閑話 彼の異変は彼女の異変となる
「あと半日か……」
教室に着いた修はボソッと呟いた。
半日といっても午後の授業は5限目と6限目しかない。
彼の1日密着モニタリングがあと2限で終了しようとしているのだ。
「吉川くん。今日はいつもよりぐったりしてない?」
授業前で騒がしくなっている中で麻耶が修に声をかける。
彼は彼女に泣きつくように「菅沼さーん!」とすがりついてきた。
「うわっ!? 今日はやけに変だぞ!?」
「変じゃない。僕はおかしくなったわけじゃない!」
「見るからにおかしいし……」
麻耶は自分の勘が当たったのか、修を廊下に連れ出す。
明らかに彼の様子がおかしいと彼女はすでに察していた。
「ちょっと、何があったの? もう授業が始まるよ」
「菅沼さん。僕……」
「2人とも教室に入りなさい。そろそろ、授業を始めますよ」
「ハイ」
「すみません」
5限目の数学を担当する須藤が彼らを教室に入るよう促した。
麻耶はメモ帳を取り出し、窓ガラスを台にしてカリカリとペンで何かを書いている。
ビリッとメモ帳から書き込んだページが破かれ、彼の手に渡された。
「これ、あたしの電話番号とメールアドレス。あとで時間がある時でもいいから登録しておいて。題名に名前入れて送ってくれればいいから。何かあったらメ、メール、送って!」
「あ、ありがとう……」
気まずい状態になった2人は須藤から遅れて教室に入った。
†
授業が始まり、課題の問題集の答え合わせが行われている。
問題集には直接答えを書き込めないため、問題集用のノートを各自で準備してもらい、そこに問題と回答を書き込んでいるようだ。
須藤は解説を交えながら「ここはテストに出題されやすいので、確実に解けるようにしましょう」と生徒達に指示していた。
修の問題集用のノートにも回答が間違えていたので、きちんと板書し、『テスト出やすい』と赤ペンで書き込む。
「――――じゃあ、この問題は……菅沼さんに解いてもらいましょうか」
「ハ、ハイ」
麻耶が須藤に指名され、黒板の前にきた。
彼女はチョークを手に取るが、なかなか手が動いてくれない。
普段の彼女ならスラスラと問題を解いていくが、チョークを持ったままの状態でいるため、教室内ではざわめきが起きている。
「菅沼さん? どうしたんですか?」
「ハイ」
須藤が麻耶の肩を叩いて声をかけた。
彼女は静かにチョークを置き、ふと我に返る。
「いえ、ちょっと……ごめんなさい」
「分かりました。席に戻ってください。では代わりに小田切くんお願いします」
「あ、ハイ」
麻耶はしゅんとした表情をして自席に戻り、代わりに指名された小田切が自席から離れた。
その時の彼女の表情は誰も見逃さなかった。
修には確実に心当たりがある。
これは僕が原因なのだと――
理由は現時点では麻耶に何も話していないから。
放課後でも彼女の時間が許されるまで話したいと彼は思っていた。
2026/02/15 本投稿




