1.始まりの出会い
「なあ、相棒」
そう言って話し掛けてきたのは、ラピスディア=アスールという冒険者を目指している15歳の青髪剣士だ。
『どうしたよ、ラピス』
『暇だから話し相手になってくれよ』
と、言い出した。
ラピスは村から出て長年の夢であった冒険者になるためイディアス王国の地方都市であるサンベリアに向かっているのだが馬車で10日掛かるため、最初の内は景色を眺めて感動していたが今では飽きて俺に話し掛けてきている。
やっぱり飽き性だなこいつ、なんて思ったのが伝わったのか不満そうにしているラピスにしょうがないから付き合うことにした。
『今思い出しても、やっぱり不思議な出会いだったな』
「そうだな」
――――
あれは、今から1年ほど前のことだった。
気づけば俺は漂っていた。水の中ではなく空を。魂だけの状態で。
(どうしてこうなったんだっけ。)
覚えていることはマンガやアニメの事くらいだ。
他の事を思い出そうとすると頭が痛くなってきた。
何とか落ち着いて辺りを見渡すと、森の中で倒れている人を見つけた。それと同時に体(魂だけだけど)が動いていた。どうやら俺はお人好しな人間だったようだ。
そして、倒れている人の元にたどり着いたのはいいけど、何もできないことに気がついた。四苦八苦していると頭の中になにかが流れ込んでくるような感覚に襲われた。
――――
チュンチュンと鳥の鳴き声が聞こえてきた。どうやらもう朝らしい。、銀髪の少女が何か話しているようだ。
「ラピスが無事で良かった。無茶はしないでって言ってるのに一人で森に行くんだもの。危ないからもうしないでね」
「分かったって。にしても俺は森の中で気を失ったんだけど、誰が運んでくれたんだ?」
「あなたが自分で歩いてきたらしいわよ。あんなに傷だらけでよく歩けたなって、最初に見つけた村長がビックリしてたわよ」
「そうなのか、覚えてないな。まあ無事だったし、いいか」
「それじゃ私は村長達に報告してくるから、まだ完全に治ったわけじゃ無いんだから動かないようにね」
そうしているうちに、宿主に存在を気づかれてしまった。
「俺の体に誰かいるのか?」
『それで、なんであんなにボロボロに?』
「ゴブリンに会ったんだ。ギリギリ倒せたけど、村に戻ろうとしたところで気を失ってしまったみたいだな」
『なるほど、それじゃあ俺の言う通り修行してみないか。そうすれば、ゴブリン位簡単に倒せるようになる』
(そうなればいいけど、今は無茶させないようにした方がいいよな。)
「本当か!よろしくな相棒」
修行といっても筋トレや剣の素振りや走り込みなんかが大半だったが、それでも出会った頃よりはかなり強くなっているように感じた。
狩りに関しても、最初の内はゴブリン相手に苦戦していたが、俺がアドバイスをしてるうちに慣れて簡単に狩れるようになってきた。
(魂だけになったことで、観察に集中できるため、観察能力が上がったようだ。)
ただ魂だけになって良かったことだらけというわけでもない。まず会話が出来るのがラピスしかいないのだ。
それと、冒険者に必要なスキル(薬草の見分けやモンスターの住み処を見つける方法など)を、たまに村に来る冒険者達に教えてもらいに行かせたりして、いろんな事を学ばせた。
細かなことが出来るものは重宝されやすいからだ。
それと情報収集するという目的もあった。
そして情報収集をしていくうちに分かったことがあった。
ここが異世界であることが確定したこと、魔法などの概念が有るということ、魔王という厄介な存在がいるということだ。
魔王というのは魔物を統べる者であり、打ち倒すことが出来れば英雄と崇められる程の存在だ。
そして、魔王という名前を聞いた瞬間とても嫌な予感がした。
(思い過ごしなら良いんだが。)