#6 入学式と対面式 その2
国歌斉唱を終え、講堂内にいる者は全員着席し、壇上には校長と理事長らしき人物が立っている。
「新入生の呼名を行います。呼ばれた者は返事をし、ご起立ください」
司会進行をしている男性からA組の担任であろう男性に切り替わった。
「平成28年度新入生。1年A組。相野 みう」
「ハイ!」
新入生のトップバッターである1年A組は女子生徒。
彼女は元気よく返事をし、スッと椅子から立ち上がる。
A組の生徒の名前が確実に読み上げられる中、修は佐藤の方を一瞬だけ見た。
彼女は保護者や在校生がいる中で少しだけ口を動かしている。
「…………(佐藤先生はイメージトレーニングでもしているのかな……?)」
彼はその光景を見て、恥ずかしくはないのだろうかと感じていた。
端から見ると変な目で見られる光景だ。
それでも彼女は口を動かし続けている。
†
「――――以上、40名。礼」
彼女らが壇上に向かって礼をし、「着席」と言われ、A組の生徒達は椅子に腰かけた。
そして、男性から少し前まで口を動かしていた佐藤に切り替わる。
「同じくB組。荒木 純」
「ハイ!」
「飯田 彩名」
「ハイ」
ここまで佐藤は順調にノーミスでここまできた。
ついに、修の名前を呼ばれる番となったが、彼女は在校生や彼の両親がいるであろう保護者席を一瞬見る。
「…………(佐藤先生、お願いします! 僕の名前を読み間違えないでください!)」
「吉川 修」
「ハイ」
その時、佐藤は修の名前を読み間違えず、スムーズに次の生徒の呼名を行う。
彼は安堵の息を漏らしていた。
「……(先生、ありがとうございます!)」
このたくさんの人が集っている入学式で名前を呼び間違えていたら、修はずっと恥ずかしい思いをしなければならないと思っていたので、少しばかり嬉しかったのだろう。
「――――菅沼 麻耶」
「ハイ!」
彼が気づいた時には、あっという間に麻耶の番になっていた。
彼女は返事をしたのはいいが、間違えて椅子に腰かけてしまったため、周囲からどよめきが起こる。
麻耶は周囲を見回して「あれ?」という表情を浮かべ、少し顔を赤くしながら再度椅子から立ち上がった。
「――――以上、40名。礼」
佐藤が先ほどのA組の担任と同じように号令をかけ、彼らは椅子に腰かけたのであった。
2016/10/23 本投稿