみに《影》の効果はもう切れている。なので普通に見えているのだ。
「《エンチャント》!」
俺は剣に属性を付与してみることにした。ちなみに《エンチャント》は無属性魔法で付与内容により、消費魔力が変わるので下級や中級などの区切りが無い特別な魔法である。
今回付与したのは無属性の《速》ただ単純に剣速を速くするエンチャント。
「ふっ!」
俺は男の首を跳ねた。うわぁ、我ながらグロい。相手が屑だったからかそこまで罪悪感に悩まされることはないな。不快だけど。
とりあえず一件落着でいいんじゃないだろうか?




