#5 入学式と対面式 その1
講堂にはたくさんの在校生が新入生の入場を今かと待ち望んでいる。
新入生の保護者も我が子の晴れ舞台を一瞬も逃さずに撮ろうとデジタルカメラを準備しているようだ。
一方の新入生はお手洗いなどを済ませ、講堂の外でクラスごと及び、出席番号順に並び、緊張した表情を浮かべている。
「みんな、もうすぐだからね」
修達の担任である佐藤が生徒達をなだめているが、彼女自身も緊張のあまりに声がふるえていた。
彼らは返事をしたり、頷いたりし、暖かな日差しを浴びながら入場のアナウンスが流れることを待っている――。
†
「新入生、入場」
講堂に男性の声のアナウンスが流れ、入場曲に合わせてA組から順番にぞろぞろと入場。
新入生の保護者は入場している我が子の姿を写真や動画に納めている。
最後のE組が椅子の前に立ったタイミングで入場曲が止まった。
「これより、平成28年度入学式を行います。一同、ご起立ください。礼」
講堂にいるすべての人間がそのアナウンスに従っていた。
†
同じ頃、少し離れた放送室らしきところにキッチリと制服を身にまとった男女が1人ずついる。
おそらく彼らは生徒会役員だろう。
「ついに、始まりましたね」
「そうだな」
女子生徒が再生ボタンを押した。
曲を流している間は何もやることがない。
「今年は果たして生徒会役員になる人はいないだろうなぁ……去年は鈴菜クンと政則クンしかいなかったしな」
「言われてみればそうでしたね」
眼鏡をかけた男子生徒が彼女にそう言うと、女子生徒は苦笑しながら答えた。
「話を戻しますが、何を言っているんですか? 少なくとも最低1人はくらいは入ってくれるでしょう?」
「鈴菜クンはそう思うのかい?」
「……それは……補償はできませんが……」
鈴菜と呼ばれた女子生徒が隣に座っている男子生徒と話していた。
「まぁ、入ってくれることを祈りましょう。今の私達にできることはそれしかありません……って、会長!? 曲が終わってしまいますよ」
「鈴菜クンが1回再生にセットしていなかったから、リピート機能をセットし直したから大丈夫」
「いつの間に!」
「俺は生徒会長挨拶があるから、下に降りなきゃ」
「そろそろでしたね……」
「もうE組が入ってるから止める準備をしておいてくれ。それが終わったら対面式の準備を始めてほしい」
「分かりました」
男子生徒が静かに放送室らしきところから講堂へ向かう。
「他の先輩達や木崎くんは準備に入ってるかな……達也先輩がいるから大丈夫だと思うけど……」
鈴菜はE組がそれぞれの椅子に近づいたタイミングを見計らって、入場曲を止めるのであった。
2016/10/20 本投稿
※ Next 2016/10/23 2時頃予約更新にて更新予定。