眠れぬ夜には……
どうにも夜は落ち着かない。
俺は夜型というわけでもないがあまり長くは睡眠をとらない。嗜好品も間食もとらない。それらは時間の無駄にしか思えないのだ。俺は粗暴で軽薄だと自覚しているが、先ほどの考えを口にすると意外だと言われる。
夜中に我が武術の『猫パンチ』の演舞をしたり、ただひたすら瞑想にふけることが性分にあっている。思索にふけることもある。
その様をスカリ=サーハに見つかるといつも俺を小バカするスカリさんだが、『早く休むのも修行の一つですよ』などと珍しく優しい言葉くれる。見た目がいい女なので少し興奮とういうか素直に喜んでしまう俺がいた。
今、遊戯施設の船にいるがどうにも面白くない。娯楽とは自分で生み出すものだと思っているしハマって飽きて全てを失う気さえした。
俺は武術をしている時が最高だと思っている。もし、映画などで凄いアクションを見せつけられても、そんなもんは俺でもできるわ! と言ってしまう性質である。
「そういえば、子供の頃欲しがって与えられたガヴァダヴァダンの玩具って全部壊してしまったよな……」
深夜に船内から屋外にでて黄昏ながら夜風をあびながら一人、ごちる。
あまり、いい環境の星に育っていなかったために海の匂いというのが苦手だと思っていたがそうでもない。
で、警邏専用のガヴァダヴァダンことGVD、EEAが低空飛行を維持しながら巡回をしている。
ずんぐりむっくりで愛嬌があり飛行形態にならず人型でフルタイム空を泳ぐ優れものだ。まあ、そういうことらしいんだけど。大戦でつかわれている薀蓄ではそうだし。ドラマでもそう演じられた。まあ、実際に今飛んでいるわけだしな。玩具は手で掴んでブンブン振り回して飛ぶ真似事をしただけどな。
で、壊したなコレ。まあ、GVDより俺のほうが強いって粋がって子供のころに買ってもらったGVDの玩具は破壊してしまった。けっして、GVDが嫌いなわけではなく好きだからこそGVDの世界観に張り合いをした俺。何やっているんだが自分でわからん……。
友達のも壊したし、ただの暴れ者になった俺は厄介払いされて、対GVDを対することを有する拳法『猫パンチ』に入門させられる。
名前こそバカだが、やることも馬鹿げていた。しかしながら武術というのは肌にあった。後継者候補にもあがりはしたが師匠が死んでしまい。師匠殺しのライバルの流派『ゴリラキック』とかいうこれまた名がバカなのにやることは超人的な連中と渡り合わなければならない。一回負けたけどね。
しかも、リベンジするにも『ゴリラキック』の門下達と同行という不自然ぶり。俺は単独行動が好きなのにな…。
だが、思索に老けて思うんだが敵はゴリラキック一門か? 確かにソー=アンダーという奴はそうだが、他の主体となっている八聖拳の連中はソー以外に始末されたんだろ? なにか匂うな。問題は師匠の敵ではなくなっているし。裏があるのだろうか……?
「悩み事ですか?」
「?」
声の主は俺より一階上の甲鈑から聞こえた
「あんたは?」
どうやら、女性というよりかは女の子といった感じだ。亜麻色の髪で腰まで届く長い髪を風に漂う。格子に手をかけこちらを見ていた。
「そうですね、私も悩み事ですね」
「いや、俺には悩みはない」
「それはいいことですね。わたしなんか、父にEEAを眺めるだけでも注意されて悩みがいっぱいです」
「GVDが好きなのか?」
「こうやって、夜の海に写る星々を見るのも好きですが夜景のGVDが働く姿を見るのもなんだか好きなのですよ」
「変わっているな。女の子だろ?」
「男に見えますか?」
「いいや」
「フフフ。まともに返してくれましたね。ヴィヴァルディさん」
「俺を知って近づいたということか?」
「そうですね。父の同志さんのようですから」
「アシア=ロンテさんの娘か」
「そういうことです。それでして、お願いがあるのですが……」
「なんだ? 面倒事か?」
「いえ、ヴィヴァルディさんと手合わせをしたいと思いまして」
「あまり、目立つことはするなと言われているだろ? でも、いいぜ」
「うれしい」
なんだ、この娘はじゃじゃ馬か? まあ、俺としても体を動かさないと落ち着かない気分だしな。アシア=ロンテの娘なら、たとえ女でも武術の心得はあるのだろう。佇まいに無駄がなさそうにみえる。
「では」
女の子は自身のファーストネームは名乗らずにしてこちらに飛び降りる。そのまま蹴りを繰り出してくる。
せっかちだな。ほどよく楽しめればいいが……。




