#66 意識と無意識 その1
しかし、修自身では自ら仮面をつけようと意識していなかった。
それはあくまで周囲の認知だけであり、おそらく彼自身は無意識だと――。
「ちなみに、僕はそのことに意識しているわけではありません」
「修クン、意識しているわけではないとは?」
「それは気になるところだな」
「ボクも」
「私もです」
渡貫と先輩生徒会役員達は複雑そうな表情で修の方を見ていたが、彼は何も動じずに話を続けようとしている。
まるで、どこかで事件が起きてしまい、周囲が騒がしく落ち着かない中、情報を冷静に伝えている目撃者のように――。
「僕は無意識のうちにどこかでスイッチが入ってしまうのかもしれませんね」
「「スイッチ?」」
「ええ。僕の中にある感情なのかどうだかは分かりませんが、あるスイッチです。それは以前、鈴菜先輩が話していたものかもしれませんが」
「私が前に吉川くんに話してたこと……」
「そうです」
修は一瞬だけ周囲から眼を逸らし、鈴菜の方に視線を向けた。
彼女ら以外の役員や渡貫には分からない1対1で話していた会話の内容。
若しくは、あのあと自ら全員に話したかもしれない内容――。
鈴菜はきょとんとしながらもほんの数日前のことを思い出そうとしていた。
「もしかして……「心理学チート」ですか?」
「そう捉えても構いません。あとは……」
「「自分の勘」あるいは「推測」……それらを無意識に……」
彼女は思い出したように言う。
それに続くかのように、政則が答えの続きを口にした。
「それしか考えられないかも!」
「でしょうね」
「って……ま、政則クンは冷静すぎるのでは?」
「そうでしょうか?」
「俺にはそのように感じられる!」
「ごめん。ボクはちょっと混乱してる……」
「い、いずれは分かることじゃないのか?」
「た、多分……ボクは自己解決できる保障はないけど……」
「……保障はない……?」
「高橋くん、達也くん。ボク達は3年生だよ? これから受験だってあるし、生徒会役員の任期満了も確実に近づいているからさ」
「確かにそうだな」
「ああ」
2年生コンビにあっさり答えられてしまったので、残された3年生達は勝ち目がない。
聡が話していたことは事実。
なぜならば、現在は中間テストが終わり、まもなく6月に差しかかろうとしている。
3年生である3人は生徒会役員としての任期は10月の学校祭が終わるまで。
その期間までに修に教えられることはできるだけ教えておいてあげたいと少し焦っているようだ。
「会長達は焦りすぎじゃないですか?」
大幅に話題から逸れてしまっている中、鈴菜はふとそのようなことを口にした。
2019/11/24 本投稿