#73 見る側と見られる側 その5
修のクラス担任である佐藤が教室に駆けつけ、麻耶の号令で朝のショートホームルームが始まった。
「さて、今日は授業変更があります。前回の授業の時に言われたとは思うけど、6限目の音楽は数学Ⅰに変わります。明後日の2限目に数学Ⅰから音楽に変わるので気をつけてね。あとは今日の英語の授業の最初に小テストを行います」
「うわー……」
「突然の小テストかよ」
「今日は外れの日だなぁ……」
「佐藤先生、いつも思っていますが、突然すぎやしませんか?」
突然、佐藤から告げられた小テスト発言に嫌な表情を浮かべている生徒達に対して、彼女はそんな彼らにニコニコ微笑んでいるだけである。
「すぐに終わる問題数だし、100点満点ではなくて何問解けるかだから大丈夫だよ」
「全部で何問ですか?」
「それは授業開始までのお楽しみに!」
それを聞いた修は本当に学校を休めばよかったと思ってしまった。
なぜならば、授業変更はいいとして、先輩生徒会役員に1日密着されることといきなり告知された英語の小テストを避けられたのではないかと思っている。
しかし、彼らからすると「この間は学校を休んだから」といって別日に実施という可能性も少なからずあるかもしれないと推測した。
「今日は本当にツイていないな……」
どうでもいいことかもしれないが、彼は溜め息をつくしかない。
それがたとえ、麻耶が絡んでいろうがいまいが――。
「――というわけでよろしくね」
「「ハーイ」」
「返事は短く、ハキハキとね」
「「ハイ!」」
修には佐藤のテンションにはたまについていけないことがある。
彼女は彼女なりの考えがあるだろうが、今回の小テストの件のように突発的な発言をすることがあるのだ。
そのような場面がある彼女であるが、生徒にはなぜか人気がある。
その話は別の機会に――。
「それでは、朝のホームルームは終わりね」
「起立! 礼! ありがとうございました!」
「「ありがとうございました!」」
ショートホームルーム終了後、佐藤は授業の準備の絡みか速やかに教室をあとにする。
1限目の授業が始まる前の時間、修は慌ただしくお手洗いに駆け込んだため、クラスメイトに笑われる羽目となってしまった。
†
同じ頃、生徒会室では佐藤が教室に入っていく場面を廊下に設置しておいたカメラで捕らえられている。
しかし、そのカメラとモニターは普段は別のところに設置されているものだが、今日のために急遽移動してきたものだ。
「さて、先生がきましたし、ショートホームルームが始まりましたね」
「あれ? さっき号令をかけてた奴さ、入学式の祝辞を読んでなかったか?」
「ああ、確か生徒総会の時に出欠の報告にもきてたかもしれないな」
「あの子、さっきの吉川くんの彼女疑惑の子ですよ!? しかも、彼のクラスメイトで学級委員なんですね!」
「「そうだった!」」
政則の言葉で5人は教室全体を映し出されたモニターにかじりついている。
達也と雄大は記憶を辿っている中で鈴菜が数分前にも修と校門前から追いかけっこをしていた女子生徒だと気がついた。
一方の聡は彼女は誰だろうと思い、政則に座席表を見せてほしいと求める。
「えっと、座席表からすると……その席は菅沼 麻耶さんっていう人の席らしいよ」
「「だからか!!」」
「どこかで見覚えがあったなぁと思ったんだ!」
「どこかで聞いたことがある声だなと思ったんだよ!」
聡が座席表を見せ、麻耶の席に指をさしたせいか、2人の記憶はつながったようだ。
映像は進むのは早いもので、彼らが気がつかない間に小テストの話になっている。
「ところで、修クンの担任の佐藤 美奈先生って突発的に小テストをやらされるのかい!」
「吉川のクラスって何気に鬼畜だよな……」
「美奈先生が担当するクラスは全クラス対象。予告するクラスは担任である吉川くんのクラスだけだと思うよ」
「木沢って美奈先生のこと、詳しいよな。授業を受けたことあるのか?」
「うん。ボクが1年生の頃に受けたことがあるからさ」
「修クンのクラス以上に鬼畜ではないか!?」
「そうだよ。いつも突発的で範囲も問題数も教えてくれない。今年は吉川くんのクラスが犠牲者になっちゃったね。でも彼なら大丈夫じゃない? 教科書もきちんと持ち帰ってるし」
「ま、まあ、そうかもしれないけどな」
「あれ? 修クンが教室からいなくなっているんだが……」
「本当だ。佐藤先生に前回までの授業で分からないことでもあったんですかね?」
いつの間にか教室から姿を消していた修。
彼が教室から戻ってきた時、クラスメイトに『……ごめん。お手洗いに行ってた……』と話していた。
よって、先ほど修が行ってきたところはお手洗いであることが判明。
「「お手洗い、我慢していたのかい!?」」
彼はクラスメイトに笑われている中、モニター画面越しの先輩生徒会役員は何もないところでわざとずっこけてみたりしていたため、生徒会室はカオスな状況を作り上げていた。
2020/08/24 本投稿