ノスタルジックな祭りの文章ください
神神を祀る社で鐘が打ち鳴らされ、疫病と荒天に狂う父祖を鎮める祭礼が始まった。山上にある神社から山のふもとへと、曲がりくねりながら下っていく参道沿いに一斉に火が灯り、夕暮れに翳っていた山が燃え立った。神社の境内に放列を敷く無数の火焔太鼓の前には、山神の化身とも見紛う男女が堵列した。かれらが鬼の形相で演奏を始めると、雷鳴にも似た脅迫的な音渦が起こり、やがて招かれた神格たちが姿を現した。
祭礼の輪から抜け出して表参道の方へと歩いていた少年の耳にも、その単純ゆえに狂気を感じさせる音がいつまでも絡みついていた。いつのまにか青年とも見える年齢になった少年の顔は夏の暑熱と群衆の体温で薄く紅潮し、それを森から来た涼しい風が撫でた。一緒にいた友人たちはどこにいったのかと、人いきれする周囲を見渡して探すうちに、石畳の参道は山腹に張り付く羊腸たる坂へと姿を変えた。
ここから眼下へと視線を送ると、つづら折りになった参道が煌々と照らされるなかを、肩先を掠めあいながらすれ違う参詣人たちの影が見える。ある影は上を、ある影は下を目指して動き、また別の多くの影は、参道沿いに屋台を構えた露店の前にたむろしている。どの露店も常からして広くはない道を塞がないように、空中に仮設された足場や樹木の盤根の上に設置され、それが色鮮やかな電飾を搭載して輝いているのが眩しい。蠢爾としてうごめく影の群れから光のもとへ無数の手が差し出され、購った品々を掴み取っていく光景がそこここで浮かび上がり、少年の目に橙の染みを付ける。落下防止の欄干に括りつけられた色とりどりの水風船が電飾の光を受けて発光し、その中で赤い金魚が揺蕩っている。水風船を透かした彼方に、地平線まで水田の稲穂が広がっているのが、少年の目にはレンズを通したように拡大される。
坂の上で躊躇するように留まっていた少年のかたわらに忍び寄った、まだあどけなさののこる少女が、持っていた紙の団扇で少年の視界を閉ざした。不意の暗闇の中、目に焼け付けられた火がちらちらと点滅し、そのまま坂を転落していくような感覚が少年を襲った。足を踏みはずす前に、無意識に動いた手を別の柔らかな手が握って答えた。
坂を下る二人の手と手の下を潜り抜けて、子供たちが神社へと駆けていく。太鼓の音が止み、代わりに青く澄んだ管楽の合奏が始まった。