#77 見る側と見られる側 その9
「起立! 礼! 着席!」
麻耶の号令で授業が始まった。
先ほどまでの賑やかさはどこへ行ったのかと思われるくらい静かになる教室――
「今から出席を取るから返事しろよー」
鈴村が出席を取っていく中、生徒達はその隙に机の上に教科書やノート、資料集などを急いで出し始めている。
授業開始時は何も置かれていない状態の机は瞬く間にいっぱいになった。
「――よし、全員いるなー。このクラスは欠席者がいなくてとても優秀だ。1年生は後期からが勝負だからなー。今は生徒会役員に殺られないからって浮かれるなよー。浮かれてたらあっという間に殺られるからな。今日は教科書の70ページから始める。資料集も使うから準備しておけよー」
彼が資料集を上に掲げると彼らはギクッとした表情を浮かべる者が数人いる。
「先生。資料集、忘れました!」
女子生徒が素直に資料集を忘れたことを鈴村に報告した。
それに続いて数人忘れたことを告げる。
「他にもいたのか……だったら、隣の者に見せてもらえー」
「すみませーん。ごめん、資料集を使う時だけ見せてもらってもいい?」
「いいよ」
彼は呆れつつ、こう答えると教科書を見ながら黒板に関東地方の地図のようなものを描き始める。
「えー……ここはみんなが知っている浦賀、今でいう神奈川県の横須賀市だな。……黒船に乗ってやってきた人物は誰だ? じゃあ……」
「ハイハイハーイ! ペリーです!」
「正解。まだ指名していないのに、答えるんじゃない!」
まるでコントのように教室内では爆笑の渦に巻き込まれた。
これには修も先輩生徒会役員に監視されているプレッシャーからほんの少しだけ解放される。
しかし、彼の心中では僕だけは確実に指名しないでくれ……と願うばかりだ。
「では、教科書のこの部分を……吉川に読んでもらおうかな」
「ハイ。――」
やはり修は指名されてしまった。
理由は単純なもので、指名なしで答えた男子生徒の左隣の席だから。
修は仕方なく教科書を読み始める。
「――――ハイ、ありがとう。さっき、吉川が読んでくれたところは資料集の90ページに詳しく載っている。持っていない者は隣の者に見せてもらえー」
周囲のクラスメイトが隣同士で資料集を見ており、彼は自分の物を見ていた。
「資料集の90ページと91ページは今度のテストに出すからしっかり印をつけて、確実に覚えておけー」
「先生、どの図ですか?」
「それは教えられないな。テストの問題は他の先生が問題を作るかもしれないし、俺が作るかもしれないからな。確実に覚えておくように! いいな?」
「「ハーイ」」
「「分かりました!」」
鈴村から言われてしまっては仕方がない。
定期試験の問題は1学年の全クラス同じ教師が担当しているとは限らないため、どのような問題を作るのかは分からないのだから――
あくまでもテスト範囲としてなので、彼が作ったとしても、他の教師が作ったとしても生徒達からすると出題されたか否かは実際に問題を見ないと分からないものである。
「次は重要なところだから、しっかり板書するように!」
鈴村は教科書を片手にチョークで関東地方の地図の周りに重要なことを書き込み始めた。
生徒達もそれに倣い、板書を始める。
†
彼は時計を見ると、まもなく授業が終わる時刻が迫っていた。
「――あ、そろそろ授業が終わる時刻になるな。次回も資料集を使うから今日忘れた者は絶対に忘れないように!」
彼らが返事をしたと同時に授業終了を告げるチャイムが鳴り響く。
麻耶の元気な号令で1限目が終わった。
2025/11/27 本投稿




