#70 見る側と見られる側 その2
同じ頃、修は通い慣れてきた通学路を歩いている時に豪快なくしゃみをしていた。
彼の周りには駅に向かう者や同じ学校の制服を着用した生徒くらいしかいない。
もし、その中に修と同じく生徒会役員が紛れ込んでいたら、相当恥をかかざるを得ない状況である。
「ううっ……誰かが噂をしているかもしれない……」
先輩生徒会役員を相手に恥をかくかクラスメイトに恥をかくか――。
彼はそのようなことを考えているうちに学校が徐々に近づいてくる。
「なんで僕がこんな目に遭わなきゃならないんだ……」
修は浮かない表情をしながら校門を潜った。
なぜならば、昨日、生徒会室で雄大が突然、彼に「試しに修のクラスのカメラをすべて向けてもいいか?」と問われ、有無を言わせることなく、拒否権なしにて実行することになってしまったからである。
「今頃、会長達は面白がって僕の席を探し出してカメラを設置しているだろうな……」
彼がふとそのようなことを口にした時だった。
修の背後から耳に入ってきてもおかしくないくらいの少女の声がするが、彼はその声すら気がつかない。
「――吉川くん、どうしたの?」
「す、菅沼さん!? ど、どうもしないけど!?」
「なんか凄く動揺してる」
「菅沼さんからすると、今の僕はそのように見えたの?」
「そうだよ。少なくとも今は意外と珍しい顔と声をしてる」
「珍しい顔ってどういう顔!?」
「いつもは難しい顔……というか、いつでも表情と口調が変わらないじゃん。だから、珍しいと思うよ。とてつもなくレアな吉川くん!」
「そ、そうなのか……」
その声の主は麻耶。
彼女の声に驚きと動揺を隠せない修。
彼から見た麻耶はあのような性格なのに、突発的でズバ抜けているにも関わらず、よくクラスメイトの表情の変化を逃さないくらい観察力が鋭いと思っている。
今回の修のように――。
彼は彼女の観察力の凄さを心底感心していた。
「吉川くん、あたしの顔を見てもなんにも出てこないからね?」
「よく朝から僕が思っていることを読めるな……」
「何を隠そう! あたしは吉川くんのクラスメイトであり、1年B組の学級委員だからね!」
麻耶は両手を腰にあて、仁王立ちをし、たくさんの一般生徒達の視線集めつつ、このようなことを口にする。
一方の修は彼女の言動はもちろんのこと、先輩生徒会役員の監視を気にしていた。
「菅沼さん、みんなに見られているよ? まあ、そのことは十分承知している。ただ少し感心しているところがあるだけ」
「えーっ、何々!? 教えて教えて!」
「おそらくみんなが気がついていると思うから教えない」
「むーっ……あたしが気がつかないうちにいつもの吉川くんに戻ってるし……」
「ははっ……自分で言うのもなんだけど、僕は意外と表情豊かなのかもしれないな」
「えっ!? 吉川くん、なんて言った? しかも、今度は笑ってる!?」
「特に何も。早くしないと朝のショートホームルームが始まるよ!」
「ちょっと、吉川くーん! 待ってよー!」
彼は冷静になりつつ、麻耶に注意をする。
修は彼女に表情を見せずに、苦笑を浮かべ、疎らになりかけた校門から校舎に向けて走り出すのであった。
2020/04/01 本投稿