七番星
ここの学校は特殊な造りで玄関先と教師達が随時監視しているところ以外の出口はすべて閉ざされているのだ。
しかし幸の提案した体育館だけは違っていた。
普段はそこからも抜け出せる戸口はないのだが、幸と秀はサボりの常習犯なのでいくつか秘密の抜け道を知っているのであった。
五人は全員揃って体育館の倉庫室に入り、幸と秀はなぜか使われていない大玉の後ろに手を伸ばしてカチッという音がした。
「さ、一人ずつ、まずは女子だな。この隙間から出てくれ」
秀はまず晴香の手を引き、開いた床窓まで導いた。
床窓は小さいといっても人一人は余裕で抜けることのできる隙間であった。
美紀も晴香の後に続き、星と幸が出て、秀は慣れた手つきで床窓から出て窓を閉めた。
五人は体育館の裏側の外に出ており、そこは草木が生い茂り、丁度陰になっていて他の人からは見えないようになっていた。
五人はなるべく自然を装いながら草木の陰から出て、そのまま校門まで向かった。
不審がられずに無事学校内から出られた五人はそのままカラオケ屋へと歩いた。
五人は道中、談笑しあいながら仲の言い友達同士としか言葉が出てこないほどまで絵に描いたようであった。
カラオケ屋というものに始めて踏み込む星は一人だけ緊張気味であった。
秀はカウンターで代金を払い、カラオケ屋の店員に連れられ一つの部屋の前に案内された。
カラオケ屋の店内は質素ではあるが、一旦部屋に入ると世界が変わったかのように煌びやかになる。
いきなりの変化に戸惑ったのか星は目をパチクリしながら部屋と廊下の境界線で立ち止まり、交互に対する色の変化を見比べ、頭を斜めに傾けながら部屋に入った。
「なあ晴香」
「ん、なに?」
「カラオケってのはこんなに眩しいというのか見難いものなのか?」
「え?これが普通なんだけど……。星くんはまだ慣れてないだけだよ」
「そ、そうか。ならいいんだが。ところでカラオケってなんなんだ?」
星がそう尋ねたとき、秀はマイクを片手に腕を振り上げ、
「俺、いっちばーん!」
「あ、ずるいぞ秀。俺も歌うっ」
幸もマイクを手に取り、カラオケ用のモニターを覗き込みながらこれだあれだと言い争いながらやっと決まったのか二人がモニターから離れ、それぞれにマイクを口元まで運んだ。
「EX○LEでPu○e、行くぜっ!」
室内は今流行りの歌のメロディーで埋め尽くされ、秀と幸が交互に歌詞を歌い、晴香と美紀はそれぞれに掛け声を掛け合い、二人を盛り上げた。
一人星だけは、未だに取り残されたかのように呆然と歌っている二人を見ていた。
星は晴香の制服の裾を軽く引っ張り、
「なあ、カラオケって歌うことなのか?こんな場所で?」
「こういった所で歌うからカラオケって言うんだよ。あの機械にはたくさんの音楽が入ってて、歌詞は入ってないんだけど、そのない歌詞の部分を私達が歌って楽しむところなんだよ」
「そうなのか、楽しそうだな」
「うん」
秀と幸は熱唱し終わったのか、軽く汗を掻きながら二人に設置されているモニター画面を振り返った。
モニターには数字が示され、言葉を発した。
『87点。案外歌えますね』
「「なっ!?」」
歌っていたときは同調することのなかった二人が同時に声をあげた。
「なんだよこれっ?俺達に意見しようってのか?機械の癖に?」
秀は眉間にしわを寄せながらモニター向かって怒鳴った。
一方の幸は、
「いやー、87点か。自己ベストだ。俺も案外歌えるんだな」
「勝手に納得するなーっ!」
秀の投げたマイクは幸のこめかみに直撃。幸はそのまま横に倒れ、室内のソファの上に落ちた。しかも丁度美紀の膝の上に。
秀は自分の仕出かしたことに気が付いたのか、
「わりい幸。だ、大丈夫か?」
幸は美紀の膝の上に埋もれながら、左腕を宙に上げ、親指を立て、他の指を固く閉じ、いわゆるグッジョブのサインをした。
美紀は自分の膝の上にある幸の頭を優しく撫でながら、「大丈夫、痛くない?」と囁きかけていた。
秀は幸の思考を読み取り、無性に腹立たしくなったのか
「あー、いらつくっ!ほら、星、次お前が歌え」
秀は幸の傍に転がる、自分の投げたマイクを拾い、星の胸に押し付けた。
「ん?俺が歌うのか?」
「ああ、そうだよ。お前どんな歌知ってるんだ?」
「んー。そういえば進歩がよかったら聞いてみたらっていってた曲があったな」
「おっ、どんなんだ?」
「たしか、平○堅の哀歌(エレ○―)だったな」
「あっ、私も好きな曲だ。一緒に歌わない?」
晴香は目を輝かせながら星を見つめたが、
「いや、一回、カラオケって言うものを俺に味合わせてくれないか?頼む」
「うん……わかった。頑張って!」
「おうっ」
星は秀に曲を選んでもらい、エントロを聞きながらマイクを口元に寄せ、歌いだした。
いちゃついていた幸と美紀、隣に立つ秀は勿論のこと晴香も目を見開き、口をぽかんと開いたまま星に見入っていた。
曲も大詰めを向かえ、星の軽快ながらも重みのある声は最後に室内を包み込み、心地よい余韻を残した。
曲が終わった後も皆は口を開こうとせず、星はマイクを降ろし、皆を見回していた。
「どうしたんだ、お前ら?」
すると星の後ろに設置されたモニターが光った。
『おめでとうございまーす!彼方の歌声感動しました!120点!』
「おぉ、これってすごいのか?」
星はモニター指さしながら隣にいた秀に聞いた。
「星、お前、すごいな……」
幸はすでに美紀の膝元から起き上がり、美紀も今は幸ではなく星を見つめていた。
「すっごーい……」
美紀は軽く手を叩きながら言った。
「すごい、すごいよ、星くんっ!」
晴香は座っていられず星に駆け寄ったがそのままテーブルの角に足をぶつけよろけた。
「うわっ……!」
星は晴香の傍まで動き、晴香を腕に受け止めた。
「大丈夫か、晴香?」
「う、うん……。ありがと……」
晴香は顔を赤らめながら星の腕の中で俯いた。
「なんなんだ、幸も星も良い思いしやがってー!!」
秀の虚しい雄叫びが室内に響いたが、誰の耳にも入ってはいなかった。




