二番星
「星君、星君、ほら起きなって。もう終わったから僕のうちに行こう」
と、進歩に揺さぶられ星は起きた。
「あ、ああ、わかった。ふぁ〜あ、よし、気合入れていくか」
と、星は張り切っておきた。
「いや、何もそこまで気合入れなくてもただ僕のうちに行くだけなんだから。はは、ま、気を楽にしていいから。それじゃ、行こうか。それでは先輩お先に失礼します」
進歩は敬礼をして交番から出た。その後を星はついていった。
「なあ、さっきの人間はどこから来たんだ?俺が寝る前まではいなかったはずだが」星はたずねた。
「あ、ああ僕の先輩で今日はぼくは朝から昼間でで、先輩が昼から夜までの当番なんだ。あんまり年の差はないけど先輩のほうが僕より三年ぐらい先に警官になったんだ」
そうこう話をしているうちに星は進歩が人間の年で言うと21位で、大学といったところを出た後警官というものになったそうだ。進歩は星よりちょっと背が高いぐらいで約170cm前後、肌はちょっと黒く筋肉も適度についている。腕っ節はかなり強そうだ。顔は癒し系の顔だがにんまりした瞳の奥には熱く燃えたぎる信念が垣間見える。
一方の星は進歩より少し背が低めの167cm位で中肉中背、体中に生々しい傷跡が見えてもそれが逆に星の男前差を際立てていた。顔立ちは引き締まっていて丹精に整っている。目は野生を感じさせるように鋭く、鼻も凛々しいのだが、髭を一度もそったことがなかったのだろう、16のわりには少し濃く長く、髪は言うまでもなく長くてぼさぼさであった。
かくして三十分ほどたったころ二人は進歩の家にたどり着いた。進歩の家は周りの家に比べ一回り大きく、少し物々しかった。かなりのセキュリティが設置されているのだろう、音声認証、指紋認証までもがあり、家に入るまでに四つもの装置をくぐらなければならなかった。
「ああ、ごめんね、最近物騒だし、警官のうちに泥棒が入られたなんて知られたらいい笑いものだからね。ま、また後でゆっくり話すよ。今はとりあえず中に入って。悪いけど靴はとって入ってね」
「ああ、わかった。しかし、この人間のいる洞窟みたいなものは家と言うのか?」
星はたずねた。
「ああ、うん。そうなんだ、これぐらいの大きさの建物は家って言って、もっと高い建物はビルやタワーって言われたりしてるよ。建物って言うのは人が住むために作ったもので、木やさっき歩いてきた地面に敷き詰められたコンクリートや土や鉄、トタン板。間、ほかにもたくさんあるけどこれらが結構一般的な家の材料かな。ま、山の中で言うと星の言ったとおり、洞窟や巣。雨をしのいだり、寒さをしのいだりするような場所だよ」
「ああ、なるほど。なら、あんなにたくさんあった家には人間が中にいるのか。しかし、すごいな、木からこんなにでっかい巣を作ることができるのか。しかし、やっぱりここの中にもいろいろなものがあるな。わからないことだらけだ」星は驚きを隠せずに言った。
「ははは、そうかい。まあ、僕から見てみればこの光景が自然なんだけどね。心配しなくてもいいよ星そのうちわかってくるさ。何背、山で十年近く暮らしていたんだから。じゃあ、まずは身の回りのものから教えていこう。もう一回そこの椅子に座ってくれないか」
「あ、ああ。よろしく頼む」
星はたじたじしながらも今度はソファに腰をかけた。
それから約4時間もの間、進歩はなるべく簡単に星に一般的な法律や生活に必要な基礎知識を教えた。そして、テレビ、エアコン、冷蔵庫、電灯、など家庭用電気家具についても一通り使い方や扱い方の説明をした。星は興味津々に進歩の一言一言に耳を傾け必死に記憶した。話が終わるともう、だいぶ外が暗くなり始めてきていた。そこで、進歩は電気をつけに立ち上がり壁についてあるスイッチを押した。すると、まばゆいばかりの暖かい光を家中に照らした。
「うわっ!まぶしい、これが、電気か。うーん、不思議でならない。太陽も出ていないのにどうしてこんなに明るいんだ。人間はすごいな」
星は感心してしばらくの間電灯を見上げ続けぶつぶつと呟いていた。
「さあ、それじゃ星君、そろそろご飯にしようか。何が食べたい?」
「え、いいのか。俺の食べたいものを言っても?」
「あ、ああ、いいよ。何でも好きなものを言って」
「ああ、それじゃ、おれは猪が食べたいな。生きたままくれないか。少し体も動かしたいしな。」
「え、猪?しかも生で?いやーさすがにそれは。そっか、星君はそんな暮らししてきたんだったよね。それじゃ悪いけど今日は僕の作るご飯で我慢してよ」
「え、飯を作るのか?捕りに行くんじゃないのか?」
「い、いや。僕たち人間は毎日ご飯を作って日に三度食べているんだ。朝、昼、夜に分けてね。星君もそうだったんじゃないの?」
「いや、俺は腹が減ったときに好きなだけ食べた。だが、作るご飯は一回食べてみたい」
「ああ、わかったよ。まあ、座って待っててよ。すぐにおいしいご飯を料理するから」
そしてかれこれ三十分とたたないうちに晩飯の用意は整っていた。
「な、なんだこれは?いい匂いだがこんな食べ物見たことがない。これは一体何なんだ?」
「ああ、これはステーキっていうんだ。簡単に言えばステーキは牛の肉を切って大蒜や油で焼くんだ。それとステーキの横についてるのがジャガイモと人参。それと、スパッゲッティミートソースだよ。それと、これがご飯、白米でこっちがコーンスープだよ。コーンスープはうーんなんていったらいいのかな外国の味噌汁みたいなものかな。熱いから気をつけて飲んでね」進歩はなるべくわかりやすく星に教えた。
「うーん、不思議な飯だな。それに何で全部平べったい石のようなものに乗っているんだ?」
「ああ、これは皿といって土や石を形にして高温で焼くんだよ。それでできるのが皿。人間はお皿に食べるものをおいてから食べるんだよ。それは、食べるものが汚れないし健康にいいからだよ。たぶん星君はしとめた兎とか鹿をその場で食べていたんだろうけど、僕たちはみんな皿の上にご飯をのせてから食べるんだ。これも一種の僕たちの食べ方。それと箸、フォーク、ナイフやスプーンを使って食べるんだよ手のかわりとしてね」
「そうなのか・・・。じゃ、おれもその箸とかフォークといったもので食べたほうがいいんだな?」
「ああ、うん。悪いけどそうしてもらえるかな。今日のご飯のメニューはさっき言った一般的な食べ方をすべて練習できるような食べ物だから」
「そ、そうか。進歩はいろいろ考えてから行動するんだな。俺とはえらい違いだ。それじゃ、教えてくれ」
「ああ、いいよ。この横向きに並んでいる二つ一組の木から作られた棒が箸。たぶん、これに慣れるまでは結構かかるだろうけどね。他のはみんな銀色をしていてスプーンが先が丸くて、フォークはさきが三つか四つに分かれている、そしてナイフはひとつの側がぎざぎざで切れやすくなってる。じゃ、まずはナイフとフォークを使ってステーキをきってみようか」
「ああ、わかった。よし、じゃ、食べるとするか。う、うう、これは難しいぞ。く、くそ切れない……。うわーめんどくせー!もうこのまま食っていいか?」
星は自分の歯を食いしばりながら進歩に乞うた。
「だめ、だめ。そんなことしたら意味ないよ。ほら、フォークで肉を固定して、ナイフでゆっくり前後に動かせば切れるからさ。そして、一口サイズに切れたらフォークで肉をとって口に運ぶ。」
「わ、わかった。よーし……おっ、切れたぞ!」
「そうそう、その調子だよ星君」
「あむっ……。う、うまい……!生で食うより格段にうまいぞ。不思議な食べ物だ。こんなうまいもんを食べれるんだったら、食べ終わる前までに人間の食べ方を制覇してやる」
「その意気だよ。」
そして、かれこれ一時間もの間星は悪戦苦闘しながらも徐々に上達してきて、なんと箸でも人並みに使えるようになっていた。これに驚いた進歩は。
『すごいな星君は。ほんとに、十年も一人で山の中で暮らしてきたのかな?それとも、徐々に記憶が戻ってきてるのかも。ああ、そうだ、父さんにこのことをお話しなければ。星君をうちの養子に迎え入れてもらうようにしなきゃ』
「凄いね、星君。もうこれで食べるときのマナーは大丈夫だね。それじゃ、お風呂にしよっか。ああ、風呂って言うのは、たぶん星君もたまにするとは思うけど水浴びみたいなものかな。けど、たいていの人間は熱い水を湯船にためてそこに浸かって体の汚れを落とすんだよ」
「ああ、水浴びか。それならもう一週間ぐらいしてないな。だが、なぜ熱い水で水浴びをするんだ?」
「うーん、それは僕たちが冷たい水よりあったかい水のほうが気が落ち着くし、入りやすいからね。星君も温かいほうが寒いときより気持ちちはいいだろ」
「ああ、まあな。それじゃ、また待っとけばいいのか?」
「うん、じゃ、待っててね」
そうして、星は驚きの連続でありながらも何とか、風呂にもドライヤーやシャンプーの使い方も覚え、眠るときに人は葉などを敷くのではなく、代わりにベッドという柔らかいものの上に寝て布団をかけて寝るのだということを知った。それと、驚いたのは、寝るときには服を着替えなければいけないということであった。しかし、星は何とか寝床に着きその日に起きた出来事を整理してみた。
『今日はいろいろあったな……。疲れた……。しかし、人間は進歩みたいに皆優しい生き物なのか?鵺は決してそうではないといっていたからあまりよくわからないけどな。鵺はそれでも人間の世界のことをいろいろと教えてくれたが、聞かされたこととは結構ここのとは違うような気がするな。二百年も違えばこんなにも人間は進化するものなのだろうか?ま、それはそのうちわかってくるだろう。しかし、眠いな……。もう、寝るか。しかし、この布団というのは寝心地が凄くいい……。くかー……』かくして星は深い眠りについた。
そして、進歩は自室で自分の父親、渡部進一と話していた。
「父さん、もう父さんならわかっていると思うけど……」
「ああ、空星の事か。それなら、もうすでに調査が始まっている。養子として我が家に迎えることはまあいいだろう。しかし、そのときは星には渡部の姓を名乗ってもらうぞ」
「うん、わかってるよ父さん。それと、今後から星君を教育したいと思うから一週間ぐらい休むことになるけど、いいかな?」
「ああ、存分にしてやれ。星は将来、有望な人材だからな」
「え、父さん、いまなんて?」
「いや、こっちの話だ。それと書類進行やら記録変換については任せておけ」
「うん、わかったよ。それじゃ、おやすみなさい」
「ああ、ではな」




