表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

九番星

「晴香、進歩の握っていた紙にはこう書いてあった。

『星へ、

 これを読んでいる時、多分僕は生きてはいないと思う。

 それで悪いんだけど星にはこの家からできるだけ離れて欲しい。

 僕の父である渡部進一は君を狙っている。

 騙すようだけど僕は星がこの家にいる間、色々調べさせてもらったよ。

 そして君から検出された血液を調べていたら君は人間じゃないらしい。

 それで国が動き出したんだ。

 だからこれは僕からの警告だ。

 星、逃げてくれ。

 詳しいことは僕も知らない。

 ごめん、星』

 だそうだ」

「じゃ、じゃあ、ここはもう危ないんじゃ?」

「ああ、そうだろうな。でも俺が人間じゃないか」

 晴香は驚愕の表情を浮かべ、恐怖に染められた瞳で星を見つめていた。

「それで、晴香はどうする?」

「…………………」

「晴香?」

 晴香の肩はびくりと震え、震える目で星を見上げていた。そう、それは怪物でも見るかのような目で。

 その視線が伝える意味、それを星は直感的に理解した。

「そうか、晴香、悪いけど、お別れだな」

「えっ……?」

「晴香の傍に俺はいれない。だから晴香は警察に保護されてくれ」

 しばらくの沈黙。晴香の体の震えが治まり、決意を宿した眼光を星に向けた。その瞳は碧く、紅く輝いていた。

 そして星はその瞳から危機を感じた。

「ごめんね、星くん。少しの間だったけど楽しかったよ。私が高校生でいれた最後の日だったから」

 晴香の目には恐れも迷いもなかった。ただ遠くを見つめるかのように星を直視していた。

「くっ……」

 星は腰を低くして、目の前にいる晴香を睨みつけた。

「そんな顔しないで星くん。感謝してるんだから。本当に。だから、私の為に死んで」

 晴香は自分の鞄の中から一丁の拳銃を取り出し、星に銃口を定めた。

「じゃあね、星くん。私とこの国のために死んで」

 乾いた銃声が主人亡き家の二階で響き、続くように星の部屋の窓が砕け散った。

 解き放たれた銃弾は罪無き青空へと吸い込まれていった。


 星の部屋では硝煙を上げる拳銃を握る晴香の顔は驚愕の表情で染められていた。

 なぜなら晴香の目の前から星の姿は消えていたのだ。

「くっ……!!」

 晴香は部屋の中を見回そうとして首を回したが、すでに晴香の背後には星が立っていた。

「すまない、晴香」

 星は晴香の首筋に自らの爪をつきたて横に一気に引き寄せた。

 晴香の首筋からは鮮血が迸り、晴香は無言で床に崩れ落ちた。

 間欠泉のように血が溢れ出す晴香を見下ろす星の目に感情の揺れというものはなく、いつになく沈着冷静であった。

 星は晴香が手に持つ拳銃を取り、制服のポケットの中にしまい部屋を出た。

 星は進歩の家から出てそのまま大山の方へと歩を進めた。

 星が無表情のまま歩いていると後ろの方からパトカーのサイレン音が聞こえてきたが星は慌てもせずに歩調を緩めることなく歩いた。

 パトカーが星に追いつき、

「渡部星、止まれ。直ちに止まれ」

星は窓から覗く警官の顔を一瞥し、慣れない手つきで拳銃を取り出し、警官の眉間の間を撃ち抜いた。

乾いた銃声が住宅街に響いた。

星は硝煙を上げる拳銃を即死した警官のパトカーの中に放り投げ、その場をあとにした。


それから約一時間後、星は大山の中腹地点で天を仰いでいた。

その地点は星が鵺と別れた場所であった。

星は地に跪き、地面の土を手に取り呟いた。

「母さん……、いや鵺よ。俺は短かったけど人間に触れ合えたぜ」

 手中の土を星は固く握り放した。

「でも、やっぱり俺には理解できなかったよ。いや、本能で理解したからこそ否定したいのかもしれないな」

 星の固めた土は地面に塊となって落ち、

「人間は弱い生き物だってことがわかった。それは儚くて、小さくて、弱くて、薄かった。それを知能という武器で覆っているんだな」

 星は片膝を立て、立ち上がった。

「そして人間は恐ろしい……。晴香…………」

 星の瞳からは一筋の涙が頬を伝い地面に落ちた。

 そしてゆっくりと目を瞑り、決意のこもった目で夜空を見上げた。

「俺はやっぱりここの方がいいよ。ここで生きるさ」

 星は自分の制服の一糸全てを脱ぎ捨て、山の中へと疾走した。星の顔には歓喜とは違った笑みを浮かべ山の奥の山地へと疾走した。


 大山ではその後、一人の男子の制服一式が見つかったが持ち主は見つかることは無く、登山者からは時折、全裸の少年を見かけるという情報がささやかな話題としてあがるのみであった。



 夜空に無数の星が存在するように、地球にも無数の人間が存在する。

 無数とは無限ではなく、かといって絶対ではない。

 無数とは人が、己が把握できる限界のことだから……。



ありがとうございました。ここで「星が輝くその日まで……」を終わらせていただきます。

もし、この小説のアナザーストーリーをご期待する読者の方がいらっしゃいましたらお教えください。

私自身も書いてみたいと思いますので。

感想、評価をお待ちしております。

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ