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五番星

 星はまず最初に自分のクラスに入りまだ結構クラスに残っている生徒達に向かって、

「おい、皆聞いてくれ。俺はなんでも屋という部活に入ることにした。それで今宣伝に来てる。とにかくこの紙を取ってくれ」

 といい、各生徒達に十枚ずつ紙を渡した。

「そこで、君達にも俺の部活の宣伝を頼みたい。全部配れたものには部長の鳥山秀からゼリーがもらえるそうだ」

 なぜだかクラスの男子達はやる気を出し一目散に宣伝に行き女子たちは少しでも星の気をひかせるためにいち早くプリントを配り終えようとまたまたやる気を出し出て行った。晴香と美紀だけがクラスに残っていた。

「いいの星くん?自分の仕事他人に任せて」

「秀の言うにはとにかく一番早く渡し終えたものの勝ちだといっていた。なので問題ないだろ」

「うーん、い、いいのかな、それで……?」

 聞いた晴香の方も言い返す言葉がなくなり困り果てていた。

「ねえ渡部君、渡部君はなんで今頃になって転向してきたの?」

 美紀が尋ねた。

「あ、私もそれ聞きたい」

 晴香は美紀のほうにありがとうと視線だけで伝え、窮地を脱した

「ん?ああ、それはだな・・・」

『やばい、こう聞かれたとき進歩からどう答えれば聞いておいたはずなのに忘れた・・・。ええい、こうなれば……』

「俺は母さんが死んだから山を下りたらある人間に拾われた。それでその人の家に厄介になってるんだ」

 ふぅ、と星は心の中では安堵したが聞いていた二人にはどうにも不可解なことが星の裏側にはあると理解した。

「へぇ、そうだったんだ。悲しいねお母さんが亡くなって」

「いや、そうでもない」

 星のなんの躊躇無しの回答にますます二人は星に興味を抱いた。それは異性としてではなく人間として引かれたのだ。二人とも、

『この人には絶対何かあるっ!』

 そう確信していた。

するとぞろぞろとクラスメートが帰ってきた。その手には一枚のプリントを逃さずに。

「皆ありがとう。それではこのただ券を一番早く帰ってきた君に上げよう。貴重なものらしいからちゃんと使え」

 といって星は秀からもらった貴重なただ券を女子生徒に手渡してクラスを出て、部室へと向かっていった。

 星はなんでも屋と書かれる部室の前で立ち止まって十分ほど壁に背を預けながら待った。

 薄目を開き窓の外の静寂な青空を見上げていると昔、といっても一ヶ月も足ってない山で見ていた青空となんら変わりのないことに少しだが感情が揺らいだ。

 青く澄み渡る空を見上げていると星は安らぎとともに焦燥感を感じるが、定まらず、その繰り返しが行われた。

 そうしていると両の廊下から最初のときと同様に見えもしない砂埃をあげた秀と幸が戻ってきた。

 二人とも星の両脇で両手を膝に置き激しく肩で息をしていた。

「ぜぇーぜぇー、な、なんで星が、ここに……」

「はぁーはぁー、一体どうやって……」

「ん?結構遅かったな二人とも」

 星は重い瞼を開き、軽く欠伸をした。

「というわけで学校終わったらゼリーよろしく」

「く、くそ……」

「してやられたな秀」

「お前も払うに決まってんだろ」

「え……?」

「お前も負けたんだからお前からも奢ってもらう」

「そ、そりゃねぇぜ星」

 星はまだ息の荒い二人を置いてなんでも屋の部室に入った。先と変わらず殺風景な部室はいまだに何もなかった。

「それで幸と秀。これからどうすんだ?」

「なにって、とりあえず先ずは授業だな。後は放課後だな。それまではこのままだな」

「そうか。つまらんな」

「そういうなって。それで秀、書類の方も放課後か?」

「ああ、それはもう書き終わったから放課後出してくる」

「そっか」

 三人は部室の中で窓の外を眺めながら会話していたが。三人の頭上に授業開始を伝えるベルが校内に鳴り響いた。

「それじゃ行くか」

 秀は幸と星を連れ添いながら教室まで戻った。

 全員は席に着き、遅れて入ってきた三人に視線を向けたが、いつもそれが普通なのだろう、クラスの面々は幸と秀から目を逸らしながらも星の姿を星が席に座るまで凝視していた。

 星は不思議に想いながらも自分の席に着き、講師が現れるまで待ったがいつまでたっても教師は一向に姿を現さなかった。

 すると海星晴香が立ち上がった。

「えーっと、先生が十分経っても来ないので校則通り自習にします。それじゃ私は先生を呼んできますけど星くん一緒に来てくれる?」

「ん?ああ」

 星は腰を上げ、晴香の後に続いて教室から出た。

 教室を出る際、星は美紀が黒板に自習とチョークで書いているのを横目で捉えた。


「なあ晴香」

「なに、星くん?」

「なんで俺を連れ出したんだ?」

「うん。星くんにはちょっと校則の方も覚えてもらおうと思って」

「ん?昨日もう読んだ」

「でも守ってないし……」

 晴香は語尾を少し濁したが、星ははっきりと晴香の言っていたことを聞き取っていた。

「俺の何が校則に違反してるんだ?」

「授業には遅れるし、部活動を他の生徒に形的には押し付けてたし」

「授業に遅れたのは幸と秀に絡まれてたせいで、あれは押し付けじゃなくて協力してもらってただけだ」

 星はさもありげな理由で晴香の言い分を押さえつけた。

「うっ……」

「それに晴香だって校則を破ってるぞ」

「え、なんで?」

「昨日読んだ書類によるとこの学校の校則にはクラス委員以外の生徒が教師がいない時にクラスの主導権を握ってはならないってのがあった。俺達のクラスでクラス委員は美紀のはずだろ?」

「いや、だってあれは美紀に頼まれて……」

「晴香が言い訳するってことは俺の言い分も通るよな」

「う……」

 晴香は職員室に向かうまでずっと床を見つめたままで、顔は薄ら朱色に染まっていた。

「ま、それで本当の理由は?」

 星は本当になにもかもお見通しだったのであろう、晴香に問いかけた。

「えっ、な、なんのこと?」

「晴香の行動からして俺に今さら校則について話すことなんてないしな。それで俺を呼び出した理由はなんだ?」

 星は晴香を廊下の壁に押し寄せ、体が密着するほど近づけ星は一直線に晴香の瞳を見ていた。

 晴香は顔をますます紅潮させ、緊張と動揺が晴香の心臓の鼓動を激しく鳴らしていた。

「えっとね、星くん、私と付け合ってくれない……?」

「ん?付き合うのか、どこにいくんだ?」

「その付き合いじゃなくて……、ほらカノカレ関係みたいな」

「カノカレ?」

「彼女彼氏だよ。相思相愛の関係の。私星くんに一目惚れしちゃって、星くんに私の彼氏になって欲しいなーって。駄目かな?」

「ん……。考えさせてくれ。明日中には答えを出す」

「それは私のことは考えなきゃ答えられないほどの女ってことかな?」

「いや、俺も晴香はいい女と思ってる。俺も晴香に会ったときは感情が高ぶった。でも、これがほんとに恋なのか愛なのか分からないんだよ。それを今日考えてみたいんだ」

「そっか。うん、わかったよ」

「でも晴香は外見だけで付き合いたい男を選ぶのか?」

「えっ?ううん、違うよ。星くんは昔の私の命の恩人に似てるんだ」

「命の恩人?」

「うん、私がまだ小学生の時に大山で迷子になったことがあったの。その時、まだ誰にも話したことがなかったけど、おっきな虎みたいな熊みたいな動物がいたんだ。私怖くなっちゃって怯えてその場から逃げ出したんだけど、ますます森の中に迷い込んじゃったんだ。そこで幹のひとつに躓いちゃって膝を擦りむいたんだ……」

 星と晴香は歩みを止め、廊下沿いの窓を開けて晴香は空を見上げながら窓淵に両肘を置いた。

 星は制服のポケットに両手を突っこんで晴香の話を何気なく聞いている振りをしていた。だが頭の中ではある昔の記憶が掘り返され始めていた。

「その時はお昼だったんだけどすぐ夜になっちゃって、私泣いてたんだけど、目の前に一人の男の子が現れたの」

「……!」

「その子はね、泥だらけで裸だったんだけど夜だったからよくわからなかったな。でもその子は優しそうな、でも悲しそうな目で私に手を差し延べてくれたの」

 晴香は窓から身を少し乗り出しながら澄んだ空を見つめていた。

「私はその子に手を引っ張られながら山の麓のコテージが見える所まで案内してくれたの。私、その子が去っちゃう前に名前を聞いたの。そしたら男の子は夜空を見上げて満天の星に向けて指差したの」

「それでそいつはどうしたんだ?」

「そのまま行っちゃった」

「そうか……」

「ね?なんか星くんに似てない?もうその子に会うこともなくなったんだけどね」

「そうか……」

「どうしたの?星くん?」

 晴香は自らの秘密を曝け出したのに気分がほっとしたのか、少し明るく笑いながら星に問いかけたが、星は神妙な表情を浮かべていた。



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