#61 正解と不正解 その7
「それにしても修クンは凄いなぁ……」
「ここまで予想してくるとは思ってなかったな……」
「そうですねー」
ここまでの修の推測してきたことを先輩役員達はただ呆然と聞いていることしかできなかった。
彼らはそれに対する異論はなさそうに感じられる――。
「ありがとうございます。しかし、さっきのは聡先輩に答えを言われてしまったのですが、僕は後者の「2人のところに連絡を入れた」で推測をしてきましたが……」
「よって、吉川の推理は外れたというわけか?」
「そういうことになりますね」
達也は先ほどの聡が言っていた答えから、導き出されたものから修の推測は不正解だと判定した。
彼の推測はあくまでも予想。
たとえ、修はそれを外したとしても恐れずに整然としているのはそれなりの覚悟をしてきたから――。
「でも、今年度は今回がはじめてだったのにね。ボクが1年生の頃はそこまでしてこなかったから凄いよ!」
「そういえば、私も自分なりに分析とかしてきませんでしたし……」
「確かに」
「そういえば、卒業した先輩とかでいなかったか?」
「んー……俺が知っている限りではいなかったと思うが……」
未だに動揺が収まらない生徒達。
そうこうしているうちに、カチャッと乾いた音を立てながら、生徒会室の扉が開き、渡貫が顔をしかめながら入ってきた。
「こ、ここは生徒会室か? 謎の異空間ではないよな?」
「「わ、渡貫先生!?」」
「なぜ、吉川以外は動揺しているのか分からないのだが……?」
修は最後まで話さないうちに彼が入ってきてしまったため、タイミングが悪いと思っていた。
しかし、彼は表情を崩さずに冷静さを貫こうとしている。
一方、今までどのような経緯だったかどうかが分からない渡貫は他の役員達に訊いてみた。
しかし、彼らは沈黙を貫いている中ではあるが、「あ、あのですね……」と聡が自らゆっくりと口を開く。
「木沢、どうした?」
「吉川くんが少し興味深い話をしてまして……」
「ちょっ……聡先輩?」
「吉川くん、恐いです……」
「聞かせてもらおうか? 吉川の興味深い話を……」
「分かりました。もう1度最初からお話します」
「申し訳ないな」
「いいですよ。お構いなく」
修の目をじっと見て、愉しそうに話しかけてくる渡貫。
彼は一瞬だけ目を離そうとしたが、先輩役員達に話した内容をすべて渡貫に話していく。
「――――――ということです」
「ほう……そういうことか……」
「えっ!? 渡貫先生はもうすでに分かっていたということですか?」
修は先ほどまでつけていた裏の仮面を渡貫によってようやく外され、通常の表情を現した。
その時、彼は渡貫の発言に疑いを持ち、小首を傾げている。
「いや、そうでもない」
「では、どうして……?」
「実は今回のようなことを推測してくる者は俺が知っている限りでは、吉川がはじめてだ。君は正解でも不正解でも恐れずに自分の考えを言ってくる。吉川は実に面白い人間だ」
「吉川くん、渡貫先生が褒めてくれてますよ!」
鈴菜が嬉しそうに修の肩を叩いてきた。
彼は勢い余って肩を叩きまくっている無邪気な彼女の顔を見て、珍しいと思っているが、渡貫の最後に言った台詞に至っては「余計な一言」だと察している模様。
「す、鈴菜先輩? 最後の一言は余計な気がしますが……」
「そうですか?」
「……鈴菜先輩……」
「まぁ、渡貫先生から面白い人間って言われたら、最初はなんのことかは分からないですもんねー」
「は、はは……ぼ、僕がお、面白いだなんて……」
「し、修クン……」
「渡貫先生や鈴菜ちゃんが吉川くんを壊した……」
彼は乾いた声を出しながら、ロボットが壊れたかのように笑い始めた。
一方の雄大達はそんな修と渡貫を哀れな表情で眺めるしかなかったようだった。
「ところで、ここから先の吉川の話が気になるんだけど……」
「私も」
「ボクも」
達也と鈴菜、そして、聡の3人は彼の話の続きを気になっているが、修の状態が落ち着くまでしばらく待機するのであった。
2018/03/31 本投稿