#81 見る側と見られる側 その13
聡は生徒会室から少し離れた小部屋に向かっていた。
彼がその部屋に到着すると、鍵を開け、電気をつける。
すでに部屋の前で待っていた雄大を招いた。
「どうぞ。ちょっと薬品くさいかもしれないけど入って」
「この部屋は変わらないな」
「そうだね。今はたまにボクが使っている程度だけどね。卒業する前までに吉川くんに引き継ごうかなと思って」
「修クンは解析担当だから使わせてもいいんじゃないのか? あとは入ってくればの話だが、来年度以降の新入生に使わせる手もある。この部屋は余程サイコパスな奴じゃないと管理は難しいだろう」
「あの……」
「ん?」
「ボクや吉川くんはそういうタイプじゃないんだけどな……」
「そう言われてみればそうだな――」
彼らは穏やかに卒業後の話や今後の生徒会役員の話をするが、現時点では聡は本題に入ろうとしていない。
「――で、本題に入るけどいい?」
「聡クン、唐突だな」
「だって、気になるんだもん」
「ちょっとした心理戦にしたかったのに、聡クンに諭されたような感じになってしまったな」
「ボクは達也くんじゃないからね!」
「それくらい知っている!」
「ボクの名前でダジャレになってるし!」
「自ら好んでギャグを作ったわけではない!」
彼のツッコミに雄大は苦笑する。
本題に入りたがっていた聡は現時点では心配する必要はないと思っていたが、心中ではもやもやと気になっていた。
雄大が今、どのような思いでボクと話しているのだろうかと――
「じゃあ、ボクから訊くよ? いい?」
「ああ」
「なんで、高橋くんは難しい顔をしてたの?」
「実は今日の昼休みに修クンに話したんだ」
「ん?」
聡の穏やかな表情は陰を潜め、冷淡な表情を浮かべていた。
以前の鈴奈の時と同じような表情であるが、流石につき合いが長い雄大にとっては彼の表情で怖がったり、怯えたりすることはない。
聡は本気で相手に問い詰める時はそのような表情をすることが多いのだ。
「……この学校の現実の話をな……」
「それ、ついに話しちゃったんだ……」
「本当はまだ話さない方がいいということは分かっている。分かっているのに、話してしまった自分がいるんだ……」
「でも、いずれは吉川くんも知ることになるんだから気にしなくていいんじゃないのかなとボクは思う。ちょっとタイミングが早まっちゃっただけだと思えば、少しだけでも気が楽になるんじゃない?」
「そんなことが言えるのは聡クンだけだよ」
「そうかな?」
「少なくとも俺はそう思う。聡クンみたいなタイプにあともう1人くらい入ってきてほしいところだが、なかなか入ってこないんだよなぁ……」
「できればね……吉川くんは怖い顔さえしなければ大丈夫そうだけど、木崎くんや鈴奈ちゃんがセットで暴走した時の扱いが難しいよね……」
彼は表情を変えずに雄大が悩んでいることに寄り添っている。そんな聡みたいなタイプが最低でもあと1人くらいはほしいところだ。
学年は1年生でも2年生でも構わない。
彼らが卒業したあとの生徒会役員のメンバーではカオスな方向に走ってしまい、収集がつかなくなるのではないかと今から懸念しているのだ。
「って……ボクは心理カウンセラーじゃないからね! 他に何もないなら生徒会室に戻るよ!」
「聡クン、照れてるかい?」
「照れてない!」
「ハイハイ。俺は先に戻るよ」
聡は元の穏やかな表情になり、彼にいつものようにツッコミを入れつつ小部屋の施錠をし、生徒会室に戻った。
†
一方、生徒会室にいる3人はツッコミ係の聡が不在のため、大人しく修のモニタリングをしていた。
「そういえば、あの二人はどこまで行ったんだ?」
達也がすっとぼけたような声で鈴奈に話しかける。
「例の部屋じゃないですか? 木沢先輩のことですから」
「それはあり得るな」
「今、思ったのですが……「たまには2人でゆっくり話してこい」って言ってたのは達也先輩じゃないですか?」
「あれ? そうだっけ?」
「私は確実に聞いていたので、間違いないです」
彼の問いかけに彼女は素っ気なく返した。
政則が時計をチラッと見ると、5限目の終了時刻が近づいている。
「早くしないと5限目が終わってしまいますよね……」
「そうですよね」
「この時間はあまり面白くなかったなぁ……」
「あの二人がいなかったからじゃないですか?」
「確かに言えてるが……」
達也が話している間に生徒会室のドアが勢いよく開いた。
「ごめん! 聡クンと話してたら遅くなった!」
「オイ! 遅かったぞ! 木沢は?」
「聡クンはあとからくる」
「二人がいなかったので、つまらなかったんですから!」
「そうですよ!」
雄大が戻ってきたと同時にそこに残っていた3人が口々に呟く。
彼は「さて、気を取り直して修クンのモニタリングに入ろうではないか!」とどこか楽しそうに言った。
2026/02/27 本投稿




